ダイエット
しゃべる豚との出会いからが起きてから1ヶ月がたった。回想はここまでです。ご清聴ありがとうございました。
華はラーメンを食べ終わり店内のテーブルをふきんで綺麗にした。この1カ月でバイトの仕事で1日の流れというものができた。
まず昼前に来て賄いのラーメンを食べる。スープの正体を知った時は食べる気が失せたが、作る工程をみて問題なさそうと判断した。
徳さんから「無理して食べなくてもいいよ。」と言われたが、「問題なさそうなので食べれます。」そう言って食べた。
いつも通りの味で完食できた。スープを飲もうとして一瞬固まったが一口飲めばあとは気持ちよく飲めたのだ。
ラーメンを食べながら要は先入観の問題なんだろうなと考えていた。外国では虫を食べる人もいるし逆に牛は神様だから食べることは出来ない人もいる。人は今いる環境、先入観で生きているんだと真面目に考察した。
賄いを食べたあとはバイトを始める。2週目ぐらいから仕事をほぼ完璧に覚えることが出来た。元々メニューは少ないし、食券方式なので勘定がないため仕事を覚えてしまえばほぼワンパターンな仕事だった。
仕事が終わると小一時間ほど製麺所に入り、竜之介とお話する時間を作った。「毎回来なくてもいいんだよ。」と徳さんは言っていたが、何回か会って話をしていたらもう友達になっていた。友達と話すのは別に仕事じゃないし密かに楽しみでもある。
最も竜之介はまだ私のことを子分みたいな扱いをしているらしい。(本人曰く。)しかし実際友達と触れ合う人みたいな感じで接してくれる。
「おう。バイトお疲れ。」や「今日は暑いな。アイス食うか?」などこっちからしてみれば充分同格扱いだ。
お喋りの内容は様々で好きな小説の話、昨日観たテレビの内容などだ。一応竜之介は寸銅に入ってお話をしながらスープを作っている。だんだん美味しいスープの作り方が分かって来た。簡単に言うと竜之介が満足できる話をしていれば美味しいスープができるみたいだ。
「どんな話でもいいんですか?」
「おう!楽しい話。感動する話。笑える話なんでもいいぞ。」
そんなやりとりをしていて、普段友達と接するように付き合っていれば問題ないみたいです。
今日も仕事が終わり、製麺所へと足を運んだ。勝手口のほうの近くにあり、部屋の扉には暖簾がかかっている。部屋を開けるとそこには腕立てをしている竜之介がいたのだ。
「何やっているんですか?」
「見てわかるだろ?腕立てだ。」
竜之介は腕立てをしながら質問に答える。華が部屋に入ってきてもまだやめるつもりはないみたいだ。腕立てと言っても、あまりに竜之介の体特に腕が短いため(本人の前で言うと怒るから言わないが)腕をくいっ、くいっと上体を上げるのでこれが腕立てというのはいささか可愛らしい仕草です。
「なんで腕立てしているんですか。もしかして……ダイエットですか?」
「ふっ。俺にはダイエットなんて、そんなもんは必要ねぇよ。筋トレだ。結果にコミットしようと思ってな。」
竜太郎はどこかで聞いたようなセリフを口にして筋肉を見せようと二の腕を見せてきた。
華は近寄って腕を触った。ぷにぷにしている。ちょっと熱がこもっていて気持ちいい。
「まだまだじゃないですか?筋肉らしさが全くないです。」
「そんなことねぇよ。実際体脂肪率自体はそこまで高くないはずだ。」
「豚さんなのにですか?」
華は首をかしげて尋ねた。腕の柔らかさもそうだが、竜之介の腹もぷっくらしている。パッと見では中年のおじさんと大差ない感じには見える。華はスープを作る準備に取り掛かった。寸銅を持って水を入れる。
「この前測ったときは12%だったな。」
ドン!ピシャーーーー!!
流しに寸銅と水が落ちた。華は驚いて落としてしまった。華は震えて質問した。
「ほ、本当ですか?う、嘘ですよね……?私だってにじゅう……あーううん。まさか竜太郎さんに限ってそんなこと……。」
ひどく動揺してしまった。まさか私の方が竜之介さんより体脂肪が上……?もちろん華が特別太っているわけではない。むしろ細身の方に入る。すらっとしていていつも友達から「どうやってその体型を維持しているの?」と聞かれることもあった。なので自分の体についてコンプレックスは全くない。
「嘘じゃねぇぞ。あーそういえば人間って太っている奴に向かって『豚』っていうんだよな。あれおかしいよな。豚の平均体脂肪率は20%以下だぞ。人間の平均体脂肪率より低いと思うぞ。」
竜之介はそんな豚の豆知識を言った。一方華はというと竜之介の方は見ないで壁に頭をこすり付けながら
「やばい。竜之介さんより体脂肪が多かったなんて……。もしかしていつもラーメンを食べていたから?あまり運動しないから?……」
ぶつぶつと独り言を言っている。流しの水は蛇口はひねられておらずただ流れている。そんなやりとりをしていると徳さんが現れた。
「華ちゃんご苦労様。もしよかったらもう一杯まかない食べていくかい?」
徳さんは壁に立つ華に向かってラーメンを食べるかと聞いてきた。華は徳さんの方向に向いて怒りの視線を送った。
「いらないです!!」
そういって華は自分の鞄を手に取ってどかどかと部屋を出た。
「今日はこれで失礼します。」
華は走って家へと帰っていった。それはもう陸上部に入部している部員が練習しているように。
製麺所に取り残された竜之介と徳さんは立ち尽くして
「おい。竜之介なんで華ちゃん怒っていたのかな?」
「さぁな。乙女の秘密だろ。」