それってストーキング?
『高木書店』と書かれている本屋で華は先ほど徳さんを怒らせ帰っていった佐々木に声を書かけられた。
「先程は失礼しました。」
真剣な顔でこちらに謝罪してきた。
なんでこの人がここに?偶然?それとも...。
「さっきは店主に失礼な事を言ってしまい怒らせてしまった。しかも君や周りのお客さんにも迷惑をかけてしまって申し訳なくも思う。本当に悪かったね。」
佐々木は深々と頭を下げてきた。
「いえ。私は大丈夫です。なので頭を上げてください。」
華は急かすように佐々木の約70度折れ曲がっている上半身を戻させた。
生憎今は周りに人はいなかった。けれどこんな所他の人に見られたらと思うと何か勘違いされるかもしれない。だから早く頭を上げて欲しかった。
ようやく佐々木は頭を上げた。
「本当に悪いね。」そう一言言って去ろうとした。
「あ、あのひとつ聞いていいですか?」華はひとつ聞きたいことがあった。
「はい何でしょう?」
「徳さんに何を言ったのか聞いてもいいですか?」華は単刀直入に聞いた。
徳さんは何でもないと誤魔化していた。明日聞いても教えてくれないだろう。なら問題の張本人に聞くしかない。
「実は先代のことを少しね。悪いけどこれ以上言えないかな。」
佐々木は勿体ぶるよう言い方をしてきた。おそらくこれ以上聞いても教えてくれないだろう。
でも徳さんがあんなに怒ることって一体なんだろう。
ふと考えると佐々木は1歩こちらへ歩んできて質問してきた。
「君あそこで働いて1ヶ月だと聞いたよ。今聞くのは野暮かもしれないけど君はあそこの店のスープのこと知ってるのかな?」
もしかしてそれを私に聞くためにつけてきたの?華は佐々木に疑いの目を向ける。
それもそうだ、ここで出会ったのも偶然が過ぎる。
やっぱり私にスープの秘密を聞き出そうとしているのだろう。
「……。失礼します。」
会釈して急いで佐々木の元から離れる。その瞬間
「あの店のスープは元は気を付けた方が良いと思うね。」
佐々木は一言つぶやいた。華は一言一句聞き逃すことはなかったが、佐々木が何を言っている意味が分からなかった。いかにも佐々木はスープの秘密に気付いているような言い回しのような気がする。
まさか竜之介のことを知っている?それでも佐々木に知っているような素振りを悟られないようにすぐに本屋に逃げた。
「華。外で誰かと話してた?」
「うん。ちょっとね。」
店内で華は佐々木とは別な男と話していた。
男と言っても同じ高校に通っているクラスメイト。名前は高木紀人。身長は180センチほどと高く容姿も悪くない。何人かに告白された経験もあるという。この本屋の店長の息子で嫌々店番をさせられるという。紀人も本は読むのだが、どちらかというと漫画やライトノベルといったジャンルが好きなようだ。
そんなモテ男と店内で話していた。華とは小学校の頃からの中でいわゆる幼馴染というやつだ。ここに来るとき店番している紀人とよく話すのだ。
紀人に軽く事情を話すと
「なるほどね。確かにつけられたんじゃないかな。」
「そうだよねー。さすがに怖いよ。」
「記者って特ダネを探しているからストーキングは当たり前ってきいたことがあるよ。」
紀人はどこがソースか知らない情報を話す。でも偶然じゃないだろうし……。
華は少し不安がっている様子に気付いたのか、紀人は
「まぁ店内に入ってこないところから見ると深入りはしてこないんじゃないか?」
「うん……。そうだね。話聞いてくれてありがと。」
「ま。何かあれば連絡くれや。」
「いや。そういうのもう誤解されたくないから極力やめたい。」
「えー。」と笑いながら紀人はすねる。
いつもこんなやり取りをしている。華たちにはいつものことだが、中学生時代には付き合っているとか噂され、ひどい目にあった経験がある。
一応補足するが、私たちは付き合ってません。仲の良い友達です!!
「じゃあこれな。」
紀人は華の目的の品を持ってきて袋に入れる。その時、面白いと思ったタイトルが見えたのだ。そのタイトルは
『豚の主の飼い方』
「まぁ。読んで面白かったら、貸してくれや。」
「うん。じゃあね。」
華は軽く手を振って書店から帰って行った。
帰路には佐々木の姿がなくて安心したのだった。