表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

前に進め!

再開しました。


ご迷惑お掛けしてすみませんでした!

 僕は一通り話し終えて、みんなの反応を伺う。

 当たり前といえばそうだが、そこに生まれたのは静寂だった。


「そういうわけで、僕は小隊活動はしないと決めたんだ」


 自分の罪の償いとして……



 そもそも、小隊活動は3~5人で行うものだから、僕がいなくても申請は可能だ。

 

「Xクラスの悪印象についても、本当にすみませんでした」


 Xクラスだからと、新入生2人は影でコソコソと悪態をつかれているかもしれない。


「……です」

「?」

「そんなことないですっ!」


 東雲さんが声を荒らげてそう言う。


「確かに先輩の行動は悪かった所もあります。でもそれだけでは無いはずです!」

「……」

「今の先輩は優しいし、落ち着いていて頼りになります」

「でもそれは今の話で……」

「そんなの関係ありません!」


 あまりの気迫に僕は少し後ずさってしまう。


「先輩と試合をして、私感じたんです。『きっと悪い人ではないな』って」


 真っ直ぐに僕を見つめてくる。


「私は最初からそんなこと気にしてないよ」

 

 星歌も優しく諭すような声色で言う。


「歓迎会まで開いてくれた優しい先輩方のいるXクラスを恥ずかしいなんて私は思いません!」


「ドラクロワさんまで……」



「私は今の先輩と小隊活動がしたいんですっ!」


 その言葉には、僕の体に染み渡るような包容力があった。


「もう良いんじゃないか坂本」

「先生……」

「1つだけ言っておくが、何も小隊活動をしない事や、自分を信じない事が星歌に対する償いになるとは限らないぞ」


 いつもと違い、真剣な表情でこう続ける


「自分がどう変わるかじゃない。どう変えるかじゃないのか?」

「っ!」

 

 そうだ。

 

 僕は大事なことを忘れていた。


 星歌が大丈夫と言っても、僕は頑なに小隊活動を拒否し続けた。


 それは星歌のためじゃない。

 

 いつの間にか、あの時の恐怖を忘れるため、つまり自分のためにやっていたんだ。


「変えるのは今だろ?」


 その言葉は僕の何かを断ち切った。


「……はいっ!」

「じゃあ小隊活動は早速申請しましょう!」


 手をパンと叩きながら東雲さんが言う。

 

 今からでも遅くない。

 こんな僕でも居場所をくれる優しいクラスメイト達に、少しでも恩返し出来るように。

 

 僕は拳を固く握りしめ、決意をした。


「ちなみにこれが申請書な」


 島村先生が僕の目の前に山ほどの紙を置く。


「ここに小隊活動するメンバーの情報を書いてくれ」

「こ、こんなにあるんですか!?」

「ちなみに提出期限は明日までな」

「いやマジかよっ!?」


『これは泊まり込みレベルだぞ……』


「じゃあ他の者は解散!」

「「「さよなら~」」」

「おぉい!!」


 いや、確かに僕が迷惑をかけたから、その代わりに書類を書くってのは分かる。

 だが、流石にこの量は常識を逸脱していた。

 

「ちょっ! 誰も手伝ってくれないのか!?」

「頑張って下さいね! 先輩っ!」

「ええと、やっぱり私は手伝って……」

「シンディちゃんも帰っていいの! 

 後の事はキョースケがやってくれるから!」

「なんでだよ!?」


 そのまま3人は教室を出ていってしまう。

 星歌に関してはスキップまでしていた。 

 

 せっかく良い人達だと思ったのに。

 まさかこんなオチがあったとは…… 


「お前ら全員覚えてろよ!!」


 僕のその声が、誰も居なくなった教室に響いた。



……いやこれマジで終わらないんだけど!


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


約5時間後



「や、やっと終わりだ!」


 最後の1枚を書き終えた僕は、思わず床に寝転がる。

 外はもうすっかり暗くなっていて、時計の針は午後7時を指していた。


「にしてもこのプリント…… 一体なんの意味があるんだ?」


 初めは小隊に所属する人数やメンバーの名前、クラス番号などを書かされたが、後半になるとそれぞれの好きな食べ物や色、果ては異性のタイプまで書かされた。

 もちろん他の3人の好みのタイプなど知る由もないので、一々メールを送り、彼女達に不審に思われては弁解をして、書類を書く。この繰り返しだ。

 そのせいで余計に時間が掛かってしまった。


『いや、今はそんなことより早く家に帰ろう!』


 物思いも程ほどに、僕はプリントを提出しに職員室へ向かった。


「失礼しまーっす。小隊活動の書類を提出しに来ました」

「おやおや、これはご苦労様です」


 てっきり島村先生が居るかと思ったが、僕の声に反応したのは校長先生だった。


「わざわざすみませんねぇ」


 柔らかい、優しい笑顔を浮かべながら校長先生が僕の持っていた書類を取る。


「確かに受け取りました」

「よろしくお願いします」


 そう一言言って、職員室を後にする。


 正直、僕はあの先生が苦手だ。

 いつも笑顔で、物腰が低いけれど、なんだか薄っぺらで、本性を隠している気がしてならないのだ。


『まぁ、単なる思い込みだと思うけどね』


 とりあえずは書類を提出したし、あとは帰るだけ。そう思うと疲れきった心と体が少しだけ和らぐ気がした。

 昇降口で靴を履き、校門を通り過ぎようとすると、


「せーんぱいっ!」


 ドンッと鞄で背中を叩かれた。


「って東雲さん!? なんでここに!?」


 僕が意外そうな顔をしているのを見てか、東雲さんは少し不機嫌そうに


「そんなの先輩を待ってたに決まってるじゃないですか!」

「えぇ。あ、はい」


 一瞬、それなら書類を手伝ってくれよ。と言いそうになったが、それを慌てて飲み込む。


「これから少しだけ話せますか?」

「別に構わないよ」

「ありがとうございます」

「駅まで歩きながら話そうか」


 僕も東雲さんも電車を使って通学している。 だから駅までは同じ道を通るので問題は無いようだ。


「で、なんの話ですか?」

「……」


 いつも真っ直ぐな東雲さんが黙る。

 どうやらだいぶ言いづらい事のようだ。


「えーっと…… 今日はありがとうね」

「えっ? 何がですか?」

「僕を励ましてくれたじゃん! もう忘れたのかよ!?」

「あぁ、あれのことですか……」

「思い出してくれたか! 東雲さんの言葉、僕はとても感動したよ」


 何より自分を信じてくれる人がいる。

 それが分かるだけで僕は心強かった。


「私も実際はあんなこと言える立場では無いんです」

「どうゆうこと?」


 僕がそう聞くと、東雲さんは意を決したように話し始めた。


「私の家は代々、剣術の名門〔東雲流〕として有名なんです」

「そう言えば聞いたことがあるよ」



 東雲流。

 対人用として戦国時代に作られたとされる強力な剣術で、先祖代々その時代の悪と戦ってきたと言われる。

 剣術を嗜む者なら誰もが知っている話だ。



「東雲家は東雲流を次代へ残すため、生まれた子に強制的に剣術を教え込むんです。剣の稽古は厳しくて、私は物心つく前には姉と一緒に刀をもっていました」

 

 ……なんとも壮絶な話だな。


「私が中学生になった頃、突然姉が家を出ていきました。理由は告げられませんでしたが、私は何となく分かっていました。『きっと東雲流を継ぐのが嫌なんだ』と」

「……」

「すぐに姉を探しに行きましたが、私の両親はまるで何事も無かったかのように稽古をしろと言うのです。

 私にとって姉とはつらい稽古とは対極で、いつも優しく、私を思ってくれていました。

 何とか両親を説得しようと、必死に訴えましたが、父が私を殴り、たった一言『お前は東雲流を継ぐ事だけを考えればよい』と言われて終わりです」

「……それは」

「その時、私は姉を探しに行きたいのに、剣術の稽古をしていました。

 自分の意志を無視して、言いなりになって、ただ機械のように親の命令を聞くだけ。確かに剣の腕は上がりましたが、中身は空っぽなんです。

 そんな自分が嫌になって、だけども変えられなくて。いっそのこともう機械に……」

「それは違う!」


 僕が声を荒げてそう言うと、東雲さんの頬は濡れていた。

 多分、僕に励ましをくれたときに、自分の思っていることと現状が違うので、心のどこかに引っ掛かっていたんだと思う。


「大丈夫。東雲さんは機械なんかじゃないよ」

「で、でも」

「確かに家の事情は複雑だし、親は大切だし、色々と考えてしまう気持ちも分かる。だけど、その感情があるからこそ君は機械なんかじゃないんだ」

 

 何より、僕を救ってくれた……


「わざわざ話してくれてありがとう。

 無責任かも知れないけど、誰かの言いなりになる事は無いんだよ。

 だって君は君だし、僕は僕だからね」


 東雲さんの頬を流れる雫を人差し指で掬い、優しく頭を撫でる。


「何より、それを僕に教えてくれたのは東雲さん自身じゃないか」

「……っ!」

「これからは辛いことがあったら僕を頼ってね? それが仲間ってもんでしょ?」


 頼りないかもだけど。


「先輩……」

「ん?」

「ありがとうございます」

「東雲さんこそありがとうね」

「既朔で良いですよ」

「じゃあ既朔さん! お互い頑張ろう!」


 互いに手を取り合う。

 すると、既朔さんのお腹が盛大に鳴った


「先輩。早速頼っても良いですか?」

 

 ちょっぴり上目遣いで聞いてくる。


「奢り以外なら良いよ」

「500円だけ!」

「うーん…… まぁ良いでしょう」

「あざーっす!」


 それぞれ過去があるけれど、支え合えば前に進める。


 そう確信した1日だった。





「ところで先輩、私アイスも食べたいです!」

「お前はいい加減にしろ!」

  

結局のところ、ポジティブが1番なのかもしれませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ