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必死な初戦闘

 とにかく浮くことしか能がないわたしは、必死に飛び回ってフレンさんの攻撃を避ける。

 フレンさんは飛ぶことはできないようで宙に浮いてさえすれば触れられることはなさそうだ。

 そんなフレンさんも爪ではわたしに届かないと判断したのか、今度は口の中で炎を作って吐き出した。


「きゃあ!?」


 それもなんとか避けられたが、フレンさんは攻撃の手を緩めることなく、炎を吐き続ける。


(炎吐けるの!? そんなの聞いてないよ!)


 ふわふわと浮いて炎を避けるが、何度も火傷しそうなくらいの熱さを皮膚に感じた。

 炎ばかりに気を取られて地面の方に避けてしまうと、フレンさんの攻撃範囲に入って鋭い爪を向けられる。

 どうにか避けるけれど、続けて炎を吐かれて、の繰り返しだ。


(まずい、このままじゃ勝ち目がない──)


 そもそもわたしは浮くことしかできないので、どう攻撃したらいいのかさっぱりだ。

 だけど、このまま引き下がるつもりもなかった。


(そうだ、フレンさんを浮かせられないかな?)


 フレンさんを浮かせて驚かせれば戦意も喪失するかもしれない。

 少なくとも近づいてきて爪を立てられる心配はなくなるし、話を聞いてもらえる可能性だってある。


 今のわたしはようやく自分を無重力状態にすることに慣れてきたところで、自分以外の他者を浮かせることは絶賛練習中だ。

 できるかわからない。

 だけど、それに賭けてみるしかないと思った。


「よし!」


 わたしは近くの木の枝の上に着地した。

 現時点では一つのものしか浮かせられないので、自分が浮いていてはフレンさんを浮かせることができないのだ。


 フレンさんに向けて手をかざす。

 浮け、浮けと念じながら。


 しかし、わたしは異能初心者。

 そう上手くいかない。

 実戦闘なんて初めてだし、フレンさんの炎を避けるために能力を使ってきたことで、集中力も切れはじめていた。


 そうしてまごまごしている内に、フレンさんの放つ炎が再びわたしに向かってくる。


「ダメだ!」


 わたしはもう一度自分を浮かす方に切り替えて飛び上がって炎を避けた。


「ちっ! ちょこまかと!」


 地面にいるフレンさんは相当苛立っている様子だ。

 この調子でフレンさんの炎が出なくなったらいいと思うのだけど、そうもいかないみたい。

 次々と炎を吐き出してくる。


 それを辛うじて避けながら、そうだ、とまた次の案を思いつく。

 フレンさんに直接触れよう。


 練習でわたしは触れたものの方がより浮かせられる可能性が高いとわかっている。

 触れることができたなら、フレンさんを無重力状態にできるかもしれない。

 近づけばフレンさんの鋭い爪の餌食になる可能性があるってことはわかっている。

 それでも、このまま時間が過ぎてはわたしが不利になるだけだ。


「よし!」


 そうと決まれば早速実行。

 わたしはフレンさんの近くの地面に向けて急降下する。

 フレンさんもわたしが何か仕掛けて来ることがわかったのだろう。

 炎を放つのをやめ、避けようとする。


(このままじゃ避けられる──)


 そう思ったわたしは咄嗟に自分の重力ポイントをフレンさん自身に設定した。

 この世界の重力を無視して、フレンさんに引き寄せられるように。

 そうすれば、フレンさんがどこに逃げようとも触れることができるはずだ。


 設定を完了させて、わたしの無重力を解くと──


「うわぁぁぁ!」


 わたしは思っていた以上のスピードでフレンさんに近づいていく。

 このままじゃ触れるどころかぶつかってしまう。


 だけど、その重力の大きさの制御がわたしにはまだできなくて、どうすることもできなかった。


「は!?」


 驚きに目を見開いたフレンさんの顔が一瞬見えた気がした時には、わたしはフレンさんの身体に思い切り体当たりしていた。


「くっ!」


 フレンさんも踏ん張ってはくれたが、踏ん張りきれない程のスピードがあったらしい。

 そのまま近くの木に頭から激突した。


「いたたたた……」


 ようやく重力を解除できたわたしは自分の手足と身体を確認する。

 どうやら折れていない模様、ちゃんと動く。

 フレンさんは、と見ると、木に頭をぶつけて気絶していた。


「きゃー! どうしよう、医者!?」


 フレンさんを倒すために戦っていたけれど、ここまでするつもりはなかったんです!

 心の中で言い訳をしながら、わたしはオロオロと辺りを見回した。




 わたしはフレンさんを膝枕しながら目覚めるのを待っている。


 フレンさんの頭にできているたんこぶを見て、血が出ていないことと息も安定していることを確認してから、ハンカチを近くの川で濡らして後頭部に当てている。


 医者を呼ぼうかとも思ったのだけれど、それにもお金がかかる。

 申し訳ないが、わたしにはそんなお金もなかったのだ。


「それにしても……」


 わたしはそっとふわふわなフレンさんの赤茶色の毛並みを撫でる。

 見た目よりもごわごわしていなくて、触り心地がとてもいい。


 先程までライオンみたいだと怖がっていたのに、こうして眠っていると大きな猫を抱いているかのようで可愛く思えてくる。

 つい表情がニヤニヤと緩んでしまうのは仕方のないことだ。


 フレンさんのふわふわとした毛をひたすら撫で続けながら考える。

 わたしのペアの誘いを断ったフレンさん。

 ノイシュの言った通りとても強かった。

 ぜひともペアを組んでいただきたい。


 今回はラッキーで倒すことができたけれど、ペアになってくれるように説得することはできるのだろうか。


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