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師匠にありがとう

 翌朝。

 約束していた時間に人型のフレンは本部へやってきた。


 明るい場所で見るとやっぱりフレンは格好いい普通の男性だ。

 頭の猫のような耳と目つきの悪さのギャップが堪らない。

 挨拶しても睨まれるだけで返してもらえないし、まだ少し怖いけれど。


 光のギルドは巨大なビル4棟から成っている。

 わたしの想像する異世界というのは文明が遅れていて不自由だというイメージがあったのだが、ここはむしろ日本よりも便利な近未来風の場所だ。


 その中の本部棟というビルの1階に依頼を請け負うギルド本部がある。

 ここはいつ来てもたくさんの契約者たちで溢れかえっていた。

 光のギルドは建物の大きさからわかるように、ものすごい人がいるのだ。


 そんな中、わたしとフレンが並んで歩いているとチラチラとこちらを見る視線を感じる。

 色素の薄い彼ら光の人の中にわたしやフレンみたいな髪色の濃い人間がいると、一目瞭然で人種が違うことがわかってしまうらしい。

 要は目立つのだ。


 いつもよりも目立っているのは、わたしとフレンが二人で連れ立って歩いているからなのだろう。

 隣を歩くフレンは周囲にガンを飛ばしながら苛立った様子だ。


 わたし達は数あるカウンターの中から『ペア・チーム登録所』へ向かった。

 その名の通りここでペア登録をするのだ。


 登録、と言ってもただ紙に署名をして提出するだけだった。

 受付の女性がわたし達の銀のブレスレットに情報を登録する。

 ペア登録がされたことで、わたしとフレンはボタンを一つ押すだけで通信することができるようになったらしい。

 使ったことはないけれど、電話みたいな機能もブレスレットに備わっているみたい。

 すごい高性能!


 ペア登録が終わると、早速依頼を見に行く。

 本部にはたくさんの大きな端末が置いてあって、そこから依頼を見ることができ、契約者はその中から選んでエントリーする。

 依頼主がエントリーしてきた契約者を確認して了承すれば、晴れて依頼を受注できる仕組みだ。


 昨日までのわたしはソロでレベル1の依頼という最低限の依頼しか受注できなかった。

 しかも、何度か失敗したことで信頼度も下がり、エントリーしても了承されない事態が続いていたのだ。

 だけど、今日は違う。


 わたしは『ペア』で『レベル3まで』の依頼をくまなく見ていく。

 フレンのレベルが4でわたしのレベルが1なので、ペアとしてのレベルは3になる。

 わたしはフレンのレベルにあやかることができるのだ。


「お前、レベル1なのかよ……」


 ここで初めてわたしのレベルを知ったらしいフレンが眉を潜めて呆れた顔をした。


「大丈夫! 一度でもレベル3の依頼を達成できればレベル2に上がるから!」

「達成できれば、な。失敗すれば俺のレベルも下がるんだから、勘弁してくれ」


 フレンは苦い顔をしている。


「それに、昨日言ったこと、忘れちゃいねェだろうな?」

「使えないと判断すればペア解消」

「そうだ」


 わたしが昨日のフレンの言葉を復唱すると頷かれた。


「俺はお前とペアで上手くやろうっていうつもりはねェ。足引っ張るなら置いていくからな」

「……わかってる」


 最初の任務が肝心だ。

 わたしは気を引き締めて掲示板に目線を戻した。



 いくつかの任務にエントリーすれば後は結果を待つだけだ。

 任務が決まったら、付けているブレスレットに知らせが届くという便利な仕組みになっている。


 用事を終えてギルド本部を出ると、フレンはわたしを置いてさっさと歩いていこうとした。


「フレン、どこ行くの?」


 てっきり任務が決まるまでの間はペア戦闘の練習をするものだと思っていたので、わたしは呼び止めてしまう。


「どこって朝飯だ。まだ食ってなかったからな」

「朝……飯……」


 その言葉を聞いただけでぐーっとお腹が鳴って、わたしはお腹を抑えた。

 ああ、そういえばわたしも朝ご飯食べてない。

 むしろ、夕飯も食べていない。


「わたしも……食べようかな」


 ポチッと銀のブレスレットの真ん中のボタンを押す。

 銀のブレスレットには3つの石がはめ込まれていて、普段はどれも灰色の状態。


 一番左の石はギルド本部からの呼び出し用。

 一番右の石は任意で他人と通信できる電話機能。

 そして真ん中の石は触れると自分のステータスや請け負っている任務、もっているお金を確認することができる画面が現れる。


 そこに表示された残金、ことポイント。


 10ポイント


 ぐぅー


 お腹から再び轟音が聞こえた。


「食べ……られるかな」


 食べることが大好きなわたしにとって死活問題だ。

 確か一番安くて質素な定食でも5ポイントだった。


 それがもう二度しか食べられない。

 任務だっていつ決まるかわからないのに、迂闊にポイントを使うのは躊躇われた。


 ここは恥をしのんでフレンに貸してもらおうか。

 ペアなのだし、わたしが空腹で上手く能力が使えないと困るよ、ね?


 ディスプレイから顔を上げて、


「あの……っ」


 と、声をかけてみる。

 しかし、既にそこにフレンの姿は影も形もなかった。


「く……くっそー!」


 人生も相棒も甘くない!

 仕方なくわたしは2ポイントで買えるビスケットを買いに売店に向かったのだった。




 売店で買えるビスケットで腹ごしらえをした(ちなみに、パサパサな食感を誤魔化すためか、花のような強い香りの味がつけられていて、非常に美味しくない。お腹には溜まる)後、わたしは一人で訓練室にこもって能力を扱う練習をしていた。


 次の依頼は失敗できない。

 フレンに使えるやつだとわかってもらえなければ、ペアを解消されてしまうから。


 ペアを解消されては、今まで通りごはんも食べられない生活に戻ってしまう。

 今のわたしではまだ一人で何もできないから。


 後がないのだから、と気合を入れて練習するも、思うように能力が扱えずすぐに疲れてしまう。

 わたしは訓練室の外のベンチに座って無料で飲める水を飲みながら休んでいた。


 早い内に依頼が決まるといいのだけど。

 そうしないと、お金が尽きてしまうから。


「アキ」


 名前を呼ばれてノロノロと顔を上げると、そこには色素が薄いせいで透き通っているかのように見える光の人が立っていた。

 光の人で私に親しげに声をかけてくれる人は一人しかいない。


「ノイシュ」


「聞いたよ、アキ。フレンとペアを組むことに成功したんだって?」


 ノイシュは僅かに微笑みながらわたしの隣に座った。


「ノイシュのおかげだよ~! ありがとう! だけど、一回限りのお試しなの。初めての依頼で失敗したらペアを解消されちゃう」

「そうか、上手くいくといいね」


 「アキなら大丈夫」とは言ってくれなかった。

 それは、ノイシュがわたしの今の能力の扱いを一番よく知っているだからだ。


「訓練の調子はどう?」

「相変わらずあまり……。フレンには勝てたんだけどね」

「へぇ。どうやって?」

「それも偶然だったの。フレンに触れて浮かせようと思って離れたところから突っ込んだら、勢い余ってタックルする形になっちゃってね。それでフレンが木に頭をぶつけて気絶したの」

「勝負にに勝てたことは誇っていい。どんな形であってもね」

「ありがと」


 次に勝負をしたら絶対に勝てないだろう。

 フレンがわたしの能力を知らなかったがために、不意打ちで勝てたのだから。

 そういう勝利だけに素直に喜べないので、わたしは肩をすくめてお礼を言った。


「ラッキーで勝てたもノイシュのおかげだね。わたしに能力の扱いを教えてくれたから」

「それはこの能力を持つ俺の仕事だから気にすることはない」


 ノイシュの能力はコピーで、触れさえすればわたしの能力を使えるので、それを使って度々指導をしてもらっていた。

 いわば師匠とも言える存在だ。


 そういう繋がりで、わたしはノイシュとも時々会えば話をしている。

 ノイシュはわたしを人種で差別したりもしないから。


「アキをここへ連れてきた犯人をなかなか見つけられなくてごめんね」

「ううん、調査してくれてるだけありがたいよ。ノイシュだって忙しいんでしょ?」

「まぁね」


 ノイシュは苦笑いを浮かべる。


 あとから知ったことだけれど、ノイシュは光のギルドで有名人だった。

 ギルド最強にあと一歩のレベルだもっぱらの評価で、滅多に会うことのできないギルドマスターにも何度も会っているらしい。


 光のギルドの人はペアを組むくらい信頼し合う相手にしか能力を明かさないのでノイシュの能力は知られていない。

 わたしはここに来た経緯から知ったけれど、ノイシュの能力は便利だから、五星に次ぐ実力者というのもわかる気がした。


 そんな実力者がわたし一人の調査ばかりに時間を割いてもいられないのは明白だった。


「何かわかったらすぐに知らせるからね」

「ありがとう」


 今のわたしはノイシュだけに頼らず、自分でできることをするだけ。

 レベルを上げて自力で日本に帰るのだ。


「フレンには俺のことは言っていないだろうね?」

「うん。ノイシュが言っちゃダメって言うから」

「それでいい。フレンは俺のことを聞いたらペアを組んではくれなかっただろうからね」

「フレンがこの世界の人間を憎んでいるから?」

「そうだ」


 ノイシュは肯定する。

 日本人のわたしとも頑なにペアを組もうとしなかったし、人間自体を憎んでいるのかもしれない。

 そこまで憎んでいるなんて、過去に何があったのだろう。


 ピピピ


 突然電子音が鳴って驚いた。

 わたしの左腕を見ると、ブレスレットにはめ込まれている左の石がオレンジ色に点滅している。


「早速仕事が決まったみたいだな」

「エントリーした依頼が決まったってこと!?」

「そうだ。ギルド本部へ行ってみるといい」

「わかった!」


 今日来るとは思っていなかった。

 記念すべきわたしのペア初任務だ。


「じゃあ、行ってくる、ノイシュ!」

「成功を祈るよ」

「ありがとう」


 わたしはノイシュに別れを告げて、ギルド本部へ向けて駆け出した。


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