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うちのスープは豚骨スープじゃなくて……

「じゃあ。うちのスープは豚骨ベースのスープじゃなくて豚の残り湯スープですね!!」

「……。」

 今『昇竜軒』の隠された部屋の中には華と竜之介がいた。現在の時刻は夜の6時半。店の夜の時間のピークの時間帯だ。徳さんは一人で仕事をしている。

 

 竜之介の存在を知った翌日、平日だったため華は自分の高校へ向かった。正直昨日のことはすべて夢だったのかと思ったが、さすがに記憶がクリアすぎて夢とは言えそうではなかった。

 しかも目的の忘れ物小説の既読ページが一致しているのでまぎれもない現実だと悟った。

 放課後学校を出た華は『昇竜軒』へと足を運んだ。今日はバイトの日では無かったがやっぱり気になって店に来てしまった。

 今の時間はちょうど昼の時間が終わり、夜までの休憩時間だった。店の外からガラス張り扉ごしに店内を覗くと徳さんが中から扉を開けてくれた。

「やぁ。華ちゃん。何となく来ると思ってたよ。入って。」

 徳さんの昨日と比べると顔色は良い。さすがにもう知られてしまったことはしょうがないと割り切っている感じだ。

「徳さん。私、昨日結局色々大事なこと聞いてなかったので来てしまいました。」

「そうだね。お互い1日経って気持ちの整理が出来ただろうし。ちょっと話そうか。」

 徳さんはそう言うと店の2つコップに水を入れテーブルの上に置いた。

「徳さん。ここで話すんですか?」

 店内に竜之介の姿はない。

「あぁ。竜之介はさっき部屋を見たら昼寝してたよ。」

 徳さんは笑いながら椅子に座った。華も徳さんと向かい合うように座った。

「さぁ。どこから話したらいいか。あっ。昨日も言ったけどこの事は絶対に秘密ね。」

「大丈夫です。私、誰にも言いませんよ。第一言ったところで信じてもらえるとも思いませんけど。」

 あそこのラーメン屋のスープ実は喋る豚を使っているの。なんて言っても何を言っているんだろうと思われるだろう。

「はは、じゃあ。まず昨日竜之介がスープって話をしたと思うけど、まぁあれは紛れもない真実なんだ。」

「多分私の認識があっていればなんですけど……。竜之介さんからスープをとっているということですか?」

「ん。そういうこと。」

 なんとなく察しはついていたことだが、やはりこの認識が正しかったのね。華はそこはかとなく気分が落ちていった。

 昔から大好きだったラーメンのスープは実は竜之介スープなのだから。

「ここまで言ったからずべて暴露するけどあれ実は竜之介が毎晩風呂替わりに寸銅に入ってできるものなんだ。」

「え~~~~~~。」

 なんてことだ。まさかの豚の入った残り湯なんて。そんなスープのラーメンを私は好きだったの!?

「あ!大丈夫大丈夫。ちゃんと一度竜之介は体をちゃんと洗って衛生面に関しては問題ないから。」

 徳さんは付け加えるように言った。でも……

「……徳さん。やっぱりこの話はしない方が良いですね。」

 華は死んだ目で徳さんに忠告した。自分で見て、聞いたことだから自業自得ではあるけれど、正直教えてほしい内容ではない。

 スープの秘密を知られたらもういろんな意味でニュースになってしまう。

「えぇと……そうそう。竜之介はうちのスープの二代目なんだ。俺も親父から店を引き継いだけど元々うちの親父と竜之介の親父さんが契約して今の『昇竜軒』の形なんだ。」

 華は幼いころ違う店主。つまり徳さんのお父さんのラーメンを食べに来たことがあり何度か顔を合わした覚えはある。実際、私が幼稚園に通っている頃のはなしで顔を鮮明には思い出せないけど。徳さんのお父さんは徳さんが店を引き継いで2年ほどで癌でなくなった。だからもう会うことはできない。でもラーメンの味はずっと変わっていないと思う。

「基本的に竜之介はこの店の敷地からは出ない。店の営業時間は製麺所からも出てはいけない。そういう契約なんだ。竜之介の存在も基本的にこの店の人以外知られてはいけないんだ。」

「私は知ってしまいましたけど大丈夫ですか?」

 おそるおそる聞いた。昨日の徳さんの青ざめている顔を見たからだ。

「うん。一応華ちゃんがバイトをしているということで良いみたい。正直見せたくない光景だったけど。」

「もしその契約を破るとどうなるんですか?」

「その時は竜之介スープが使えなくなる。そうなればうちも自動的に店じまいだね。」

 徳さんは真面目に言い放った。さすがに信じてもらえないと思うが、絶対に人には言わないようにしよう。華は決意を改めた。

「まぁ華ちゃんの驚く気持ちもわかるよ。俺も最初親父に真実を告げられた時はショッキングだったもん。」

 でもと徳さんは言葉をつづけた。

「竜之介はなんだかんだでいいやつだよ。話もちゃんとできるし華ちゃんも知ったんだし製麺所自由に入っていいよ。」

「分かりました。別にこの話は誰にも言いませんし、すこしファンタジーな感じで興味もないと言えば嘘になりますし。」


 なんだかんだで大体事情は分かった(?)と思う。正直店員として知るべきことは知れたかなという感じだ。

 夜の営業時間の10分前になり徳さんは準備に取り掛かった。華も手伝うと言ったが

「いいよ華ちゃんのバイトは土日だけなんだし竜之介のところに行ってみたら?」

 徳さんにそう言われて華は製麺所に行ってみることにした。製麺所の扉を開けると大の字になっている体におなかのあたりにタオルをかけて寝ている竜之介がいた。

 竜之介に近づいて顔をよく見てみた。

「寝ている時でもサングラスしてるんだ。」

 こんなにサングラスをしているのはタ〇リさんくらいしか知らない。でも小さな体でくぅーと寝息をたてている様子を見てほほえましく思えた。

「サングラスとってみようかな?」

 素顔をまだ拝見していないので興味がある。寝ている今なら取れると思って華はおそるおそるサングラスに手をかけた。その瞬間

「っ! おい。何取ろうとしてんだ。」

「ひぃぃ。」

 竜之介が起きて話しかけてきた。驚いて華は奇声をあげた。

「なんだ昨日の新入り。華じゃねぇか。今日は何の用事だ?」

 ふぁーと軽くあくびをしながら竜之介は起きて近くの人から見れば小さめのクッションに体を預けた。


 それから華と竜之介は少し話をした。

「うちの大事な商品豚骨醤油ラーメンは俺のおかげで作れるんだ。店にかかわることはどんなことでも俺を通してもらわんとな。」

 竜之介が胸を張って主張した。

「あの竜之介さん。ひとついいですか?」

「なんだ?」

「えっとその……ひとつ確認したいことがあるんですけど……。」

「なんだ?なんでもいいぞ。聞け聞け!」

「竜之介さんが寸銅に入っているからスープができるんですよね?それって……。」

 なんだか店を否定する感じもして言うのは憚れる感じはしているのだが、竜之介は「何だ?」という言葉を顔で表していて今更言えないとは言えない。

 だからここはあえてポップな感じで言おう!!

「じゃあ。うちのスープは豚骨ベースのスープじゃなくて豚の残り湯スープですね!!」

「……。」

 製麺所は一瞬時が止まった。だがそれもつかの間

「はあああああああああああああああああああああああああ!!」

 竜之介は昨日自分の名前を笑われたことよりもさらに怒っているようだ。

「おまえは昨日から俺に対する扱いがひどすぎるぞぉ!!俺の名前もだし、俺の作っているスープのことも。ほんとに失礼な女だな!!」

 かなり怒鳴り散らしている感じだ。部屋の外まで聞こえているのではないか。そう思った時ドカドカとこちらへ走っ来る音がした。徳さんが扉を開けて華と竜之介だけに伝わるくらいに静かに、そして訴えかけるように

「しーずーかーにーーーーー!!」

 そう言ってすぐに扉を閉め立ち去って行った。


「あーんん。まぁ俺も声が大きかったな。だが、お前の言い分には納得できない。」

「豚の残り湯スープの話ですか?」

「だからそれは違う!!」

 竜之介はまたも強めの口調になっった。自分で言ってまたも大きな声だと思ったのか自分の豚足を手で覆った。その仕草少しかわいい!

「たしかに俺が風呂として入っているということは事実だが、ちゃんとスープを作ろうと入っているんだ。」

「どういう意味ですか?」

 ただ入っているだけではないのか?華は疑問に思った。昨日来たときはすぐに竜太郎は寸銅から上がった。そのため本当に風呂に入っている豚の姿にしか見えないのだ。自分の好きなラーメンのスープだと思うとさすがに食欲がすぐにはわかない。

「じゃあ少し早いが、明日のスープをつくるぞ。華、お前も手伝え。」

 竜之介に言われ、華は『昇竜軒』スープの作り方講座を受講することになった。

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