第1回新入生歓迎会(後半)
「よし! とりあえず全員いるな!」
大体30分位で帰ってきた島村先生が、教室を見回しながらそう言う。相変わらずオモチャのマイクと、ラメ付き巨大蝶ネクタイはしっかりと装備している。
「先生。もしかしてその格好のまま職員室に……」
「よく聞けお前ら。これからビンゴ大会を開くぞ!」
……僕は先生に嫌われているのだろうか。
「この日のために、私が徹夜して作ったんだ!」
先生が威張るように胸を張る。
うむ。デカイ。
「そんじゃ、まずは好きなカードを取ってくれ」
「でも先生、僕たち4人しかいないのになんでビンゴ……」
「坂本。お前の景品はこれだ!」
「まだカードすらもらってないんですけど!?」
このビンゴは数字に仕掛けがしてあり、なかなか当たらないようになっていて、やっとの思いでビンゴするとなかなかの達成感があった。
ちなみに、景品は鉛筆だった。6Bの。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「続いては、お待ちかねの質問コーナー!」
「あ、私はもう先輩方に質問しちゃいましたよ?」
東雲さんが恐る恐るといった感じで、手をあげながらそう言う。
まさかの開始速攻で企画が潰れた。
「えっ!? そうなの?」
島村先生は首を捻りながら、代わりの企画を考え始める。
やがて良い案が出来たのか、明るい笑顔で
「もっと質問しろ」
「んな無茶な!」
新入生にも容赦がない。
可愛そうに…… と東雲さんに同情していると
「坂本ぉ! お前もなんか質問しろや!」
「えぇー!?」
僕までとばっちりを受けてしまった。
「あ、はいはーい! 私質問あります!」
先ほどの責任を感じているのか、東雲さんが場を持たせるように元気よく手をあげる。
「じゃあ東雲! 質問をどうぞ!」
「先輩方の好きな食べ物はなんですか?」
「特になし」
「ポテトサラダ」
・・・・・・。
「少しは会話を続ける努力をしてくださいよ!」
東雲さんが力強く机を叩く。
「東雲さんこそ、なにその幼稚な質問!」
「先輩だってなーにが、特に無い。ですか!
格好つけてるんですか!?」
「なわけあるか!」
ドラクロワさんと星歌が、呆れたようにこちらを見ている。
「因みに私の好きな食べ物は……」
「「 先生には聞いて無いですよ! 」」
「なんだと貴様ら!」
僕たち一応高校生(+教師)なのに、なぜこんなことで喧嘩をしているのだろうか……
自分でも不思議に思ってきた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
結局、歓迎会はあの流れで終了となってしまった。(厳密には島村先生が、僕と東雲さんの頭にアイアンクローをしようとして、ドラクロワさんと星歌がそれを止めに入ったから)
「じゃ、じゃあ歓迎会は終了!」
「お、お疲れ様でした……」
まるで激しいスポーツをした後のように、皆息が上がっている。
このままお開きかと思われたが
「……あ、そう言えばもうひとつ質問がありました!」
なにを聞き忘れたのか、東雲さんがそう言い出す。
「な、なんだ? 手短にな!」
「どうしてうちのクラスは小隊活動していないんですか?」
・・・・・・。
東雲さんのその一言で、周りの空気がガラッと変わる。
同時に僕の胸が古傷を抉られた様に痛んだ。
小隊活動とは、クラスごとに4~6人の〔小隊〕と呼ばれるグループを作り、放課後や休日などに魔力を保持する犯罪者を逮捕することで、成績に一定の数値が加算される制度の事だ。
魔法警察の育成を目的に建てられたこの学園ならではのもので、その功績が大きいほど一流として認められる。
「ほ、ほら! Xクラスは人数が少ないからさ」
僕は努めて明るくそう返す。
「じゃあ今年からやるんですよね!」
「それは構わないよ」
「よしっ! じゃあこれから……」
「僕は不参加にさせてもらうけどね」
「……え?」
彼女が目をぱちくりさせている。
「な、なんでですか!?」
「僕は弱いからだよ」
「なに言ってるんですか!
先輩は十分に強いですよ?」
「そんなこと無いよ」
「それに、先輩がいないと人数だって……」
「出ないって言ってんだろ!」
「ッ!」
先ほどまでの楽しい空気から一転、教室を雨雲が包むような暗い雰囲気が伝わっていく。
そして、それを作り出したのは僕だ。
星歌が心配そうにこちらを見ている。
『すまない東雲さん……』
僕は心のなかで謝罪し、教室を逃げるように出ていった。
お気に召されましたら、感想、ポイント等よろしくお願いいたします!