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閑話 小さな頃の思出話

見なくても大丈夫にはなってます(・ω・)ノ


 昼下がり、彼等は小さなカフェにいた。女性に人気のスイーツ専門店で、周りは華やかな乙女達が談笑を交わしている。

 男2人で昼飯を食べに行くなんて侘しいにも程があるが、本人たっての希望なのだ致し方あるまい。

 4人用のテーブルを独占し、その上には所狭しと敷き詰められた皿。色とりどりのスイーツは上品かつ繊細で、手間隙が惜しまず詰め込まれたのだろう。丁寧に仕上げられた彼等は、役目を全うできる瞬間を今か今かと待ちわびる。

 そんな彼らに、フォークが突き刺さる。そして一息で口に放り込まれた。

 「……旨いか」

 「うまひ」

 幸せそうに返事をした男はセドリックという、カフェを所望した張本人。ごくんと飲み込み喉仏を隆起させ、後に長い舌で口の端についたクリームを舐めとる。

 赤茶の髪の大人の色気を漂わせる彼は、褒美としてここへ来ることをを所望した。

 サディアスはそれを許した。存外望む物の少ない友人の、ここ最近の望みが甘味なのだと言う。甘いものは高い、食べられる内に食べたいだろう。

 仕方ない、仕方無いのだが。

 店の中に入る前財布の中身を全開にして「これだけしか手持ちがない」とは言った、だが目の前の量だ。

 眉間に皺を寄せながら憂い顔のサディアスは、どうしようと考えた。間違いなく、足りない。

 本当遠慮がない。

 侘しい学生のサディアスが金策について頭を巡らせていると、1度手を止めたセドリックに訊ねられる。

 「聞きたいんだけどさ、サディアスとアンディの関係ってなんなん」

 「は?」

 「は? じゃねーよ、幼馴染みだとは聞いたが全くわかんねー」

 行儀悪くフォークを突きつけるセドリック、意地の悪い笑顔は自信に満ちている。

 「最初、避けてる理由が嫌いだからと思ったが違うよな、問題に全力で取り組みに掛かってる。嫌いならこの行動はできねえなと。

 ほれ、お前原則無関心だろ? 面倒事は避けるに限るってな。

 だから不思議でな、俺オトモダチの話聞ーきたーいなー」

 「言わねぇ、関係無いだろ」

 第一、それ所ではない。

 明るく尋ねたセドリックを清々しい程一蹴する、眉間に皺を寄せ歯を剥き出しにして威嚇する。

 セドリックはそんな友人の姿をふっと鼻で笑った後、勝利を勝ち誇るような笑顔を浮かべた。にんまりと口の両端を吊り上げた、それはそれは意地の悪いものだ。

 「貸しの対価は昔話の予定だったんだが仕方ないな、払ってくれる予定だったみてーだし頼んでいい?」

 「……もぐぞ」

 「いい子ちゃんのお前が学園の風紀を乱すわけねー、脅しも無駄って本当は分かってんだろ? あれー何で俺無事なんだろうなー」

 「……」

 ケラケラと笑うセドリックの楽し気な口調は、勝利を確信しているからか饒舌だ。反対にサディアスは黙り、はーっとため息をついて上を見上げた。その額から、皺は消え去っている。

 「大人ってずるい」

 「違う、俺がずるいんだっつの」

 お前らチョロすぎ、そう宣う彼に対してサディアスは佇まいを正す。目の前の物を肩代わりするよりマシだ。

 そうして話は始まった。



     ○ △ □



 少年が学園へ来る前の話

 この世界には、少し普通と違う子供が時折生まれます。

 サディアスに残っている最初の記憶は、ベッドでのたうち回る自分でした。

 「い、たい。おかあさん、あたまいたい! うううー」

 泣き続け、疲れて眠り、目が覚めると頭痛に苛まれる。そんな生活は家族も疲弊するでしょう。

 「捨てようか」「そうですね」そんな話があったそうです。朝晩構わず泣く子供に、医者は匙を投げました。

 捨てるならせめて凍えないように、冬を越してから。子沢山の家庭は、けっして彼を嫌っているわけではなかったのです。

 その後彼は、その家から姿を消したそうです。


 少年が学園に来たばかりの話

 サディアスが起き出すと、周りの生活音が無い事に気がつきました。頭の痛さを増やす、人の声や生活の音。

 幾分かマシな頭の痛みは、それでも不安を感じとり痛くなあれと呪いをかけ始めました。

 「ここ、どこ。おかーさ、おかーさん?」

 彼が泣きそうになる前に、ベッドに伏せた何かがガバッと起き上がりました。

手で顔を触れるぐらい近くにいたそれは、どうやら人間のようです。

 「……やあ、始めまして」

 キラキラと輝いていました、愛らしい顔に少し長い金の髪。柔らかく弧を描いた瞳は、雲も無い空を取り込んだ青い海の色をしています。

 年は一番上のお兄さん位でしょうか、上のお兄さんは15歳になると自慢していました。

 絵本から出てきた王子様みたいなその人は、頭がズキズキと痛み始めた彼に言いました。

 「いいかな、良く聞いて。君の頭が痛いのは、絶対に、治ります。

 さ、これを飲みなさい、頭が痛いのが半分無くなるお薬だ。良く頑張った、辛かっただろうに偉かったね」

 王子様は小さな袋をぴりりと破り、水とパンも手渡しました。

 サディアスは苦いお薬も全部飲み込み、いたいのが無くなる、嬉しいと思いました。

 食べる姿をにこにこ見ていた王子様は、食べ終わったのを見届けるとよいしょっと立ち上がりました。

 もういってしまうの? サディアスが不安に思うと、向かい合うようにベッドに座り込みました。

 「さあおいで、今からお家の紹介をしなければね。君のお兄さんより小さいけど、これでも力持ちなんだよ」

 両手を広げてさあおいでのポーズ、にこにこしてる。にこにこ。

 おずおずと腕の中に入れば、むぎゅうと抱き締められました。

 そうして視界と体がふんわりと持ち上がります、サディアスはわくわくし始めました。

 まるで天使様のような優しさの王子様に、すっかり夢中になったのです。


 王子様は宣言通り力持ちでした、サディアスを抱いた腕はよろけもしません。

 ぎゅっと抱き締め返すと、何か良い匂いがします。サディアスが何の香りだろうと考える内に王子様は、ドアをくぐり、廊下に出て、次々と部屋を紹介していきます。

 最後の部屋は、食事場でした。王子様は見せたいものがあるんだと言い、テーブルの前でくるんと体を反転させます。サディアスの視界に映ったのは、人の頭ほどの大きさの箱でした。

 「この中には薬が入っている、毎日ご飯の後に飲んで貰うからね。これが無くなる頃には、君の頭痛はきっと治っているだろう。さ、次は外に行こうか」

 遠ざかっていく白い箱を見つめながら、サディアスは思いました。アレは無くなるのかな、ぎゅうぎゅうにされていた。僕がおっきくなるまできっと大丈夫と、サディアスは安心しました。

 心地好い揺れと力強い心臓の音に、とろんと夢心地になっていると、キィと音が鳴り後頭部を風がふわりと撫でました。

 鼻が少し冷たさを、閉じた目には日の光を感じます。

 王子様はお家に帰っちゃうのかな。怖くなって背中をぎゅっと掴むと、同じくらい背中に温かさが帰ってきました。

 求めれば応じる暖かさに胸をいっぱいにしていると、王子様の足が止まりました。


 ぎゅっと抱き締められたかと思うと、体がふんわりと落下していきます。2人で芝生の上に座り込んだのです、正しく言うとサディアスは王子様の膝の上にいるのですが。

 「自己紹介が遅れてしまったね、私はアンディと言う。教師を生業としていて、今休職中。

 今日から離れで一緒に住むことになる、同居人だよ。これから君が一人で生活出来るよう、お手伝いをさせて頂くね。短い間だけども、どうぞ宜しく」

 「……」

 「それと、いくつか謝らなければいけない事があってね。まず、君はお家に帰せない。お母さんが恋しいかも知れないが、申し訳ない。それから勉強をして貰わなければいけない、運動もね。これからに必要な事なんだ、後……」

 「……いい」

 サディアスはどうでも良いと思いました。

 この美しい優しい生き物と一緒なら、何だっていいと思ったのです。日の光を浴びていっそうキラキラする王子様を抱き締めて、こっちを向いてとおねだりをします。

 慈愛を詰め込んだ瞳の持ち主はじゃあ、ご飯を食べよう。お腹が空いただろう? と尋ね、優しい音色と共に愛し子を抱き上げました。




 そうして、王子様と少年は3年と少しを幸せに暮らしました。

 美味しい食事を食べて、面白い事を沢山教えて貰い、天気の良い日は追いかけっこをしました。少し小さなお風呂に入り、ふっかふかのベッドで寝る。勿論全て、大好きなアンディと一緒です。

 沢山あったお薬は、3回暖かな冬を過ごせる位ありました。頭の痛みも、今では少し気になる程度です。

 しかし雛が巣立つには足りませんでした、サディアスはまだ8歳です。雛も巣立つ気がありませんでした。

 ある日、アンディが告げました。

 「サディ、一週間後に下宿に移ろうか。薬も無くなるし、君は愛らしいからすぐ馴染めるだろう。学園について覚えているね、君は近い内にそこで多くの事を学ぶ事になる」

 「はい、たのしみです。アディもせんせーに戻るんですか?」

 「それは上乗。そうだね、学園ではアンディ先生と呼ぶように」

 「はぁい、アンディせんせー!」

 サディアスはわくわくした気持ちでいっぱいです、学園に、新しい出会い。未知の出来事でも、アディと一緒ならへっちゃらでした。


 サディアスに突きつけられた現実は非常でした、一番始めに分かったのはアディが一緒ではないと言うことです。その事実はあっさりとやって来て、サディアスの心をぶちました。

 なんで? 僕が嫌いになったの!?


 下宿と言う場所は、アディ位の子供が沢山いました。年齢がばらばらな彼等に元気良く挨拶をすると、頭を撫でられたり振り回されたりしました。きゃー! と嬉しそうに声をあげるサディアスを、お姉さんや年上のお兄さん達が微笑ましげに見守ります。

 夜には皆で食卓を囲み、お風呂ではちょっと泣いたりもしました。もういきなり頭にお湯をかけたりしないよと、一番年上のお兄さんに約束させて、それからベッドに潜り込んでアディを待ちました。

 何を話そうかとわくわくしながら、肌寒い夜に2人で寝る暖かさを思います。アディと話しながら眠りにつくのは幸福なことだ、とサディアスは分かっていました。

 しかしその日は、来ませんでした。


 朝一番、ようやく待ち人はやって来ました。

 「アディ! アディなんで、なんで僕と一緒じゃないんですか!?」

 「……? 大丈夫、週末は必ず会いに行くよ。寂しいなら会いにおいで、可愛いサディ。私は基本的に執務室にいるから、間違えないよう気を付けるように」

 アンディは毛の色がすっかり青に変わった小さな子を撫でます、にこにこと微笑む笑顔は何一つ普段と変わっていません。

 何故笑顔でいられるんだろう、僕はこんなにもショックなのに。他の子供と話始めるアディを見て、目に涙が溜まります。

 僕を見て

 必死の思いでアディを見つめると、苦笑しながら両手を広げてくれます。

 「そんな顔しないで、可愛らしいおちびさん。決心が鈍る」

 「……」

 「サディ私はね、君に大人になって欲しいんだ。他の子供達と同じように、健やかに成長して欲しい」

 「……むぅ」

 「大丈夫、だいじょうぶ。見放したりしないさ、信じられない?」

 腹に突撃する愛らしい子供の背中を、ぽんぽんと叩くアンディ。

 サディアスは納得出来ませんでした、だって独り占めしたいよ、そう思いましたがグッと我慢します。

 平等に笑顔を振り撒かれる他の子と同じになりたくない、特別になりたい。なりたい。

 子供なりに考えた結論は、早く大人になることでした。


 サディアスは回りの観察を始めました、真似をするのは学習するのに一番だと学んだからです。

 2番目に年上の、とっても大人なお兄さんの仕草や話し方を真似しました。お兄さんの後ろをちょこちょこ、カモの子供の出来上がり。

 良く似てるね、可愛い可愛いとアディは言いました。

 次に3番目に年上の、ぶっきらぼうなお兄さんの話し方を真似ました。お兄さんが言うと優しいのに、自分が言うと冷たく聞こえてしまうので大変でした。

 「なんでいつもにこにこしてるんだよ、へんなやつー」

 君が可愛くて仕方ないからかな、貰った飴は甘くて幸せでした。

 中々上手く行かないのは下宿のお兄さんを選んだ為でしょうか、学園に通い始めているサディアスは、体育教師に目をつけました。

 「ほら! もうアディより強いぞ、がおー」

 「わぁ凄い、私が襲われたら守ってくれるかい?」

 「うん」

 大変可愛らしい返事でした。中々親離れをしなくて気になりますが、それが些末だと思える程度には可愛い可愛いと思えるのです。

 他の子何て目じゃない位、アンディは充分に溺愛しておりました。

 しかしサディアスは気がつきませんでした、アンディの態度の変わりようは大変緩やかだったのですから。

 月日はひたむきに進み続けますが、劇的だと言える変化はありませんでした。


 13の誕生日を迎える前夜、2人はアンディの執務室にいました。

 日にちがずれたりもするけれど、毎年誕生日はささやかな願い事と共に祝います。

 今年のお願いは、アディの自宅に迎え入れて貰う事です。1日の始まりは近所を2人でぶらぶらして、夜は一緒に作った食事を食べました。

 あらかじめ「狭いよ」と聞いたベッドは言う程狭くはなく、ちゃんとくっついて寝れば充分広々としていました。

 おでこ同士がくっつく距離は、小さな頃には無かった距離感です。既に半分寝ているアディは年相応に幼く見えて、何だが妙に心臓が高鳴りました。

 首筋辺りに顔を埋めると良い匂いがします、身だしなみをきっちり整えるアディは桃の香りだよと言っていました。

 涙が出そうな位気持ちが何かに揺さぶられます、本能に従うまま瞼をそっと唇で食むと心臓が暴れました。金糸の柔らかな髪や首筋にも唇で触れれば、得も知れぬ多幸感がはーっと口から漏れて出ます。その当時のサディアスには、判別の使用がない気持ちでした。

 心臓が痛くて辛くて、それでも側にいたいと願います。

 もう少しだけ触れたいと考えたその時、アディの目が開きました。

 サディアスは凍りつきます。

 アンディは寝ぼけ眼で、カッと目を見開いたサディアスを見ました。

 不思議な様子の可愛い子は、どうしたのだろう? と首を傾げました。

 眠い頭で枕か! と当りを付けたアンディは、おいでおいでと手招きをします。

 中々従わない子供に、今更照れたのかと思いはしますが、とても眠かったので頭をわしづかんで腕の中へと誘い込みます。

 ぽむぽむと背中を叩いてあやし、アンディは改めて眠りに付きました。

 サディアスの方はといえば、芽生える何かを抑えるのに必死でした。

 何かは、ほの暗い炎で燃え盛ろうとします。サディアスは内心で消えろ消えろと唱えながら、一晩中戦うのでした。


 アンディが朝起きると、直ぐに異変に気がつきました。利発そうな可愛らしい顔に、隈が出来ています。

 何事かと問おうとすると、その前にサディアスの口が開かれました。

 「……ご免なさい」

 謝罪で始まるその内容は、下宿先に会いに来ないで欲しいと言う内容でした。

 時間が欲しい、ひとりきりになりたいと言われては、アンディにもどうしようもありませんでした。

 只1つ、何とか会話を試みて、嫌いでは無いことだけは聞き出してそれで是としました。一体何があったのかは知りませんが、そっとしておくのも大事なことです。

 後は3年間、アンディが女になるその時まで。2人はずっと離れていたのです。

 おしまい



     ○ △ □



 思い出しながら話したそれは、今思えば恋だろうと言えた。

 むしゃむしゃと食べ続ける友人を見ながら、語り続けたサディアスは思う。流石に序盤の序盤しか話せなかった、色々な意味で問題のある恋心を暴露する勇気はない。

 かなりの量を端折りながら説明したのであまり時間は立っていないはずだが、大量のスイーツを粗方殲滅し終わったセドリックに戦慄を覚える。これは俺の知ってるセドリックなのだろうか。

 「以上が、昔の話だ」

 「おう」

 「酷い事を言ったと、我ながら思う。でも付きまとわれたら、俺が大人になれないから……が理由だったと思う。うろ覚えで悪いな」

 「いや、ちっちぇー頃の記憶ならそんなもんだろ」

 まあそこそこに面白かった、セドリックの感想は随分と雑だ。

 「で? これからはどうするん、言えねーなら別にいいけど」

 「当たりは付けてある、ただ内容は極力秘密と言われた。……後で甲斐摘まんで説明する、頬を膨らませるな殴るぞ」

 ぎゃはははと腹を抱えて笑うセドリック、回りから視線が飛ぶが両方ともどこ吹く風だ。

 じゃ、またな。カフェを出た後別々の方向へ歩み始める、2人の関わり合い方はさっくりとしていた。



主人公がこんな子だとは、私は思いませんでした。

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