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転生先は現人神の女神様  作者: 子日あきすず
ファーサイス 不死者の森編
34/88

32 治療部隊と1日目の終わり

今回はちょっと長め?

満月が地上を照らす夜、ルナフェリアは優雅に精霊達とティータイムを楽しんでいた。

……作戦中だけど。


そして、ちょいちょい運ばれるようになってきた怪我人達。ジェシカとエブリンが張り切っている。

それと2人から報告があった。何か、ちゃっかり魔法のエフェクトが変わっているようだ。

今まで《回復魔法》って虹色の光が云々だったけど、魔導文字が対象の怪我した所に吸い込まれてから、虹色の光が発生し治るようだ。

まあ、うん。光が発生しなかったら直接治るグロ映像を見せられるだろうからな……。

補助系や回復系の魔法、対象指定型とでも言おうか。これ系は足元に魔法陣が出るのは変わらず、対象側は魔導文字が周囲に出るようだ。対象にされているかどうかが、分かりやすくなった模様。

この魔導文字が体に吸い込まれ、光を発し、効果が現れる。光の色は今までと変わらないようだ。

レジストされると魔導文字が弾かれてバラバラになって消えてった。

うん、嫌いじゃない。良い演出ですね。


それだけ確認してティータイムに戻った。張り切ってる2人の邪魔するのもあれだし。

よって、ジュースでも飲みながら魔眼で眺めている訳だが、ここで、思わぬ効果が出てきた。

軽く流したけど、ちゃっかり《透視の魔眼》という犯罪者御用達の魔眼があった。

《月の魔眼》と《透視の魔眼》でもう何も怖くない。

というか、これDとかCは下げたほうが良いんじゃないかなぁ……。


「隊長とギルマス、少し良いかしら?」

「なんだ?」

「なんです?」

「DやC辺りは下げた方が良いかもしれないわ」

「……理由は?」

「先行組がファントムナイトやデスナイトと遭遇。2匹とも闘気持ちを確認。そして、魔眼で見えるあら方がC指定以上」

「ぐぬぬ……DやCが人数的に1番多いってのに……」

「ただでさえ格上のファントムやデスを相手に、情報も経験も無い闘気使用者との戦闘か」

「剣を振ると同時に闘気を飛ばしての遠距離攻撃。あのまま立ってたら、Aランク1人死んでたわ」

「むぅ……しかし、ベテランだけじゃ体力の問題もあるし、何より数がなぁ……」

「1日2日での制圧はやはり無理ですか」

「ベテラン組しか使えない状況も考えてはいたが、もうか……」

「では、ベテラン組の作戦に切り替えますか?」

「奴らの命を無駄にする訳にもいかないか……お嬢、魔眼でどこまで把握している?」

「……先行組の進行度、約半分。DやCといった中級組の進行度は更にその半分。先行組の隙間に居た者達と中級組が戦闘、五分五分の為被害あり。今医療班に世話になってるのがその連中。敵はレッドスケルトンやレイス、1番上でスケルトンアーマーウルフがたまに混じるぐらい。先行組はもう最低でもAとの戦闘が基本でSのファントムとデスが混じり始めている。そして、湖の方にはSをそれなりの数、存在を確認。夜になったから動き始めたと思われる。よって、戦闘の本番はここからと判断される。その為DやCでの戦闘は不可能。ファントムナイトとデスナイトに皆殺しにされる可能性大。正直私もそろそろ動こうかと思っている」


ギルマスは……なぜ苦笑している? ヨハン隊長以外は唖然としてるし。


「……予想以上の情報が出てきたな。DとCには中間ぐらいで、ベテラン組の逃げ込む場所を一応作っておくべきか……」

「そうですね、アンデッドを残すわけにはいきませんし、休憩地点にはなるでしょう」

「よし、ベテランのみの作戦に切り替えるか!」

「夜は下げて防衛に徹し、日が出ると共に攻め込んだほうが良いかもしれませんね……」

「それが理想ではあるんだが、夜に活発になるからな……ベテラン抜きで防衛が持つか……」


伝える事は伝えたし、後は私の仕事じゃないな。頑張れ。




「重症の人から連れてきて下さい!」


治療班もそれなりに忙しくなっていた。

DとかCからしたら、AやA+の魔物は相当辛い。しかも、視界の悪い森でA+のスケルトンアーマーウルフとか来たもんならボコボコである。冒険者側が。

そんなこんなで、忙しくなっていた。


「すまん! 通してくれ! うちのを! うちのを助けてやってくれ!」


そんな時、後ろの方から叫び声が聞こえ、皆の視線が移ると……。

半身血だらけの獣人族の男が支えられていたが、既にほぼ意識が無さそうだ。


「こ、これは……」


ジェシカとエブリンは聖女一行と呼ばれていただけに、《回復魔法》を使い慣れている。

それはつまり、己が治せる限界も知っているということであり、ジェシカが見た男は、既に治せる限界を超えていた……。


《回復魔法》も万能というわけではないのだ。治す時に体力を消費する。つまり、疲労する。

手術には体力が必要と言われるあれだ。

瀕死になればなるほど、生命力の低下は早くなっていく。《回復魔法》での増加分より、低下が早ければ当然死ぬ。体が治っても体力が足りず、目が覚めずにそのまま死んでしまう事もある。

そんな事もあり、《回復魔法》は万能ではない。神々の奇跡ではあるが、所詮一片である。


だが、そうとは取られず……。


「俺らを庇ってこうなったんだ! 獣人族だが良い奴なんだ! 頼む!」


《回復魔法》の使い手を抱え込んでいるのは人間至上主義の法国だ。

『獣人族』だから、と言う理由だと思っているんだろう。


「私は教会の人間ではありません……ベアテ様、ルナ様に使用許可が欲しいと伝えてもらえますか?」


そう言ってから数秒後、横に少女が現れた。


「ルナ様!」

「……ダメよ」

「ど、どうしてですか!」

「超級の"リストレーション"を使うのでしょう?」

「はい! 少しでも可能性があるのなら!」

「"リストレーション"はね、一度かければ良いのだけど、効果自体はゆっくりで全身を直すの。この人の状態じゃ、効果中に死ぬわ」

「そ、そんな……ルナ様でもどうにもなりませんか……?」

「……手はあるけど、使いたくないわねぇ」

「頼む! 頼むよ! 良い奴なんだ! 仲間なんだ!」


瀕死の男を支えてきた男が必死に懇願している。

その男をルナフェリアは一瞥し……。


「エブリン、来なさい」

「はーい!」

「何も《回復魔法》1つでやる必要はないし、1人でやらなきゃいけないという決まりもない。ジェシカは"リストレーション"。エブリンは"リラクゼーション"。その後2人で"ハイヒール"を掛け続けなさい。どうせ放っといても死ぬのだから、やってみなさい」

「は、はい!」

「了解です」


ルナフェリアの言うように、そんな決まりは当然無い。

ただ、初級だろうが《回復魔法》という事で、お金を取られる。それも、そこそこな額を。

ポーションやハイポーションといったものは、徐々に効果が現れ、傷が残ったりする。

回復魔法は一部を除き、即座に効果が現れ傷が残らない。

その為、金額の差があるのだが、時が経てば経つほど、教会組が調子に乗り、金額の差が大きくなっていった。そんなこともあり、1人を複数で治すなどは行われないのが普通だった。


「すぅ……はぁ……」


ジェシカは深呼吸をし、落ち着かせる。

《回復魔法》、それも超級の詠唱だ。地上で超級を使える人類はただ1人、ジェシカだけだ。

ルナフェリアに拾われ、慈愛と成長の女神との遭遇などにより、ジェシカは超級、エブリンは上級まで使用可能になっている。


ジェシカは杖を持ち、"リストレーション"を選択する。

すると足元に6メートルにも及ぶ巨大な魔法陣が出現し、詠唱(魔法陣に魔力を注ぐ事)を開始する。

魔力が注がれていくと、魔法陣は《回復魔法》の色、虹色に輝きだし、対象である瀕死の男の周りに魔導文字が出現していく。詠唱が進むにつれ、輝きが強くなり、魔導文字の文字数も増えていく。


その横で、エブリンも上級の"リラクゼーション"の詠唱に入る。

こちらも足元に虹色の、4メートル程の魔法陣が出現し、対象に魔導文字が浮かぶ。


「神々よ、癒やしの奇跡をここに…… "リストレーション"!」

「彼の者に安らぎを…… "リラクゼーション"!」


エブリンによる"リラクゼーション"で浮かんだ魔導文字は体に吸い込まれて、効果を発揮する。

ジェシカによる"リストレーション"で浮かんだ魔導文字は体に纏わりつき、失われた腕部分が光で形作られた所に、魔導文字が伸びていきテープのように纏わりついている。

あの中ではにょきにょきと生えてきてる事だろう……。


超級と上級の使用で二人共肩で息をしているが、すぐに"ハイヒール"を使用する。

とりあえず死なない程度まで持っていかないと、使った意味がない。

寝ている男に翳された手から魔導文字が出続け、治療が必要な所に自動的に飛んで行き、体に吸い込まれていく。


ルナフェリアは横で瀕死の男を見ている。その目が軽く輝いているので、魔眼を使用して眺めていた。

実は、魔力の流れを見れば『あ、死にそうなんだな』というのがある程度分かる。魔力制御の余裕が無くなり、体を離れていってしまうからだ。寝る、とかなら無意識下の制御があるが、死にそうならそれすら無い。そんな余裕がなくなるため、大体は分かる。

魔力の流れを見るには魔眼や、"マジーアトレース"という《無魔法》の中級が必要になるが。

その為、この方法は知られていない。


「ふむ。もう良いわよ」

「大丈夫なんですか……?」

「ええ、後は放っとけばいいわ」


"ハイヒール"も数分続け、流石に疲労が浮かぶ2人だが、ルナフェリアの言葉で復活した。

二人は魔法使用を止め、運んできた男に「もう大丈夫です」と伝える。


「ありがとう! 本当にありがとう! 出来る限りのことはする! なんでも言ってくれ!」

「気にしないで下さい。我々は神々より授かったお力を使用したに過ぎません」

「だ、だが……」


にこやかーに返すジェシカに言い包められる、運んできた男を尻目に、ルナフェリアは寝ている男を《生活魔法》の"ピュリファイ"で綺麗にしておく。

そんな中、突然でかい声を出す男がいた。


「す……素晴らしい! 素晴らしい《回復魔法》ですよ! 是非とも教会へ!」

「いやいや、これはアクウェス法国へお連れするべきでしょう」


ジェシカとエブリンは寝ている男の方を見ていた、つまりこの教会組には背を向けているのだが……完全に目が据わっていた。見た目はお嬢様してる美人の目が据わってるとそりゃもう怖い。

その場にいた冒険者や騎士達が、教会組を見て顔をしかめたと思ったら、2人を見てびくっ! ってする程度には。騎士達はポーカーフェイスも立派なお仕事なので分かり辛いが、微かに変化していた。


教会組が好き勝手言っている中、据わっていた目を戻し、笑顔に変えてから振り返った。


「そのお話はお断りしたはずですが?」

「先程は教会での治療でしたが、本部であるアクウェス法国への推薦でどうでしょう?」

「その《回復魔法》の腕でしたら大歓迎されるはずですよ」

「王族に近い待遇を約束しよう、どうかね?」


その言葉を聞いた、ジェシカとエブリンがきょとんとする。

その反応を見て行けると思ったのかニヤついているが当然そんな事もなく。

2人は顔を見合わせ、教会組へと向け……。


「「聖域で暮らしている今より良い待遇が約束できちゃうんですか?」」

「……」


ちなみに、2人の言葉を言い換えると『聖域より良い環境をお前如きが約束できるのか?』である。

当然黙る。できますとか言えるわけが無い。


「……聖域とは少し違うが、神聖な場所だぞ?」

「住んでいる所は聖域内で、1人1部屋。ふかふかベッド」

「お風呂もかけ流しでいつでも暖かいのに入れます」

「土地にある果実なら食べ放題」

「基本的に22時就寝、5時起床。食事も経費でお給料あり」

「土地には結界があり、万一抜けてきても精霊様達によるふるぼっこ」

「ルナ様がお作りになられた他では売られていない魔道具で快適空間」

「「これを超える環境と設備が用意できるのですか?」」

「……」

「正直待遇が良すぎると思いますが」

「良いに越したことはないので甘んじて受け入れる」


ルナフェリア家の労働環境が暴露されたが、教会組は黙った。


「2人共ポーションは?」

「騎士さんから支給品を貰っているので大丈夫です!」

「そう、なら飲んでおきなさい。あの者達は役に立たないようだしね」

「……そうですね。治すために使わないのでしたら不要ではないかと」


エブリンも頷いている。慈愛と成長の女神と話している時に居た2人には意味が通じたようだ。

『使わないようだし、もう没収していい?』『金儲けにしか使わないみたいだし、2人で頑張ります』

という会話である。


「じゃあベアテ、貴女が邪魔していると判断した場合、簀巻にして捨てておきなさい」

「分かりました」


その後ルナフェリアは、ジェシカとエブリンに"エクステントリラクゼーション"を使い、"ジャンプ"で椅子に戻った。


ジェシカとエブリンの2人は支給品のマナポーションを飲み、「忙しくなるなー」と言いながら治療に戻っていった。

そして、教会組の男達は、全員《回復魔法》が無くなっているが、気づくのはもう少しだけ後のお話。




さて、教会組の《回復魔法》は没収したし、お留守番してる者は一応まともそうだし見逃しておくか。

私個人としては教会自体を潰したい気もするが……はて、どうしたもんかねぇ。

やっぱ本体である法国を叩くべきか。

ちまちまと喧嘩を売って向こうから仕掛けさせて、反撃と言う大義名分を掲げて皆殺……粛清するか。

ああ、大量の精霊達をけしかけるのもいいな。大混乱しているうちに《回復魔法》を回収していく。

超遠距離から衛星砲サテライトシューターぶち込んで、天罰じゃーってのも面白そうだ。

はて、何が1番面白いだろうか。


……おや? ……ふむ。敵ながらやるな。




「おらぁ!」

「ふんっ!」

「"ライトボール"!」


骨と戦うとある冒険者6人PT。

盾で防ぎ、動きが止まったところで、もう1人が横から攻撃する。

攻撃を受け流し、バランスが崩れたところでとどめを刺す。

"ライトボール"を当て、怯んだ隙に1人が攻撃する。

と言うように、順調に倒していたのだが……敵の増援が来たようだ。


「っ! 敵が来る! 見つかってる!」

「まじか!」

「敵は!?」

「リーダー! 引こう!」

「分かった! 下がるぞ!」


リーダーの命令により全員が、すぐに撤退を開始する。


「左後ろに鎧ワンコだ、注意しろ!」

「おう!」


スケルトンアーマーウルフを警戒しつつ走る。

しばらく走っていたが、どうも違和感を感じ始める。様子がおかしいのだ。スケルトンアーマーウルフが攻撃を仕掛けて来ない。


「おい、攻撃してこねぇな?」

「あ、ああ。何か一定距離を保って追ってきてるような……」


これはまるで……。


「っ! 前だ! 避けろ!」

「なにっ!」


斥候が言うように前を見ると、デスナイトがまさに剣を振り下ろそうとしている最中だった。

咄嗟に横に飛び、その攻撃での被害は無かったが……。


「嘘だろおい……」

「初めてみたぜあんなの……」


そのデスナイトの後ろから……討伐推奨冒険者ランクSS+ファントムロードがタワーシールドと片手槍を構えて待っており、SSのデスロードもカイトシールドとモーニングスターを構えて待っていた。

当然ファントムナイトとデスナイトも数体おり、冒険者達の後ろからはスケルトンアーマーウルフと、さっきまで戦ってた御一行様だ。


討伐推奨冒険者ランクが2個上ともなると、1パーティーVS1体で死闘を繰り広げるレベルだ。

特にA+から上のS S+ SS SS+ SSSとなるとそれぞれに壁があり、桁が違う強さを持つ。


6人のベテラン冒険者、全員が絶望的な顔をしていた。気づくのが遅すぎた。

誘導されたのだ、スケルトンアーマーウルフに。まるで牧場犬のように。


「はは、まじかよ……SSとSS+だぞ……」

「っ! 来るぞ!」

「……ええい! やってやらぁ!」


気合を入れ直し、立ち向かう冒険者達だが、すぐにボロボロになる。

当然だ、相手は最低でも同格で、基本的に格上。更に囲まれているのだから。


「くそ! せめてお前らだけでもとか思ったんだが……」

「ははは! 馬鹿言うな。お前だけにかっこいい真似させるかってんだ!」


刺々しい黒い鎧に、兜を付け、タワーシールドと片手槍と言う重装備にも関わらず、重さを感じさせない速度で突っ込んで来て槍を突き出す。

決して油断していた訳ではないが、疲労も、2個上と言うのもあり、反応が遅れた。

対象になった冒険者はスローモーションに感じ、自分に迫りくる槍をしっかりと見ていた。

ああ、こりゃ死ぬな……とか思っていた時、ふと、ファントムロードとの間に少女が現れ、あろうことか素手で槍を掴んだ。思わず、尻餅をついてしまう。

その少女は掴んだ槍を、ファントムロードごと軽々と投げ返した。


「なっ……」


右手に持っている少女にとってはかなりでかいであろうスタッフ、それを地面にとんっと突きながら、抑揚の少ない、しかしよく通る声で呟く。


「《魔導武装》……聖なる鉄槌」


少女の、ルナフェリアの周囲に敵の数だけ光のハンマーが出現する。


「打ち砕け」


言葉とともに軽く振られる左腕。それにより、ファントムロード、デスロード、ファントムナイト、デスナイト、スケルトンアーマーウルフ。更に後ろから追いついてきた奴、全てに1本ずつ飛んで行き、白く輝く大木槌の様な光のハンマーが振り下ろされる。

追いついてきた中にいたスケルトンヘビーアーマーは、盾で防いだにも関わらず、盾とハンマーが当たった瞬間の光の小爆発により消し飛び、避けようとしたスケルトンアーマーウルフも、振り上げたまま滑るように移動してくるハンマーをもろに貰い消し飛んだ。

ファントムロードとデスロードは、盾で防ぎ耐え、盾で弾くように動かしたのだが……その弾かれる動きに逆らわず、でも軸は動かさずそのまま一回りし、野球かのごとくフルスイングされ、2体の顔面にクリーンヒットし、顔どころか小爆発で上半身ごと消し飛ばした。


人間が持っている訳じゃないんだ、武器自体が360度動き放題の回り放題。当たった瞬間消滅の相手からしたらクソゲーである。それを死なないとは言え喜んで相手するんだから、ファーサイスの騎士達もへんた……失礼、逞しい奴らだ。その御蔭でルナフェリアも練習になったのだから、何も言うまい。


「た、助かったのか……」

「その、ようだな……」

「全員集まりなさい」


特に何も言わずに集まる6人のベテラン冒険者達に"エクステントハイヒール"と"エクステントリラクゼーション"をかけ、回復させる。

ちなみに、この世界に靴のハイヒールは存在しない。靴は基本的に動きやすさを重視されている。

魔物がいるんだ、わざわざ自ら動きづらくする必要もあるまい。ただでさえドレスで動きづらいのに。

まあ、それはともかく。


ルナフェリアはこの戦闘中、ずっと目を閉じ、《月の魔眼》を使用していた。

《月の魔眼》と《透視の魔眼》による木をガン無視した上からの視点と、《月の魔導》による感知で森の中でも問題ない。

少し気になることがあるから魔眼で全体を見ているんだ。

決して常に目を閉じてるけど、何の問題もないキャラクターっていいよね、とか思っていない。


「やっぱり、敵の動きが変わったかしら?」

「……なに?」

「相手のブレインが動き出したか、生まれたか……」

「リッチか! それで誘い込まれたってのか……」

「慎重に動きなさい」

「あ、ああ。分かった」

「助けた報酬はこれだけでいいわ。他はあげる」

「いや、助けてもらったのにそれはな……」


ルナフェリアはファントムロードから出た魔導石を回収し、"ストレージ"に放り込んだ。

基本的に、冒険者同士は手出し無用だが、ヘルプを要請した場合はその限りではなく、その時のドロップ品は後腐れがないように、助けてもらった側が全て渡すのが暗黙の了解となっている。


「いくら魔導石とは言え、闇はあまり使い道がねぇ……それに、私は聖域に住んでるから魔晶石が自宅で採れるのよ」

「!? そ、そうか。聖域で採れるって言われてるな……まじで採れるのか」


魔獣や魔物から取れる、魔力の塊が魔石。色々な物の動力源となっている為、需要がある。

魔力の塊の為、使うと小さくなっていき、最終的に消えてしまう。

その魔物の属性を持っており、薄っすら色がついている。


魔法生物系から取れる魔力の塊が、魔導石。

入手法が魔法生物系からのみで、魔石より出力も高く、長持ちするため、高価。

魔石よりこちらの方が綺麗で、ひと目で分かる。こちらも属性を持ち、色がついている。


そして、ある特定の場所でのみ、発見される魔晶石。自然から取れる、マナの塊。

魔石が魔力石なら魔晶石は魔導水晶。魔導石より高出力で長持ちする。1番高い。

特異点と言われるマナ濃度の高い場所で、マナが結晶化してできる。

その特異点は大体聖域か、魔物の巣窟と化しているので、入手が命懸け。

マナ水晶のため薄っすら緑色。透き通る淡い緑で非常に綺麗。

そのため、バッテリー以外にも宝石の一種として扱う場合もある。

こちらは属性が無い、万能燃料。ただし、入手が命懸けで、あるとも限らない。


ちなみに、魔石と魔導石のサイズは、敵の強さとほぼイコールである。

魔力タンクとして体内に作るため、魔物に魔法をたくさん使わせると、魔石が小さくなりがっかりする事になる。つまり、余剰魔力を取っとくために、魔石や魔導石にして体内に保存している。

さっくり倒してしまうのが、素材の状況的にも、魔石的にも美味しい。

どの魔物から取れた物か、と言うのは鑑定で分かる。○○の魔石。○○の魔導石などと出る。



ベテラン達は、今回の作戦で取れた魔導石を売るだけでも、結構な額である。

それ相応の苦労はしてる訳だが。

だが、ルナフェリアの魔道具諸々は、"メディテーション"で自動供給の為、魔石自体使わないのでどうでもいいと思っている。

金の為に売るなら家で採れる魔晶石売ればいい。それこそ桁が違う。

自分で使うにしても魔晶石使えばいい。さすがのレア度だ、全てが優れている。

よって、ルナフェリアは全くもって価値を感じていない。


「あ……」

「ん? どうしたんだ」

「ふ、いるじゃない……」


目は閉じたままだが、口元が笑っている。

冒険者達は何のことだ? となっているが、それに構うことはなく、行動に移る。

杖で地面をとんとんしつつ、魔法を使用する。


「"ホーリーモルタル"」


すると、杖でとんとんしていた場所に、光の筒が現れる。光属性の迫撃砲だ。

当然こんなものは<Index>に存在しないので、オリジナル魔法である。

そして、もちろんこんなことする必要もなく、ただ《光魔法》をぶち込めば済むのだが、気分の問題である。つまり、完全に趣味。暇つぶしであり、楽しいが正義。


光の迫撃砲を、杖でつんっとしてやると、キーンという音と軽い爆発音をさせながら発射された。

山なりに飛んでいった光の弾はピンポイントでリッチの頭に直撃し、周囲を光で包み、もろとも一掃した。


「ストライーク。ヘッドショットだわ」


知っているものがいたら突っ込んだことだろう。『それそういう兵器じゃねぇから!』と。

間違いなく対象の頭を狙う物じゃないし、狙って当たるもんでもない。本来は。

リッチの不幸は間違いなく月神に見つかったことである。魔法を司る神である月神が魔法で遊んだ。

それだけである。知っている者が見たら哀れ過ぎて全力で目を逸らすだろう。

ここには居ないし、森の中だし、リッチが居たのはほぼ中心近くだから、誰も見ていないだろう。

結論として、問題ない。


「じゃあ帰るわ」


と言って、左手をふりふりしながら瞬時に消えた。《空間魔法》の初級である"ジャンプ"だ。

本来は視点内の短距離転移魔法だが、《月の魔眼》と使用することにより、関係ない。

長距離転移は超級の"テレポーテーション"となる。

転移門である"ゲート"は上級で、自分以外も転移するのに重宝する。

重宝すると言っても、使える人間はそうそういないが。


完全に色々な意味で置いてけぼりだった6人だが、いそいそと魔導石を回収して休憩に入り、ぼそっと呟いた。


「まじで、何者なんだ……あの子」

「あれ、"テレポーテーション"だよな……来た時も、帰る時も」

「ほんと……何者なんだろうな……」


しみじみと話していたベテラン冒険者6人であった……。



ちゃんとリッチの魔導石は回収しました。主にいたという証拠として。

ギルマスに報告だけして、その夜は救助のために転移を繰り返した。


不死者の森殲滅作戦 2日目に突入。


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