第1回新入生歓迎会(前半)
「よーっし!
これから新入生歓迎会を始めるぞ~!」
どこで買ったのかオモチャのマイクを持ち、
首にはラメのついた大きな赤い蝶ネクタイをしながらノリノリでそう言うのは、我らが担任の島村先生だ。
「いや、先生。その格好は流石に恥ずかし……」
「それでは早速だが、新入生カモン!」
僕の意見をガン無視し、司会をやり始める。まぁ似合ってるから良いんだけどね……。
教室のドアが静かに開けられ、2人の新入生が入ってきた。その内の1人が僕を見るなり、小さく胸の前で手を振ってきた。僕もそれに返しながら、
『多分そうだろうと思っていたが、やっぱり東雲さんはXクラスだったんだな……』
と思っていた。
あの時とは違い、今日は学園指定の制服を着ていて新鮮味があるが、なかなか似合っている。
もう1人の子は中性的な顔立ちで、パッと見だと性別の判別が付かなかったが、その子の絹の様に長く、美しい金色の髪の毛を見て判別が付いた。何よりスカート履いてるし。
実のところ僕は、男の子が入ってくるのではと内心期待していたが、今回はどちらも女の子のようだ。
「それでは新入生は自己紹介をしてくれ。まずは東雲からだ」
「はい!」
元気よく返事をして、東雲さんが1歩前に出る。
「東雲既朔です!
この学園には特待生として入らせて貰いました!
これから宜しくお願いします!」
僕と星歌が拍手を送る。彼女はお辞儀をして1歩下がった。
「因みに捕捉だが、東雲の魔力属性は《月》で、その貴重さと高い身体能力からXクラスに決定されたそうだ。」
先生が生徒の個人情報が書かれているバインダーを見ながらそう言う。
『魔力属性《月》か…… 道理で夜に試験をした訳だ』
ずっと謎だったが、今やっと分かった。
魔力属性《月》とは
〔夜になるほど自身の魔力と身体能力、治癒力が高まる〕というもので、僕の魔力属性である《革命》と似ているところがある。
「東雲の魔力量は学年でトップだったそうだぞ」
更に先生の捕捉が入る。
もうこいつ最強なんじゃないかと思っていると、
「いやー、だけど昼間は全力の1/5ぐらいしか力が出ないんですけどね……」
頭の後ろをかきながら照れ臭そうに、まさかのカミングアウト。
何かと行事の多い昼間に全力が出せないのはヤバいんじゃないかと考えたが、彼女ほどの身体能力なら別に支障はないのかもしれない。
「じゃあ次の自己紹介いくぞ!」
島村先生のその言葉で場が切り替わる。
金色の髪が美しいその子が前に出た。
「シンディ=ドラクロワです。
至らない所もあるとは思いますが、これから宜しくお願いいたします」
先ほどと同様に拍手を送る。
だがその間も僕は彼女から目を話せなかった。
なんというか、所作のひとつひとつが美しく、一目でしっかりとした子だと分かった。
なにをさせても完璧にこなす、優等生みたいなイメージがした。
「彼女の魔力属性は《彩管》で、その希少で独特な魔力属性を所持しているのでXクラスに入る事になったそうだ」
《彩管》なんて魔力属性は初めて耳にした。
僕は隣にいる星歌の肩を叩き、
「なぁ星歌。お前《彩管》の能力って知ってる?」
そう尋ねると、
「私も詳しくは知らないけど、彼女の試合なら見た」
「マジか! どんな感じだった?」
星歌が少し黙る。言葉を纏めているようだ。
しばらくして、その口を開いた。
「あのシンディって子がAクラスの3年生と試合をしたんだけど、彼女は1度も先輩に触れずにその試合を勝利した」
「……え?」
その言葉に僕は驚愕する。
Aクラスといえばこの学園の最高勢力だ。尚且つ3年生ともなれば、たかが1年生に負ける訳がない。
更に謎が深まっていくばかりだ。
「以上の2人が今回の新入生だ。皆仲良くするように!」
「はーい」
「じゃあ私は少しここを空ける。しばらくリラックスしていてくれ」
どうやらまた職員室に行くようだ。教師も苦労が多そうだな。
「とりあえずこっちに来てなんか食べなよ」
僕は2人に手招きをして、用意した椅子をすすめる。
2人とも根は素直なのか、差し出した椅子にすぐに座ってお菓子を食べ始めた。
「僕は坂本恭助。それでこっちが萩原星歌。あと今は休学中だけど、3年生にセシリア先輩もいるからね」
「よろしく~」
星歌がクッキーを片手に軽く会釈する。
「「よろしくお願いします!」」
やはり後輩は良いものだなぁとしみじみ思っていると、
「いやー、まさか先輩がXクラスだとは思いませんでしたよ~!」
東雲さんが僕を見てそう言う。
「驚きましたっ!」
「そうかな?
僕は東雲さんがXクラスになることは薄々感づいてたけどね」
「改めてよろしくお願いしますね! 先輩っ!」
「もちろんだよ」
「萩原先輩も!」
「ふぉふぅこぉい」
「おい星歌!
口にものを入れて喋っちゃいけないんだぞ!」
僕は星歌を叱った後に
「ドラクロワさんもよろしくね」
「はい。よろしくお願いいたします」
案外、僕たちはうまくやっていけそうだなと思った。
「ところで先輩! このクラスの中で1番強い人はだれですか?」
「セシリア先輩だな」
「セシリア先輩だよ」
「即答ですね!?」
あの人は格が違うというか、まず勝負にすらならないというか……。
「まぁ今度戦ってみれば分かるよ」
そう言うと彼女は期待するような顔をした。
どうやら東雲さんはなかなか好戦的らしい。
「あ、それともうひとつ質問があるんですけど……」
「どうぞどうぞ」
僕はお茶を飲みながらそう答える。
「……先輩と萩原先輩は付き合ってるんですか?」
思わず飲んでいたお茶を吐き出しそうになる。
星歌も食べていたお菓子をこぼしていた。
「い、いや! 別に付き合ってないから!」
星歌が弾かれたようにそう言う。
「そうだよ。僕と星歌はただの幼なじみさ」
「え、そうなんですか? さっき手を繋いでるのを見たからてっきりそうかと……」
「わーー!」
慌てて星歌が東雲さんの口に持っていたクッキーを詰め込み、言葉をふさいだ。
『こいつらなにやってんだよ……』
勝手に盛り上がっている2人を無視し、隣で静かに座っているドラクロワさんに話しかけた。
「ドラクロワさんにも質問いいかな?」
「も、もちろんですっ」
一瞬ではあったが、僕の言葉に身を固くする。しかし、すぐに爽やかな笑顔で承諾してくれた。
「君の魔力属性《彩管》ってどんな能力なんだい?」
僕はストレートにそう言った。
「えーっとですね……
簡単に言うと、〔私が紙に描いた絵を実体化できる〕というものなんです」
「それは凄いな。どんなものでも実体化出来るの?」
「絵が描けるならですけどね」
『なるほど……。確かに強力な魔力属性だな』
と僕は思った。
極端な話だが、絶対に壊れない盾とかを実体化できる事になる。
「それって、動物とかでも出来るの?」
「もちろんです」
「なんだか召喚系の魔力属性みたいだね」
「まぁ私の場合は、その時の代償や制限が掛からなくてすみますけどね」
「もうチートじゃん。それ……」
一般的に、召喚魔法を使うときは、そのものを呼び出す代償が必要になる。下級のものだと髪の毛とかで済むが、上級のものだと自身の命と引き換えになるものだっている。
それをノーコストで出来るのは、かなり恐ろしいことだ。
「ただ、私の場合は……」
「場合は?」
彼女が言葉を続けようとしたとき
「ちょっとキョースケ!
早くこの子の誤解を解いてよ!」
「へいへい。今いきますよー」
東雲さんの相手をしていた星歌から、救援要請がはいる。
「ごめんドラクロワさん。続きはまた今度で」
「え、あっはい!」
僕は星歌の元へ向かった。