0 幼馴染みが女体化したようです
文章を書くのは読書感想文で止まっております。
気になる点とご感想の一言御座いましたら、お待ちしております。怯えてお待ちしております[壁]`)
ーーばさぁ、と紙が落ちる音が遠くからする。当たり前だ、俺が落としたから。それよりもさ、幼馴染みが女の子になってしまったほうが問題だと思わないか?ーー
授業が終わり、人騒がしくなる廊下。
早々に下宿先へ帰ろうと歩いていると、声を掛けられた。
「サディアース、この書類頼むわ。俺用事ができた」
「代わりに届けろと?」
俺に話しかけるそいつは、雑に俺の胸へ書類を押し付けた。おい、少し落ちたぞ。書類は汚すのはいけない事だ、手早く拾う。
顔を上げると、意地の悪そうな笑顔がニンマリと笑う。受けてくれるだろう? と語る真っ赤な瞳が腹立たしい。
確かに、忙しい者を助けるのは人として当たり前だな。ただこいつを「はい、いいですよ」と助けるのは少々問題があった。
「ならセドリック、何故自分から教師に手伝いを申し出た」
こいつは自ら手伝いを買って出たにも関わらず、俺に押し付けようとしている。少し所か問題だらけだ、合理性が垣間見えない。
眉間に皺を寄せて拒否をしても意にも介さない、それ所か俺の様子を見て笑う。蹴っ飛ばしてやろうか、見物だな。
「まあ良いじゃねーか、細かい事気にすると禿げるぞ。眉間の皺も非モテ要素」
「うるせぇ剥ぐぞ」
思わず悪友の言葉に噛みつくと、落ち着いて聞けと宥められる。子供扱いすんな、ポンポンと肩を叩く手を叩き落とす。
「いやマジに急用なんだって、桃ちゃん関連は時間かかるし」
曰く女教師が忙しくしていたら助けるものだし、本当に急な用事を入れられたとの事。
「次の昼飯は何を頼んでもいいぜ、宜しく!」
そう言うのなら流石に承諾してやる、飯に釣られたわけでは無い。あちこちに気のある態度を振り撒く女の敵は、今まさに女生徒へ流し目を送りながら俺の前から去っていく。
セドリックがクルリと振り返った。
「お届け先はアンディで頼む!」
「……セド、待て!」
爆弾を置き土産にした、完全に笑っていた。
声はかけた、寧ろ怒鳴ったのだがセドリックは姿を消した後だった。
アンディと呼ばれる教師には、あまり会いたくなかった。ここ数年交友がパタリと途絶えてしまった、とても美しい幼馴染みと。
○ △ □
セドリックと別れた後、アンディの執務室の前で立っている。
正直、平静で入られる自信がない。語弊があるな、間違いなく挙動不審になる。
「……アンディ先生、いらっしゃいますか」
ドアをノックしても返事が無い、オカシイ。
何度か叩いてから、念の為とドアノブを捻るとすぐ開いた。何で開くんだよ、施錠しろ、機密書類とかあるだろう。
キィとなるドアは蝶番に油をさし忘れたのか、小さく鳴く。
部屋の主を探すとソファーの横から金の髪が零れていた。
……間違いなく寝てやがるな。そうだ、軽く書類を叩き付けるか。間の抜けた顔ぐらいなら、引き出せるのではなかろうか。
笑顔が常備のこの幼馴染みが少し怒る様を想像し、その後笑い合う未来を夢想する。我ながら良い案だと、自画自賛してソファーの背に近寄っていった。
女がいた。
一瞬、思考が止まってしまった。
(こいつは、誰だ)
心臓が早鐘を打つ、ここはアンディの執務室だ。プレートも確認した、位置も把握していた。間違いようがないはずである。
少し寄って女の顔を見つめる。
今はあどけなさの色が強いが美人の部類、笑ったら可愛い。長い髪は金糸で作ったような硬い色合いだが、触ると柔らかいのを知っている。
違うそうじゃない!
さあ思い出せ、昔授業で「カラフル学園過ぎて、一般生徒以外は髪色が被らないのはビックリだよねー」と言う豆知識を教師が披露していた。
アンディは金だ、目の前の女も金。外部の人間は許可なく入ることは不可能。
なら答えは1つしか無いだろう、最初から予想はできていたが。
(やっぱりアディかっ!)
目の前の教師の愛称を内心で叫ぶ、今はアンディ先生としか呼んでないのに、慣れ親しんだ呼び名は怖い。
正直すごい動揺した、到達した現実から逃避したい。
これは夢ですと何かに否定されたくて、回りの状況を見渡す。客人のもてなしを兼ねた机、椅子、ソファー。小さな執務室に詰め込まれた本棚。机には飲みかけのコーヒー、ペン、複数の手紙、悪女の手引きと書かれた本。
……悪女の手引き?
手が自動でソファーの背を掴み、もう反対の手は机の謎へと延びていく。
違和感しかないタイトルが手の中に納まった、手書きで丁寧に表題が書かれている。美しい装丁をしているそれは背表紙が無く、薄く軽い物だ。
もしかしてこの本は赤の他人の持ち物で、侵入経路が書かれているのではないか。馬鹿な考えが頭に巡る、そんなわけがあるか。
「んん、誰……?」
ページを捲ろうとしたその瞬間、呻き声が体の下から聞こえた。あまりにもはっきりとした声に、思考が停止する。
やばい、反射的に体が跳ねた。
体が本能で逃げ出すために、ひとりでに動き始める。目でチラと確認すれば、まだ目は開いていない処か微振動の気配すらないのに。
まだ起きていない大丈夫だ、そう言い聞かせてもソファーは目の前から遠ざかっていく。
あああ、今後を考えるなら今いた方が絶対に良いのに。
結局見つかる前に、逃げた。