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未熟な革命家〔後編〕


「現在の奴らの位置は分かるか?」


 耳につけたインカムを通して、近くのビルの屋上で待機している星歌に聞く。


「今キョースケがいる場所から、北に1.5キロ行った所に怪しい集団がある」

「了解!」


俯瞰ふかん》の魔力属性を発動させた星歌は、強化された視覚と聴覚でレーダーと遠距離からの狙撃を担当してくれている。


『時間的にはまだ余裕があるな……』


 僕はなるべく影に隠れながら、徐々に倉庫の距離を詰めていた。


「目の前の倉庫! 多分、対魔会の連中はその中にいる!」


 星歌の指示に従い、そこで1度動きを止める。


『周りの警護に6人か……』


「倉庫の中には何人いるかわかるか?」

「ちょっとまってて…… 5人位かな」


『まず周りの警護についている奴らを素早く気絶させ、倉庫内に潜入。星歌の援護を受けながら全員を制圧させる!』


「作戦を開始する。星歌、よろしく頼むよ!」

「了解」


 まずは背後から忍び寄り、素早く1人目を気絶させた。


『ここからは時間との勝負だ!』


 2人目も同様の手口で気絶させる。だが、ここで他の警備役に見つかってしまった。

 何とか笛を吹かれる前に正拳突きで倒し、その反動を利用して後ろの相手に蹴りを放つ。

 残りの2人はナイフを構えて突進。僕はそれを避け、互いの顔面に回転蹴りを喰らわせた。

 

 『ここまでで10秒か……』


 このぐらいの力量の相手なら《革命》の効果がなくても倒せる。と思ったが、ふと右腕を見ると、ナイフによる切り傷が出来ていた。出血もしている。どうやら無意識に《革命》が発動していたようだ。


「これから倉庫内に突入するっ!」

「了解。……あ、ちょっと待っ」


 僕は倉庫のドアを蹴破り突入する。

 だがここで予想外な事が起きた。

 なんと廃倉庫には、星歌から聞いた人数の倍以上である20人が僕を待ち構えていたのだ。


「よう。散々と暴れてくれたみたいだな」

「な、なぜ……」

「おっと! 仲間は呼ばせないぜ!」

 

僕がインカムで星歌に援護を要請しようとしたが、素早い動きでそれを取られてしまった。


「くっ!」

「やれやれ…… これだから中学生のガキは」


 幸い、倉庫内にいる者で魔力を感じたのはこの男1人だけ。他の奴らはもっぱら肉体に自信のあるだけのやつのように見えた。


「さぁて。外の仲間のかたき、取らせてくれるんだよね?」


 そう言った男は残酷な笑みを浮かべながら、指を鳴らす。

 それを合図に、周りの屈強な男達が一斉に突撃してきた。


『クソッ!!』


 最初は相手の攻撃の隙間にカウンターを入れたりしたが、なにぶん人数が多い。

 徐々に受けの体制を取らざるを得なくなる。

 

「くたばれ!」

「ぐっ……」


 何より1人1人の攻撃が重い。魔力は持って無さそうだが、かなり鍛えられている。 

 そのうち受け身すらままならなくなり、段々と相手の攻撃がヒットするようになってしまった。


『まだだ! 《革命》はこれからだぞ!』


 何発かの攻撃を受けた辺りから、相手の拳がゆっくりと見えてきた。

 《革命》の魔力属性が強くなり、動体視力が向上したのだろう。


 それを確認すると同時に、僕は突発的にその場でしゃがみこむ。


 奴らは僕の周りを囲むように攻撃していたので、一瞬だが体制を崩す。


 その隙を狙い、僕は奴らの鳩尾みぞおち目掛けて突きや蹴りを叩き込んだ。



 ここまでの動作は時間にして約5秒。

 打ち込んだ攻撃は計14発。


 いかにして僕が《革命》で強くなっているかが分かるが、それは肉体のダメージを蓄積した裏返しにもなるので、素直に喜べる事ではない。

 現に僕の体には、あちこちに青アザが出来ている。

 

「さぁ。後はアンタ達だけだぜ」


 僕は今まで傍観に徹していたリーダーと、残りの精鋭4人に威嚇するように言った。


「ほぅ。なかなかやるじゃないか」

「そう思うなら、さっさと諦めて逮捕されな!」

「随分と嘗められたもんだな……」


 リーダーの男が淡く光だす。魔力属性を発動したようだ。


「俺の怨みをみせてやるよ!」


 そう言うと、男の目が大きく見開かれる。

 《革命》により強化された僕の直感がそれを見るなと警告していたが、自分の能力に絶対の自信を持っていたのでそれを無視する。


『望むところだ!』


 と僕は真っ向から男を見つめたその瞬間……










 僕の魔力が跡形もなく消えた。










「な、に?」

「ハッハーッ! 俺の《怨念》のお味はどうだい!?」


 奴の目を見た瞬間、今までに蓄積されたダメージで作られた筈の《革命》の魔力が一瞬のうちに消えて無くなってしまった。


『そんなバカなっ!?』


 今までにない出来事に、僕は驚嘆する。


「俺の魔力属性《怨念》にはなぁ、他人の魔力を一時的に消滅させる効果があるんだよ!」

「何だと……!?」

「これでお前は赤子も同然。密売をおじゃんにしたツケはしっかり払ってもらうからな!」


 高らかに笑いながら、右手に鋭く光るナイフを持って近づいてくる。

 僕はこの時ほど死を身近に感じることはもうないだろう。それぐらいの恐怖だった。


「そんじゃ、あばよ」


 僕の頭上にナイフが振り上げられる。

 そのまま首の頸動脈を切るつもりなのだろう。

 

 僕は死を覚悟し、思わず目を瞑る。


 肉の切れる不快な音に続き、微かな温かさを持つ何かが僕の頬を掠めた。


 それに違和感を覚え、ゆっくりと目を開く。



 そこには信じられない光景が広がっていた。



 ビルの屋上にいたはずの星歌が、身を盾にして僕を庇っていたのだ。

 

「なん、で……?」


 胸の中心を切りつけられ、赤い鮮血を飛ばしている。

 先ほど僕の頬を掠めたのが星歌のそれだと気づくのに、そう時間は掛からなかった。

 

 倒れていく星歌を、僕はやっとの思いで抱き留める。

 


「お前! どうして……っ!」

「キョースケが危なかったから……」

「だからってこんなこと!」

「私は大丈夫だから……」


 力なく笑うその姿は、どう考えても大丈夫ではなかった。


「もうすぐ警察が来るよ…… だか、ら」

「おい星歌!? 返事をしろ!」


 どうやら意識を失った様だ。


『このままだとマズイ……っ!』


 一刻も早く星歌を病院に連れていかなければ、出血多量で死んでしまう。

 傷はさほど深くないのに出血が酷いのは、何か理由があると思える。


「ったく。とんだ邪魔が入ったぜ……」

「……」

「だがその女も馬鹿な奴だな。自分を犠牲にするなんてよ!」


 それを聞いた瞬間、とてつもない怒りが込み上げてきた。

 星歌を傷つけたこの男と、浅はかな行動と慢心で、この事態を招いた自分自身に対して。


「ほら、どうした中坊!仲間のかたきは取らなくて良いのか?」




 僕の中をどす黒い何かが駆け巡る。

 

『早く星歌を助けないと……』





 どうすればそれが出来るのか?

……答え単純だ。


「無視してんじゃねぇぞ!」


 男がナイフを掲げ、僕に迫る。





『コイツらを速攻で殺せば問題ないよな』


 僕は奴がナイフを持つ右腕を目掛けて、全力の手刀をぶつける。


「ぐあああぁ!?」


 うでの骨をへし折り、ナイフを地面に叩きつけた。


「お前っ!魔力は使えないはずじゃ!?」

「さっきからうるせぇよ」

「がぐっ!?」


 お喋りの減らない口には膝をめり込ませる。

 それを見て状況をやっと理解したのか、周りの男達が仕掛けてきた。


「お前ら全員さっさと死ね」


 僕が一気に決着を着けようとした時、




「警察だ!密売の疑いで逮捕するっ!」




 倉庫全体に響くほどの声で、武装した警察が次々と乗り込んでくる。


「退いてくれよ。コイツら殺して、星歌を病院に連れていかないといけないんだ」


 僕は低い声でそう言うと


「落ち着け坂本!問題を図り間違えるな!」


 そこには何故か島村先生の姿があった。


「もう既に萩原は救急車に乗せられてる。もう奴らを殺す必要はないんだ!」

「で、でも……?」

「お前は《革命》の効果が強くなりすぎている!冷静になれ!」


 その一喝で、僕の中で渦巻く何かが霧散していった。


「僕は何を……」


 何をしていたんだ。と思った刹那、意識が遠退いていく。

 まるで、先ほど霧散していった物と一緒に消えていくようだった。

 遂に体を支えられなくなり、僕はその場に倒れこんでしまった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 目が覚めると、異常に白い天井が目に入った。

 そこが病院だとすぐに気づいた僕は、星歌の身が気になり、痛む体を惜しまず病室を飛び出す……


「なーにをしとるんだお前は」


 ドアを開けた瞬間、反対から入ろうとしていた島村先生にぶつかり、無理やりベッドに戻された。


「先生! 星歌の容態は!? 

 それからあの犯人たちは!?」


 身を乗り上げて聞くと


「安心しろ。出血はもう止まった

 犯人も全員逮捕されている」


「よ、良かった……」


 その報告に胸を撫で下ろす。


「お前はまだ回復しきっていないだろ。星歌に会うのはそのあとにしろ!」

「いやでも」

「いいから寝ろ!」


 島村先生に無理やり寝かされ、星歌に会うことは出来なかった。



 その夜、僕はなかなか寝付けずにいた。昼間に無理やり寝かされた事もあるが、星歌が心配で気が気ではなかったのだ。

 不安を和らげるように天井を見上げていると、


「キョースケ」


 微かにだが、聞き慣れた声が聞こえた


「星歌か!?」

「うん。来ちゃった……」


 まるで恋人のように言う彼女は、元気そうだった。

 星歌をベッドに上がらせ、声をたてないように話す。


「どこか具合が悪いところはないのか?」

「うん。すっかり良くなったよ」

「そかそか」

「キョースケは?」

「僕も特に異常はないね」


 自分でもなぜ気を失ったのか分からない。

 島村先生が言うには、精神的な負荷が掛かりすぎたかららしい。


「星歌。本当にごめんなさい!

 いや、謝って許される事じゃないのは分かっているんだ。だけど、星歌を傷つけてしまったから……」

「良いんだよ。キョースケが無事なら」


 優しい顔でそう言ってくれる。


「あ、そうだ。キョースケに見せたいものがあるんだよ!」


 そう言うと、おもむろに上着を脱ぎ出した。


「お、おい! 何やって……」


 思わず言葉を呑む。

 星歌の胸には、ナイフによる鋭い傷痕が残っていた。


「この傷痕、もう一生消えないんだって」

「な、なんで?」


「私を切りつけた男が《怨念》の魔力属性を保持していたかららしいよ」


「そ、そんな……」


 星歌の、それも女の子の体に一生消えない傷を付けてしまった。


「なんだかカッコいいよね! 

 男の勲章的な?」


 おどけてみせるが、僕にはとても悲しく見える。


 どれもこれも僕の責任だ。

 

 自分を過信して、自己中心的な行動をとった。


「僕はもう自分を信じない。小隊活動も自粛するよ」

「違うっ! 私はそんなこと望んでないよ!」「いや、この件についてはしっかりと責任をとるし、しかるべき報いも受けるつもりだ」

「キョースケだけの責任じゃないよ!」


 そう反論してくれる星歌を帰らせ、その決意を深く自分に刻んだのだった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 3日後、退院した僕と星歌は久しぶりに学園を訪れていた。

 その頃にはもう噂が広まっていて、僕は対魔会を捕まえた英雄ながら、犯人を殺そうとした変人とされていた。

〔最弱最強〕と呼ばれ始めたのもこの頃からだ。


 噂の影響を受けたのは僕だけではなかった。

 僕や星歌が所属するXクラスそのものが変人の集まりとされ、徐々に敬遠されるようになってしまった。


 

 これが今のXクラスの現状の元だ。

 


 つまり


 星歌の胸の傷も


 Xクラスが嫌われる事も


 全ては僕が原因なのだ。


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