秘密の追及
「じゃあ店主。今日の取材はこの店のスープの秘密を聞かせてもらってもよろしいですか?」
インタビューの内容はうちの店では決して公言できないことから始まった。
「……佐々木さん。前にも言いましたが、スープに関しては店の秘密なのでお答えできませんよ。」
徳さんは案の上スープの秘密については答えなかった。まぁ「うちの店ではしゃべる豚を使っています。」なんて言えるはずもなく、それでも嘘をつくこともしなかった。
取材に来た佐々木はその答えを知っていたかのように話を続ける。
「まぁね。確かに前に来た時も聞けませんでした。確かにほかの店もレシピなどについては語らない人もいます。ですが我々記者もそれを聞き出すのが仕事なのです。」
佐々木は苦笑いしながら仕事のことについて話した。
「じゃあ話を変えてこの子は?前来た時はいませんでしたが。」
「えぇ。新しく入ってもらったバイトの子です。昔からの常連の子なんですが、バイトをして欲しいと私から頼んだんです。」
徳さんがそう言うと佐々木は華の方に体を向け
「よろしくね。名前を伺っても?」
「はい。水梨と言います。」
「へー可愛いらしいね。高校生かな。いいね。若いって。」
佐々木は笑って話をしてきた。華は愛想笑いをした。正直、どう答えたらいいか分から笑みをうかべるしかできなかった。
それに助け舟を出してくれたかのように食券を持ったお客さんから「すみません。」と言われたので、ぺこりと会釈して1度2人の元から離れた。
お客さんから食券を預かり、席を案内して水を渡す。いつもの流れだ。そして丁度帰る男の人がいたので食器を片付けた。その時だった。食器を流しへ持っていこうとした時突然、
「ふざけるな!!」
男の人の大声が店内に響き渡った。声の主は徳さんだ。華は驚きのあまり小さく震えてしまった。今までこんなにも徳さんが声を荒らげて怒ったところをみたことがなかったからだ。
驚いたのは華だけではなく、店内にいたすべての客が徳さんの方に視線を向けていた。それに気づいた徳さんは「失礼しました。」と謝罪をした。
「今日はこれ以上取材できる雰囲気ではなさそうですね。失礼します。」
そう言って佐々木は席を立ってそそくさと帰って行った。
「ありがとうございました。」
佐々木が帰って行ったあとは通常営業だった。昼の営業の最後の客が帰って行った。店内に客がいなくなったところで食器を片づけてテーブルをふきんで拭いた。
「さっきはごめんね。華ちゃん。」
「いえ。……ところでさっき佐々木さんに何を言われたんですか?」
「いや大したことではなかったよ。ほんとごめん。」
今日の食器は徳さんが洗うと言ってくれた。「今日はもう上がっていいよ。」そういわれたので竜之介には会わずに、一度着替えて先に失礼することにした。
「聞きたかったけど、今日は無理そうだったよな。」
今日は早く上がれたので、いつも行く本屋に行くことにした。今日は新刊でおもしろいタイトルのSF小説の発売日だった。
徒歩で15分ほど『高木書店』とかかれている本屋に到着した。ここは学校の帰り道でもあり週一くらいで訪れる場所だ。店内へ入ろうとしたとき後ろから話しかけられた。
「さっきはどうも。」
華は後ろをうしろを振り向くと記者の佐々木の姿があった。