閑話05 学園の始まり
「ようこそ、精霊達の漂う国アトランティスへ。私ブリュンヒルデがご案内いたします」
例のごとく門の外側に開かれた"ゲート"を潜り、学園生や教師がやってきた。
それをブリュンヒルデが迎えに行き、学園地区まで案内をする。
「この国の法は"ゲート"で強制的に入るので、忘れたとは言わせません。基本的に4大国と変わりませんが、この国特有の……精霊様や果樹周りへの危害は有無を言わせず重犯罪奴隷堕ちするのでご注意を」
"ゲート"を潜った者達を連れながら、注意をするが……ちゃんと聞いているかは怪しい。子供達のみならず教師組もキョロキョロとしていた。
法の方にしっかりと書いてある事を敢えて口にして釘を差しただけなので、ブリュンヒルデも言い直すことはなくスルーする事にした。どうせそう簡単に危害を加える事はできないし。
「ここが学園地区になります。学園関係者は主にこの地区で過ごすことになると思います。学園向けのお店も用意されており、今後も増える可能性があります」
学園地区の南門付近は学園向けのお店が建ち並ぶ……程はまだ無いが、商店街のような場所になる予定だ。
「学園寮は正面の建物になります。学生だけでなく教師もですね」
「え、あれ……?」
「寮ってか……」
「屋敷……?」
「いや、お城……?」
「1階に大浴場や大食堂があります。教師用の会議室もあの建物にあり、あの建物が学園地区の中心になります」
スタスタと歩き続けて学園寮の元へやってくる。
学園関係者全員が使用するだけあってかなりのサイズだ。
「すっご……」
「でけぇ……」
「中には所々『案内マップ』と言う物があるので、慣れるまではそれを見ながら移動してください。部屋割りなどは基本的に学園にお任せすることになります。細かい話は後程、ルナフェリア様から説明があります」
部屋割りなどをどうするかは、学園側の問題なので丸投げする。
とりあえず部屋割りを決めて貰って、落ち着いた頃に今いる者達に纏めて説明をする。後々こちらにやってくる帰国組には今いるメンバーに説明させる。
大体おやつの時間頃、東にある戦闘科の訓練場に学園関係者全員を集める。
そこへルナフェリアが転移でやってきた。
「諸君、我が国へようこそ。学園寮は気に入ってくれたようだな、何よりだ。さて、これからこの学園地区について説明をする。長いし面倒だから1度しか言わん」
まずこの国の法についておさらいだ。大人達はともかく、子供達用に分かりやすく簡潔に纏め話しておく。学園地区に木はあるが、果樹は無くしてある。
学園でのルールなどは基本的に国は関与しないから、今までのを引き継ぐなり新しく考えるなりするように。
そして、この学園に仕込んであるシステムについての話だ。
簡単に言ってしまえば、東にある訓練場外で戦闘行為は止めろと言っておく。
1番重要なこととして経済法科、戦闘科、職業科の校舎の位置も伝える。
そして、新しい分け方についてもだ。
「経済法科学園は経済法科と変わる。武闘学園と魔法学園を統合し、戦闘科とする。そして新たに職業科を作成する。こちらは主に職人を目指す者達が入る場所だ。生産ギルドと商業ギルドに所属している者から教えて貰えるだろう。更に侍従科と言う科目を作ろうかと思っている。執事や侍女を目指す者達が入る場所だな。まあこの辺りが機能するのはもう少し先だ。そんなのができるぐらいの認識でいてくれればいい」
入学する者に教師側も両方募集しなければならない。更に年少組も考えておきたい所だからな。職業科が機能するのはもう少し先だろう。
「説明はこのぐらいか。学園長、何かあればあの建物に来るか使いを寄越せ」
「分かりました」
「うむ、では解散だ!」
陛下が撤退した為ぞろぞろと動き始める学園組。
「さて、君達。基本的にはいつも通りにするけど、しばらくは班ごとかな」
「迷子になっても助けてやれんからな」
「「「はーい」」」
ワイワイ散っていく子供達を見送り、大人達は設備の確認に向かった。
見た感じで凄い凄いと思っていた学園寮だが、改めて設備を確認すると言葉も出ない状態になる。
設備の全てが魔道具になっており、ところどころにメーターが存在し、状態が分かるようになっていた。
『案内マップ』の横に同じようなのがあるが、そちらは緑色の線が万遍なく通っており、横には『緑:正常』『赤:異常』と書いてある。
そして、全ての階層。学園寮全体の状態が見れる専用ルームも用意されている。
明かりも魔道具、キッチンも当然魔道具、お風呂も魔道具だし、トイレもそうだ。
そして、学園寮その物が魔法装置。"メディテーション"も標準搭載。
そして学園寮だけでなく、各校舎も勿論同じ仕様だ。キッチンやお風呂はないが、簡易シャワーはついている。
正直設備がルナフェリアの前世レベル……下手したらそれ以上となっている。
これらと同じ仕様なのはルナフェリアの自宅である大神殿と各ギルドのみだ。
首にならない限りここに住むことになる職員大歓喜である。間違いなく勝ち組。
しばらくすると続々と帰国組が学園にやってくる。
「えっ、学園……えっ?」
「あの魔法陣どうなってんだ?」
そして、学園が始まる。
「今日から授業が始まる。中央4大国に加え、この国の陛下が話し合い、ここに学園が出来た。みんなも既に見て回ったと思うが、かなり凄い。全て陛下直々に作成された物だ。君達の為に土地から建物、設備全てだ。感謝を忘れぬように!」
学園長の挨拶が終わり、早速授業が始まる。
経済法科は北の校舎へ、戦闘科は東の校舎へ向かう。
そして東の訓練場に来た戦闘科の生徒を待っていたのは、見慣れた先生達と……。
「まずは自己紹介をしよう。フリードリヒと言う。本来はルナフェリア様の護衛が仕事だ。簡単に言えば……そうだな、近衛騎士の隊長をしている」
「私はベルへルミナ。フリードリヒが隊長なら私は副隊長になる」
エインヘリヤル隊の纏め役フリードリヒと、ワルキューレ隊の纏め役ベルへルミナが先生達と共に立っていた。
自己紹介を聞いた生徒達の反応は『えっ』だ。近衛がこんな場所にいたらそうもなろう。騎士の中でもエリート中のエリートだからな。腕は当然ながら身分もそれなりが基本だ。
「ああ、心配しないでくれ。護衛は別の者が付いているし、陛下から暇なら戦闘科の奴らの相手してきたらどうだと言われたのでね」
「そういうことですから、我々以外の別の者もふらっと来るかもしれないので、我々のこの服装は覚えておいて下さい。この服装、このマークの無いものは偽物ですからね。近衛と言っても信用しないように」
「と言うか、もしそんな奴がいたら教えてくれ。しばき倒すから」
「まあ、そういう者はこの地区にそもそも入れないでしょうが」
ニッコリとそう言っていた。
まあ、自分が近衛だとぬかしたら処罰確定だからな。
それはともかく、生徒からしたらこれは嬉しい事だろう。
現役近衛騎士直々に教えてくれるのだから。しかも今日だけじゃなく、たまに来るという。戦闘科はテンションが上がっていた。
魔法の方にルナフェリアが乗り込むのは少々先のお話。




