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上手くいかない異世界生活

 異世界転移。

 わたしは小説やアニメでそういう設定のものが好きだった。


 望まれて召喚され勇者になったり、たくさんの素敵な出会いがあってのんびりと暮らしたり。


 そんないいイメージがあったから、自分が異世界転移したと気がついた時、驚きと同時に少し嬉しくもあったんだ。

 それなのに……どうしてこうなった!?


 ぐうぅぅぅ


 お腹が轟音をあげる。


「お腹、空いたなぁ……」



 わたしがこの世界にやってきたのは今から約3ヶ月前のことだ。


 大学受験が近づいてきた高校2年1月のある日。

 すぐに忘れてしまうであろう何の変哲もない普通の日を過ごし、いつも通り家のベッドで眠った。

 そのはずなのに、目覚めたらまるで手術室かのような真っ白い部屋にいて、固い台の上に手足を拘束された状態で寝かされていた。


 意味がわからずパニック状態だったわたしに対応してくれたのが、ノイシュという男だ。

 僅かに紫がかった銀色の前髪は長く、薄い水色の瞳を半分隠しているが、それでもその男が酷く美しいことがわかる。


 栄養状態を気にしてしまうほどの白い肌と尖った耳を持っているノイシュは見た目からして日本人でないことは明らかだった。

 背も日本の成人男性よりも高く、下手したら190センチあるんじゃないかと思うほど。


 後で知ったことだが、髪と瞳の色素が薄いことも含めてこれらの特徴は「光の人」という、わたしが転移してきた国の大半を占める人種の特徴なのだった。



 初めは言葉も通じなかったが、ノイシュがわたしの腕に銀のブレスレットをはめてからは、お互いに意志疎通が図れるようになった。


 ノイシュは根気よくわたしの話に付き合ってくれた。

 不審者として捕らえられたらしいわたしは長野亜希子(ながのあきこ)という名前の日本の女子高生だということ、家にいたはずなのに、何故ここにいるのかわからないこと。


 わたしの話を疑うことなく聞き入れてくれたノイシュは、まずこの国のことを説明してくれた。

 この世界は光と闇、そして中立という何ともな名称の3つの国に分けられている。

 その名の通りというか光の国と闇の国は長い間、戦闘状態が続いているらしい。


 わたしが拾われた組織は『光のギルド』。

 依頼を受けて戦う光の国の戦闘集団。

 その本部の近くでわたしが倒れていて、不審者として回収されたらしい。


 光のギルドに所属する人間はここで様々な任務を請け負って生計を立てる。

 任務をこなす毎にレベルが上っていくという、ゲームかのようなシステムになっているらしい。


「アキは何者かの手によってこの世界に転移させられたんだろうね」


 ノイシュは淡々とそう告げる。

 「やっぱり」と思った。

 だって、光の国だなんて国名聞いたことがないし、ノイシュみたいな尖った耳の人も映画くらいでしか見たことがない。

 「異世界だ」と考える方が自然だったから。


 ちなみに「アキコ」というのはこの世界の人にとって発音しずらいみたいなので、ノイシュには「アキ」と呼んでもらうことにした。

 友達からもそう呼ばれているので違和感はない。


「どうしたら日本に帰れるの?」


 この国には敬語という概念がないらしいので、わたしはノイシュに気軽な口調で尋ねる。


「それは俺には言えない。守秘義務というものがあるからね」

「えぇぇ!?」


 わたしは言ってみたら被害者なのに、何も教えてもらえないというのは理不尽だ。

 口を尖らせて抗議の声を挙げるとノイシュは困った様子で謝ってから、


「アキが光のギルドの契約者となって、レベルを上げたら言えるようになる。レベル30を目指すんだ」


 と、まるでゲームのチュートリアルのようなことを言い始めた。


「それに、レベル30まで上がればギルドマスターに会える機会ができる。詳しくは言えないけれど、ギルドマスターに会うことで元の世界に帰れると思うよ」


 ギルドマスターとは光のギルドをまとめている人らしい。

 わからないことばかりだけど、とにかくレベル30に上がれば日本に帰れるって理解していいみたい。


「レベルって……どうやって上げるの?」

「任務をこなせばいい」

「任務ってどんな? わたし、戦えないよ?」


 光の国の戦闘集団、ということは戦える人材が揃ったギルドなのだろう。

 だけど、わたしは戦うどころか体育の成績も5段階評価で2(しかも、大学の推薦をもらうためにオマケしてもらった2)という運動音痴なのだ。

 訓練したところで戦える気がしない。


 困惑しているとノイシュが、


「触れても?」


 と、言いながらわたしに白い手を伸ばす。


「この世界ではほとんどの人間が特殊な能力を持っている。アキからも力を感じる」

「能力って……魔法とかそういう? わたしが? 嘘でしょ?」

「本当だ。俺の能力は最後に触れた相手の能力を一時的に使えるようになるものだ。だから、触れて確かめてみたい」

「わかった」


 どうせ何も起こらないと思っていたのに、わたしの手に優しく触れたノイシュは目を丸くした。


「驚いた」

「え?」


 ノイシュがわたしに向けて手をかざすと、身体がふわりと宙に浮く。


「え、えぇ!? 何!?」

「アキ。君の能力はすごい。重力を操れる能力だ」

「重力、を?」

「下手したらこの世界を滅ぼしかねない強い能力だ。これならレベル上げも順調にできるだろう」

「本当!?」


 絶望しかけたけれど、思わぬ希望が舞い込んできた。

 この日本人のわたしが、異世界にやってきたことでチートな能力を手に入れたのだ!

 なんて物語みたいな展開なのでしょう!


 それならば、と、わたしは光のギルドの契約者登録をした。

 契約者となることで、光のギルドで依頼を受けられるようになるのだ。


 被害者であるわたしがすぐに日本に帰れないのは不本意この上ない。

 だけど、少しだけワクワクしている自分もいたのだ。

 今まで生きてきた世界を飛び出して、チートな能力までもらえて、新しい生活が待っている。

 楽しいことがあるんじゃないかって。

 ついでに、食べることが大好きなわたしは、異世界ご飯が気になっていたりもして。


 それに、ノイシュはわたしをこの世界に転移させた犯人を独自に調査すると約束してくれた。

 わたしがレベル30になるよりも先に犯人が見つかれば、日本に帰してもらえるかもしれないから。


 順調に事が進んでいく予感がした。

 これならば、時を置かずに日本に帰ることができるかもしれない、と。


 ……そんな風に思っていた時期もありました。


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