#07成長するキミへ
・釘をさす
翌朝、いつものように遅めの朝食をとりにキッチンへ行くと、母が不機嫌そうにテレビを見ていた。テレビでは相変わらず脱走したショットガンブラザーズの緑色とヒーロー・カタガネの話をやっている。
「カタガネヒーローが昨日、電気屋さんの前で悪いのやっつけた話もちゃんとやりなさいよ。ねえ?」
ボクは「ああ、うん。」とあいまいな返事をしておいた。トースターで焼いたパンが冷めている。ウチの母は、なぜか人数分先にパンを焼く。焦げ目のついた冷めた食パンに、バターを塗ると、案の定、まったく延びない。いつものようにある程度であきらめてぼうっとテレビを見る。依然ボクをけなしていた、元検事の弁護士「広江三郎」が詳しい専門家としてコメントを求められた。
「以前、私はヒーロー・カタガネを批判しましたが、現段階でこのヒーローの置かれる状況は変化しています。現在、彼はG6の正式なヒーローとして登録されている事が確認しておりまして、取材したところ…あまり報道されていないのですが、葛飾自動車学校で起きた立てこもり事件などでは警察と連携をとって、極めて穏便に事件を解決している。今回、争点になっている脱走したヴィランによる事件ですが、彼には一切落ち度がない。落ち度があるとしたら逃がした警察ですよね?その警察が結果的に逃がしたのは、様々なパワーを持つヴィランの護送や収監に対処し切れていない警察や法務省の実務上のルールが、ここ数年、進歩していない事です。例えば『護送中はヒーローに同行を要請する』とか、『ヴィラン犯罪対策の進んだアメリカの刑務所のシステムを見習う』とか色々出来る事はありますね。当然、法律を作るのは国会のはずですが、『首相が自腹で高級なそばを食べた』話で1週間も議論して市民の安全が守れるのでしょうか?甚だ疑問です。それでも警察は動き出していますよ、対ヴィラン用の装備を強化していると先日発表がありました。安全な生活をヒーローだけに守らせている現状に問題があるのです。ヒーロー・カタガネは悪くありませんよ。」
母はそれを聞いて。「首相だってたまにはおそば食べたいもんね。」と良く分からない独り言を言ってる。
「そばゆでようか?」
「今、パン食べたよ。」
母はボクを怪訝な眼で見ている。
「あんた、また風邪ひいた?」
「ひいてないよ?」
「声が高くなった気がする。」
ボクは「そんなことないとおもうんだけどな」と言いながら、学校に行く準備を始めた。
・出る釘を打つ
「広江さん打ち合わせ聞いてなかったんですか!?困りますよォ!?」
番組のディレクターらしき人間が詰め寄る。情報番組のCM中だ。他の出演者は我関せずといった表情で、CM明けのために台本を確認している。喚くディレクターの後ろから別のもっと偉そうな人間が出てくる。サングラスをかけている。
「広江サン、アンタなんか勘違いしてないか?」
「何がですかね?」
「本番10秒前でーす」と言う声がかかる。サングラスの男は広江のひじを掴んで、スタジオの隅へ連れて行った。
「アンタの代わりなんて幾らでも居るんだよ!」
「そうでしょうか?」
サングラスはキレた。広江をさらに奥へ引っ張っていく。
「オイ、偉くなったなァ!」
「いやあ、コンドーさんほどじゃないですよ。その地位、失ってみますか?」
「コンドーさん」と呼ばれたサングラスは「へ?」と何を言われたか理解出来ていないようだ。後ろからさらにお偉いさんが二名ほど「広江!近藤!どういうことだ!?」とやってくる。
「丁度宜しい。」
三人は無言で殴り合いを始めた。広江がカメラマンの肩をポンと叩くと、カメラマンはその様子を映し始める。
「ええ!?バカ、カメラ切り替えろ!」
しかし、切り替わらない。お茶の間にテレビマン3人の殴り合いが放送され続けている。
「ちょっと、私、この番組の方針についていけないので本日限りでやめさせていただきます。」
広江はカメラに映りこむと、そう一言残してスタジオを去っていった。丁度、制作部長のストライプのカッターシャツが裂けるところでやっとCMに切り替わった。
・ああ昼休み
ボクはそんな事件がテレビで放送されていたなんてまったく知らず、知ったのは学校の昼休みにSNSを見てからだった。ネット中、その話題で持ちきりでG6のアプリを覗いても調査が始まるかもしれないという程度の話だった。そして、そのタイミングでG6から出動要請が出た。同時に10箇所近くだ。全てコンビニATMへの襲撃だ。
「ここ近いな!」
アプリのボタンを押して、自分がその場所に急行する事をG6に伝える。学校の教室を出ると、トイレの個室で服を脱ぎ、スーツ姿になるとトイレの窓から飛び降りた。結局、着地する瞬間だけ世界がスローになっていればいいのだ。それでも、タイミングを間違えると痛い目(多分、死に目)を見るので、少し速めにパワーを使う。
「よし!」
急に空から降ってきたヒーローに通行人がどよめくが、あまりゆっくり手を振っているわけにはいかない。現場へ急行する。パトカーのサイレンの音が聞こえる。ボクは決して移動を得意とするヒーローと言うわけではないので連続してパワーを使うより、パトカーに乗ったほうが多分早い。走行中のパトカーの後部座席に普通に乗り込む。
「ええ!?」
「急に乗り込んで失礼していますが、あまり驚かないで下さい。」
こうした動作は全て、G6のシミュレーションルームで訓練したものだ。G6のシミュレーションルームも優秀だが、G6のヒーローたちが集まると、「パワーを使って何が出来るか」という話がどんどん出てくる。皆がそうして生き残ってきたからだ。
「手錠、お借りできますか?ボク、手錠と相性がいいんですよ。」
「本官のでよければ。」
G6と警察の関係は悪くない。ちなみに拳銃は貸りてはいけないルールがなんとなくある。事件現場の通りに差し掛かると、だいぶ巨体のヴィランがATMを抱えている。
「手錠返します。あの腕じゃダメだ…」
すでに警察の発砲が始まっているが、まったく意に介さない様子だ。ボクの苦手な「重くて、でかくて、頑丈な」タイプだ。しかし、やりようがないわけではない。最悪、他のヒーローの到着まで、この場を「もたせれば」いいだけだ。携帯で一報入れる。
「こちらカタガネ。ヴィランはデカブツ、3mぐらいあります。」
「了解。」
パトカーが止まる前に車を降りた。こういうデカブツ相手はチクチクやるのが効果的だ。おあつらえ向きにでかい紐靴を履いている。
(先ずはアイツから!)
速くて器用なボクはヴィランの靴の紐を結んでしまう事ぐらい朝飯前だ。ただし、細かくパワーをオンオフして少しずつやることになる。
「無駄ァ無駄ァ!ニューナンブなんぞ痛くもかゆくもない!」
そういっている足元で僕は普通に靴紐を結び付けていた。左右の靴紐を1回ほどいて連結する。
「あれ?オマエ何してる?いつからいた?」
巨漢がやっと僕に気づいた。
「結構前から居ましたよ?」
ヴィランが焦って動こうとすると、狙い通り、足をとられて引きちぎって抱えていたATMごと倒れた。打撃で倒す必要はないのだ。そのままパワーを入り切りしながら、コンビニに入店する。焼肉のたれのボトルを数本掴むと、外で倒れているヴィランの鼻の穴に注ぎ込む。
「うへぇ!ゲホッ!ゲホッ!」
抱えていたATMを手離して、腕を振り回すが、目を閉じて振り回したところで、ボクには当たらない。
「こいつ指だったら手錠かかるな。」
警察に手錠を借りると、両手の親指同士で手錠をかける。
「ハナがァ…鼻が痛いよォ…」
ボクも少しやりすぎたかと思うが、コンビニの店長にホースを借りて鼻の中を洗ってやる事にした。
「オエェェェ!!エホッ!ゲホッ!かたじけねェ…」
完全に戦意喪失だ。ボクはG6から配給されているカードで焼肉のたれの代金を支払うというと、店長さんは辞退した。
「いえ、それぐらいいつでも持ってってください。」
そして肉まんを貰う。昼休み、ご飯を食べ損ねていたので助かった。
「こういう悪いコトするの、初めてですか?」
倒れているヴィランに話しかけた。鼻水と涙を流しながら頷いている。
「しっかり反省して、謝ったら、刑軽くなるかもしれないですから。」
デカブツは信じられないという顔をしてボクを見ている。案外若いのかもしれない。
「G6はアナタより身長がでかいヤツも、顔が怖いヤツもいますんで。」
ハンマーヘッドから聞いた話だ。体がデカくなるにつれて社会からだんだん追い出されて行ったと言う。
「…彼女も出来るかも。」
ハンマーヘッドに彼女は居ない。そしてボクにもいない。でも、そういうとまたデカブツは泣き出した。ボクはそいつのでかい背中をポンポンと叩いて、警察に引き渡した。
・長い日へ
警官の一人が焦ってが話しかけてきた。
「まだヒーローが到着してない現場があるんです!警察が包囲中ですが、人質をとって…」
「場所を教えてください!」
そちらへ向かおうとしたらコンビニの店長さんが呼び止めた。
「あなたを批難する声に耳を傾けないで!あなたは立派なヒーローです。」
ボクはなんだか照れくさくて、会釈だけしてその場を立ち去った。
焦げ目のついた冷めた食パンに、バターを塗る
なんかバターに焦げ目が巻き込まれて、消しゴムのカスっぽくなりますよね。今回は食べ物ワード多い回です。
焼肉のたれ
焼肉のたれは無いけど、ドレッシングが他所に入ったらやばかった




