君の温もり
とりあえず出しますが、また編集する予定です。
「第1回! Xクラス新入生歓迎会~!」
「……」
電話越しに、島村先生の呑気な声が聞こえる。
「第1回! Xクラ……」
「いや、聞こえてますから! 2度も言わなくて良いですから!」
「あ、そうなの?」
キョトンとした声で先生がそう言う。
「……あの、島村先生?」
「おう? どうした坂本! 元気ないな!」
「あるわけ無いでしょう!? 今何時だと思っているんですか!?」
現在の時刻、〔午前3時15分〕
良い子は愚か、悪い大人でもぐっすりと寝ている時間だろう。
僕は、隣の部屋で寝ている星歌を起こさないように、声を小さくしながらそう言った。
「おいおい…… 高校生がなに弱気な事を言ってるんだ! お前の夜はこれからだろ!」
「100歩譲ってそうだとしましょう。ですが今日はまた別の話しですよ!」
昨日、東雲さんとの試験を終えた僕は、自力では歩けない程に疲労していた。
何故ならば《革命》の魔力属性はその特殊な能力ゆえ、自身の肉体を酷使するからだ。
しかも、当代最強の魔導師と呼ばれる東雲さんと戦ったのだから、疲労は更に拍車がかかっている。
僕は最後の力を振り絞って星歌に電話し、情けないが肩を借りて何とか自宅まで帰ってきたのだ。
「と言っても、もう5時間は経ってるだろ。まだ回復しないのか?」
「先生…… 本当にあの試合を見ていましたか?」
「うん! そりゃもうバッチリと!」
「だったら、たかが5時間で回復するとは思わないですよね……」
先程の戦いを思いだし、思わず怪我をした背中に触れる。
この疲労を回復するには、睡眠をとるのが1番効率的で、傷の治りも早い。
そんな大切な睡眠をとっていた最中、島村先生から電話がかかってきたのだ。
僕が不満を述べていると、
「あー、めんごめんご! ところで本題に入ってもいい?」
「後で覚えてろよ」
先生は特に気にした様子もなく、そんなことを言ってくる。
僕は深くため息をつき、
『これはもう話しを聞かない限り、寝ることは出来ないな』
そう考え、先生に話しの続きを促す。
「実はな、今年はXクラスに新入生が2人も入ることになったんだ。」
「そうなんですね。僕たちの時と同じじゃないですか」
「それは分かっている! そもそも、2年連続でXクラスに入る者が2人もいるのが珍しい事なんだぞ!」
どうやら僕の脳ミソは、まだ完全に起きていないらしい。思考がゆっくりになったような錯覚がする。
「でだ。新しく入る2人を歓迎する会を開こうと思うのだが、どう思う?」
「良いんじゃないですか」
僕たちの時は、そんなことされてないけどね。
「じゃあ決まりな!
今日の朝6時にXクラスに来い!」
「えっ!? 今日やるんですか!?」
「当たり前だろ! そんじゃね!」
一方的に電話が切られる。
『嘘だろっ!?
あの先生はなにを考えてるんだよ!?』
真夜中に電話をかけられた事もあり、僕は少しイラついていた。
だが、ここでバックレる訳にもいかない。
前に島村先生との約束をすっぽかした時は、鬼のような力で、顔にアイアンクローされた記憶がある。
『しゃーねぇ…… 起きるか!』
僕は眠気と疲労感と全身の痛みを我慢し、布団から出る。
『しかしあの先生、こんな性格だからいつまで経っても結婚出来ないんじゃ……』
そんなことを考えながら、目を擦っていると
突然、僕のスマホにメールが届いた。
宛先は島村先生だ。
題名は無く、そこにはただ一言
「死んどけ」
と書かれている。
『……か、歓迎会楽しみだなぁ!』
僕は震えながらそう思った。
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〔星歌へ
急用で、早めに学園へ行くことになったのから、悪いけど先に行ってるね!
朝ごはんは冷蔵庫に入ってます!〕
『さてと、こんなもんで良いかな……』
僕は星歌宛のメモを書き、テーブルの真ん中に置いた。
一応、星歌の機嫌を損ねないように、ポテトサラダを作っておいたので心配無いだろう。
僕は音を立てぬように制服に着替えて、家を出る準備を済ませ、
「いってきます」
と静かにそう言い、家をあとにした。
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いつもよりだいぶ早いからか、電車に乗っている人はまばらで、かなり空いていた。
いつもは座れない座席に腰掛け、まだまだ眠かったので、自分が降りる駅まで寝ることにした。
『次は、ソーサレス魔導学園前です』
電車のアナウンスで起きた僕は、眠気をこらえ、電車を出る。
駅から学園までの道は、まだ誰も通ってはいなかった。
1人黙々と学園を目指して歩いていると、すぐに学園に着いた気がした。
当然だが、今の時間帯に生徒は誰もいない。いつもと違う雰囲気の学園に、少しだけ寂しさを覚えながら、自分のクラスへと続く階段を上っていった。
「先生! おはようございます!」
ドアを開けながら元気に言うと、
「おう! ちゃんと来たな!」
先生は教卓に座りながらそう言う。
僕も荷物を自分の机に置いてから、
「ところで、こんな朝早くから何をするんですか?」
「まずはクラスの飾り付けだな」
「あとは?」
「食べ物と飲み物の買い出しぐらい」
なるほどね。
と思いながらも、僕はある疑問をぶつける。
「他のXクラスの生徒は何をするんですか?」
「買い出しだな」
「飾り付けは?」
「お前だけだ」
「……」
無言で先生を睨む。すると、
「だ、だって仕方がないだろ! 男はお前1人だし、休学中の奴だっているし……」
折り紙で出来た鎖を持ち、慌てながら先生がそう言う。
休学中の生徒とは、Xクラスで唯一の3年生であるセシリア先輩の事だろう。
「だ、だめだったか?」
「あー……
まぁそう言うことなら、仕方がないですね」
「ちなみに萩原には、
昨日の朝にこの事を伝えてある。」
「やっぱり仕方なくないわ!」
いつも通り、先生は先生だった。
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クラスの飾り付けは、およそ2時間で終了した。
具体的には、和紙で作った花を至るところに付けたり、黒板には大きな文字で〔ようこそ!〕と書いたりした。
僕が自分の机で一休みしていると、
「坂本! お疲れ様」
そう言いながら、島村先生が缶コーヒーを僕に渡してくれた。
「奢りですか!? あざーっす!」
「おうよ! 大切に味わって飲めよ!」
プルタブを空けると、空気の抜ける軽快な音がした。
僕はそれを一気に飲み干す。それを見た先生が、
「お前! 言った側からなにしてんだ!」
「いいじゃないですか! 喉乾いてたんで」
「少しは日頃の感謝の気持ちを持てよな!」
「それは先生にも言える事ですよ!」
たかが缶コーヒーでここまで言い争うのは、多分僕たちだけだろう。
しばらくすると、先生が突然立ち上がり
「私は職員会議があるからな、そろそろ失礼するよ」
「あっ! 逃げるんですか!?」
「バカ言うな。 私はお前と違って忙しいんだ」
「へいへい。そーですね」
僕がそう言うと、島村先生が近づいてきて、
「本当はいつも感謝している。
わざわざありがとな」
と耳元で囁いてきた。
僕は驚き、先生を見る。
すると先生は、少し頬を赤らめながら可愛らしくウインクをし、教室を出ていった。
『っべー! 危うく惚れるところだった!』
確かに島村先生はガサツだし、態度も大きいけど、美人なのに変わりはないのだ。
僕がそう思い更けていると、
「キョースケ。顔気持ち悪いよ」
「うわっ!? せ、星歌!?」
ドアの影から顔を半分覗かせるようにして、星歌がこちらを伺っていた。
「い、いつからいたんだ?」
「キョースケが先生とイチャイチャしてた時から」
「まて、そんな場面は無かったぞ!」
「嘘。キョースケの顔ニヤニヤしてた」
「してねぇよ!」
今日の星歌はなぜか機嫌が悪い気がした。
多分先に家を出たからだと思い、素直に謝ることにする。
「勝手に先に行っちゃって悪かったな」
「本当だよ! びっくりしたもん」
「まぁ色々あってさ」
「私は朝から1人で寂しかった」
「だからごめんて」
「おまけに先生とイチャイチャしてるし……」
「それは誤解だよ!」
「ふーん」
そう言いながら、疑いの視線を僕にぶつけてくる。
ひとまず僕は星歌の視線から逃げるように、
「と、とりあえず買い出し行ってくる!」
「あ、私も手伝う。キョースケ1人じゃ大変」
「いいよ。星歌は待ってて!」
「それに、まだこの話は終わってない」
「……」
僕の作戦はあっけなく失敗に終わってしまった。
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最寄りのスーパーまでは歩いて10分ほどだが、その間にも星歌の追及は続いていた。
僕はそれを何とかやり過ごし、スーパーにたどり着く。
それから、みんなが好きそうな飲み物や食べ物をいくつか買い、素早く会計を済ませ、帰りの道を星歌と歩いている。
「そろそろ許してくれませんかねぇ?」
いい加減追及を避けきれなくなり、星歌にそう言う。
「……」
「何でも言うこと聞くからさ」
「じゃあ…… 今から学園に付くまで、手を繋いでくれたら許してあげる」
「そんなんで良いのか? ほら」
それで星歌の誤解を解けるなら、安いものだ。
ひょい と星歌の手に触れ、そのまま手を繋ぐ。
その掌からは、星歌の温もりが伝わって来て、安心感があった。
『そう言えば昔はよく手を繋いでたっけ……』
あの頃とは手の大きさも、周りの環境も変わってしまった。
それでも僕たちはこうして仲良くいれるのも、ある意味では奇跡なのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕はふと星歌を見る。
すると、星歌は何故か繋いだ手を見ながらニヤけていた。
『僕が良いこと考えているのに、なにしてんだこいつ……』
不思議に思っていると、僕の視線に気づいたのか
「もうっ! こっち見るの禁止っ!」
慌てたようにそう言ってきた。
「もしかして恥ずかしいのか?」
「うっさい!」
柔らかい日差しを受けながら、僕たちは学園に向かった。