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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第九話

 目を開く。 ここ一週間ほどで、一体何度意識を失えば良いんだと思いつつだ。 そしてまたしても、開けた視界に写っているのは見慣れない天井だった。


 確か、俺は外であの妙な男にやられたはずだったが……ここは?


「おっ、ようやく起きましたか」


「……うわ、レイラ?」


 俺の目の前に居たのは、レイラ。 最強の霊界師と呼ばれる少女だった。 余程気に入っているのか、この前会ったときと同じパーカーを着ており、ぶかぶかな所為で下を履いていないように見えるな。 もう少し、文字通り身の丈にあった服を着たほうが良いんじゃないか、こいつ。


 ……なんてことはどうでもいい。 こいつ、なんで俺の目の前に居るんだ。


「何をそんな驚いているんですか。 道路に知り合いが倒れていたら、助けるのが普通じゃないですか」


「いや、けど……」


 俺はどうやらソファーに寝かされており、レイラはテーブルを挟んで向かい側のソファーへと腰をかけていた。 俺が不思議そうな顔をしていることが不思議なのか、眉をひそめてレイラは言う。


「もしかしてあれですか、私にビビってます?」


「ビビってねえよ! あれだ、お前って……そういうことしない奴だと思ってたんだよ」


 体を起こし、俺は言う。 痛みは既に引いており、動くのも問題なさそうだ。 一体俺はどれくらい意識を失っていたのか、頭がまだぼーっとする。


「それは勝手な解釈ですね。 別に誰がどこで死のうとどうでも良いことですけど、散歩中目の前に知り合いが如何にも「ぶっ飛ばされました」みたいな感じで倒れてたら、そりゃあ助けるじゃないですか。 柊も見て見ぬ振りはしないでしょう?」


「まぁ確かに……」


 言われて見ればその通りではあるが、こいつがそういうことをする奴だとは思わなかったな……。 一度戦った相手を必ず殺し、どんな相手にも負けたことはない。 絶殺と呼ばれ、恐れられるこいつがそんなことをするなんて。


「それにアレです。 この前の借りをまだ返していないので」


「この前の……あ」


「思い出しましたか? 私の背中に「チビガキ」と書いた紙を貼り付けたことです」


 あれか。 さすがに勝てない相手だとは思ったものの、せめてもの抵抗としてやったアレか。 うわ、なにこいつ根に持つタイプかよ、嫌な奴だな。 なんてことを自分勝手に思う。


「いや、あれはだな……ちょっとムカついてな? 悪い悪い。 はは、もうやらないもうやらない」


「ええ、良いですよ」


 え、良いのか。 随分舐め腐った謝り方だと自負するが、それで満足そうに許してくれる奴ってこいつだけじゃないか。 それともあれか、今から「ただし命をくれれば」とかいうパターンか。 そう思い、俺は若干身を引きながら言う。


「命はあげないぞ」


「いや別に要りませんし……。 私はこう見えて心が広いので。 その分沸点も低いんですけどね」


 笑い、レイラは言う。 子供っぽい笑い方ではあったものの、濁りのない笑みだった。 こういう笑い方をする奴に、俺は悪い奴はいないと思っている。 勝手な思い込みで、それはある種の傲慢でもあるものの、俺はそういう感覚というのを大切にしたい。 俺が受ける、俺の感覚というものを。


「そうかそうか、それは良かった。 サンキューな、ガキ」


「あ?」


 直後、テーブルが真っ二つに割れた。 レイラが力任せに拳を叩きつけた所為だろう。 まるでコントのように軽々と割れたテーブルが、その勢いだけで宙を舞う。 そしてレイラはすぐさま俺との距離を詰める。 その顔には殺意しかなく、このままいけば俺は間違いなく数秒後に死んでいるな……。 というか、こいつマジで沸点低すぎない!? さすがにそこまでガチギレしてくるとは思ってなかったよ!


「冗談冗談! 悪かったよ!!」


「ええ、それなら良いですよ」


 笑ってレイラは言う。 なんだこいつ、マジで心広いな。 心が広いっていうかただの馬鹿なんじゃないか……。 単純というか、純粋というか、器が大きいのか狭いのか分からない。 いやきっと大きいのだろうけど、不思議な馬鹿……が一番近いか? 不思議系馬鹿レイラ、結構良い響きだ。


「なんですかその目は。 私は私に逆らう奴を叩くだけです。 私に危害がなければ、別に構いませんしね。 私に尻尾を振ってくる犬……いえ、人には頭を撫でてあげますです」


「ふうん……なんというか、ある意味純粋なんだな」


 俺は、犬扱いをするなと思いつつ言う。 ここで文句を言って機嫌を損ねると怖いことになるかもしれない。 この際、変なプライドなんて捨ててしまえ。


「別にそんなつもりはありませんが。 で、柊を助けたのにはもう一つ理由があるんですよ」


 レイラはたった今、自分で割って使い物にならなくなったテーブルを部屋の隅へと投げる。 片手で持ち上げ、放るように。 こいつの体の一体どこにそんな力があるのかは謎だが……最強ってのは本当らしい。 先ほどの動き、見えはしたものの体が動かなかった。 頭で理解できずに攻撃を食らうってのはこっち側に来てから数回あったけど、理解していても動けないなんてことは初めてだ。 普通だったら反応出来ていたのに、何故だか全く体が動かなかった。 一体何をされたのか、それともただの偶然か。


 ……まだこいつと戦うには、早すぎるか。


「もう一つの理由?」


 俺は思考を止め、レイラの話に耳を傾ける。 俺を助けたことに対してもう一つ理由があるとしたら、なんだ。


「どうしてあんなところで寝ていたのか、ですよ。 私から見て、右の壁はひび割れていましたし、左の壁はもうモロに崩れてましたし。 まさか自分で体を打ち付けたんですか? マゾでしたか」


「どんな変人だよ!? 勝手に結論付けるんじゃねえ! あれはだな、えーっと」


 言われ、思い返す。 確か、そうだ。 あの男……アレイス、と言ったか。 あの男に蹴られ、頭を掴まれ、投げ飛ばされたんだ。 なんでも、俺の口の利き方が生意気とかいう理由で。


「変人に絡まれただけだよ……」


 自分がボコボコにされた話なんて、誰だってしたくはない。 が、その出来事を思い返す内に、とあることを思い出した。


 ……アレイスは、そういえばレイラを探していなかったか? レイラは命の恩人だと、言っていたような。


「……なんか、お前を探していたみたいだぞ。 あの男」


「へ? 私を? なんででしょう」


 レイラは全く見に覚えがないのか、口をぽかんと開けて言う。 首を傾げて言う姿はやはり子供っぽく、俺はそんな姿を見て言う。


「俺に聞かれてもな。 命の恩人とか言ってたけど、どーにも胡散臭い男だったよ」


「名前は?」


 俺の言葉を最後まで聞き終わる前に、レイラはそう尋ねて来る。 その質問はもっともな質問だ。 名前を聞けば、レイラの方も何か思い出すかもしれないし。 だから言葉を途中で切ったことには何も言わず、俺はその名前を告げる。


「アレイス、とか名乗ってた。 短髪の赤髪で、左目に大きな傷があって、アタッシュケースを持っていて……あ、そうだ」


 レイラがもっとも思い出しそうな情報が、ひとつあった。 アレイスは名乗っていたじゃないか、しっかりと。


「霊界序列五十八位って言ってたな。 凄いのか? それって」


「アレイス……アレイス……赤髪……? 大きな傷、目。 それで、霊界序列五十八位ですか」


 腕を組み、真剣に考え込むレイラ。 数秒そうした後、俺が与えた最後の情報、霊界序列の件で閃いたのか、勢い良く立ち上がった。


「そうでしたッ!!」


「お、なんか分かったか?」


「柊は確か、ブルーマウンテンの豆を買いに行っていたんですよね?」


「え? ああ、うん。 そうだけど……それがどうかしたのか?」


 なんだ、そのこととあのアレイスのこと、何かしら関係があるのだろうか? もしや、そのコーヒーショップの店長があいつとか。 おお、そうか。 だから神城さんはライバルとして、俺に注意を促していたのか。 客を取られまいと、だから神城さんは……あの人も可愛いところがあるんだな。


「私が今日買い占めたところだったんですよ。 ですが、これも何かの縁ということで」


「ん?」


 レイラは言うと、小走りでキッチンへと入っていく。 と、今改めて部屋の中を見回したが、とても一人で住むには大きすぎる家な気がする。 天井が物凄く高く、更に天井にはお金持ちの家には付いているというクルクル回る謎の機械。 巨大なテレビに巨大な置物、まるで億万長者の家のような内装だ。


「これですこれ。 買いに行っていたということは、なければ困るということですよね。 というわけで、どうぞ」


 やがてレイラは戻ってくると、高級そうな缶に入れられたコーヒー豆を手渡してくる。 俺はただ呆然とそれを受け取り、やがて口を開く。


「ん……ああ、ありがとう……じゃなくて。 この豆とアレイス、一体どういう関係なんだよ?」


 ついに耐え兼ね、俺はレイラに尋ねる。 何かしら深い理由があるはずだ、この豆とアレイスには。 そういえばだけど、アレイスもコーヒー豆に詳しかったしな。 因果関係がないはずがない。


「へ? 何を言ってますか、知りませんよそんなこと」


「は? いやいや待て、お前さっき、如何にも何か思い出した風に立ったじゃねえか!?」


 困惑している俺に、レイラは人差し指を唇に当てながら言う。 あっさり、はっきりと。


「ええ、思い出しましたよ。 そういえば助けたときに、このメモが落ちていたって。 何をそんなに怒っているんですか?」


「いやだから……アレイスとどういう関係があるんだよ、そのこと」


「何も関係ないですが。 というか、まだその話をしていたんですか? 過去を引きずる男は嫌われますよ」


 ……マジかよこの野郎ありえねぇ。 どう考えても過去じゃなくて現在進行の話だっただろうが。 俺は悪くないぞ、この件については。 明らかに今進んでいた話を腰から折りやがった。 それもさっきのテーブルのように真っ二つに。


「えーっと、レイラさん。 それってつまり、アレイスについては何も?」


「当たり前じゃないですか。 霊界序列がどうとか、傷があるとかアタッシュケースだとか、知らないですし見に覚えは全くないですし」


「いやそうは言っても! 霊界序列五十八位って確かに順位は低そうだけどさ……向こうはお前のことを知っている様子だったんだぞ? 誰かの命助けたとか、結構な大事だと思うし」


 俺の言葉を聞き、レイラはクスクスと笑い出す。 そして、馬鹿を見るような目付きで俺に言い放った。


「五十八位が低い? 寝惚けているんですか、柊は。 現存する霊界師の数は一億人以上、霊界序列を決めるのは一年に一度開かれる序列戦で勝たなければならない。 その序列戦に参加する人数は、百万人以上。 その中での五十八位が、低いと思うんですか? もしもそうだとしたら、柊は底抜けの馬鹿ということになりますね」


「一千万……? そんなに居るのか、霊界師ってのは」


 そして、あのアレイスという男はその中で五十八位だと? それが本当の話だとしたら、とんだ化け物じゃないか。 今なら俺が蹴り飛ばされ、投げ飛ばされた理由が分からなくもない。


 更に。 こいつは今、そう俺に説明したが……そう語る本人こそ、最強の霊界師にして霊界序列一位。 そんな化け物のことを「ガキ」と呼んでいたなんて、なんて命知らずなのだろう。 生きていて良かった、死んでるけど。


「寿命などでは死なない霊界師ですよ。 数百年、霊界師を続けている奴だって居ますしね。 もっとも、肉体がない私たち霊界師の魂が腐るのは仕方ないかもしれませんが。 それはそれとして、その命の恩人というのも良く分かりませんね」


「……良く分からないって、そういう覚えとかないのかよ」


 住んでいる場所が、存在する場所が違うと認識させられた。 俺なんかでは足元にも及ばないことを改めて認識させられた。 こんな化け物みたいな奴が同業者だなんてな。 変な笑いが出てしまいそうだよ。


「私は意志を持って人を助けるわけじゃありません。 見返りを求めているわけでも、感謝されたいわけでもないです。 ただ私がそうしたいから、そうしているだけです」


 はっきりと、それこそその言葉に意志を持ちながらレイラは言う。 そして、それを聞いた俺はこう思う。 似ている、と。


 レイラとは規模も、そのことに対する力も、俺は遠く及ばない。 だが、そうしたいからそうしているだけという言葉には、共感ができた。 俺はいつだってそうだ、俺がそうしたいからそうしているだけで、周囲に言われたから、周囲に流されたからやっているわけじゃない。 ただただ、今の俺に目的があるのだとしたら、それは沙耶と一緒に居るということだ。 そして、誰かの助けになりたいという想いもある。


「分かった。 だけど一応、そういうこともあったって話だ。 こういうのは慣れてるのかもしれないけどな」


「良くご存知で。 それでどうするんですか? その……なんでしたっけ、アバズレみたいな奴、ぶっ殺しに行くんですか?」


「アレイスな」


 アバズレってなんだよ、酷い言葉だなおい。 それにぶっ殺しに行くとか一々物騒で恐ろしい。 顔は正直言って、こう評するのもムカつくが……可愛いというのに、性格は極悪そのものだ。 モテるけど性格がクソ悪いタイプ、良くいる良くいる。


「行かねえよ。 別に恨みがあるわけじゃないし」


「ビビってるわけではなさそうですね。 ですが、恨みがないというのは? 蹴り飛ばされ、投げ飛ばされたのにですか?」


 レイラの言う通り、それが恐ろしいというわけではない。 戦うというのなら、俺はレイラとだって戦う気だ。 一度死んでなくなった命、惜しいとも思いはしない。


 だが、意味のないことはしたくない。 そんな面倒なこと、したところで何になるというのだ。


「ああ。 今からそれをしたところで、蹴られて投げ飛ばされた事実は変わらない。 だったら、意味なんてない。 大怪我したとしても、過ぎ去ったことに拘ってどうするんだよ」


「……なるほどです。 なんとなく、分かりました。 柊、あなたは恐らく、殺されたとしてもそれを受け入れるんでしょうね」


「それほどでもないとは思うが……分からないな、そうならないと」


「いいえ、絶対にそうです。 化け物ながら、人間として当たり前のことを教えてあげます」


 レイラは前置きをし、言う。 その言葉には、様々な意味が込められているような、そんな感覚がした。


「人は人から悪意を向けられれば、悪意を向けるものです。 ですが、柊が向けるのは無感情。 良いですか、柊。 自身に悪意を向ける奴を野放しにしておけばどうなるか、もちろん良いことなんて起こりません。 でも、その逆は起こるんですよ」


 これは、忠告だ。 俺という人間に向けての忠告。 俺はそのことについて、考えなければならないのだろうか。 だが、思ってしまうんだ。 俺が傷付きどうなろうと、別に良いと。 終わったことで腹を立てるのも馬鹿らしいと。 それこそ、恨みや憎しみなんて感情は一切ない。


「いずれ分かると思います。 では、私はそろそろ仕事もあるので、出掛けますが……柊はどうしますか? 泊まっていきます?」


「泊まるかアホ。 第一、俺はお使いを頼まれて……」


 待て。 落ち着け、冷静に考えよう。 レイラは今、仕事があると言った。 普通の人間だったら、ここは「ああそうなんだ」としか思わない場面だ。 だが、俺はレイラの仕事を知っている。 それは俺も同じものだからで、つまり仕事をすべき時間というわけで。 境界者を倒しに行く時間というわけで。


 んで、あれだ。 境界者は、夜にしか姿を現さない。


「……なぁレイラ、お前さ、時間を巻き戻したりできないの?」


「そんなファンタジックなことはできませんよ。 精々覚悟して帰れば良いです。 この世全ての害悪は、自分自身が弱いからですよ」


 人差し指を立て、レイラは笑顔でそう言う。 そんな仕草が随分と似合っていて、俺は諦めにも似た笑いが零れた。


 確かに、その通りだ。 俺が弱くなければ、アレイスにぶっ飛ばされることもなかった。 今の俺は、とても弱い。 雑魚中の雑魚で、真剣な戦いなら郷原にだって勝てはしないかもしれない。 身に染みて、それを理解しなければならない。


 アレイスのことはもう終わったことだし、どうでも良いとして。 その所為で神城さんに迷惑がかかったのは事実である。 今度はそうならないように、少しでも力を付けて置かないとな。 沙耶が言っていたように、時間は沢山あることだし。




 それから俺は神城さんの喫茶店へと恐る恐る帰った。 一応、コーヒー豆は確保できたものの、既に時間は夜の八時過ぎ。 店はまだ開いているものの、今日の営業には当然間に合っていない。


「遅いッ!!!!」


 背中に重圧を感じる。 振り向くと、見るからに怒った様子の沙耶が俺の背中に乗ってきた。 その表情に、どこか嬉しさみたいなものが混じっている気もしたが、それは見間違いだろう。


「いてて……悪い悪い。 ちょっと妙なのに絡まれて」


「妙なの? む……ふふ、あははは!」


 沙耶は一瞬眉をしかめたものの、いきなり笑い出す。 堪え切れずにといった感じで、まったくもって意味が分からない。 頭おかしくなっちゃったのかな。 元々少し危ないところもあったけどね。


「なんだよ意味分からないな。 それよりこんなところで話してる場合じゃないから、退いてくれ」


 一分一秒でも早く、あの店内に入って神城さんに頭を下げなければならない。 こんな道端で沙耶と話している場合じゃないのだ。


「すまんすまん、ふふふ……。 ふふ、はは」


「笑い薬でも飲んだのかよ。 ったく」


 一度沙耶を睨みつけ、俺は店内へと入っていく。 カランという音がし、久し振りに嗅ぐ匂いが鼻腔をついた。 この匂いは、嫌いじゃない。


「やぁ、随分道に迷ったみたいだね」


「……は、はは」


 パリン、という音が響く。 神城さんの方からだ。 ガラスのコップが割れていた、まさか握り潰したのか。 ヤバイやつだな、これ。


「言い訳を聞く時間はあげるよ。 思う存分聞いてあげるから」


「す、すいませんでした……」


 俺は怯えながら、カウンターまで歩いて行く。 一応は買ったぞという証拠のコーヒー豆、正確に言えば貰い物を。 そしてとりあえずは最初から最後まで言い訳をしようと、口を開こうとする。 だが、それを止めたのは神城さんだ。


「その前に。 とりあえず、顔を洗ってきた方が良いんじゃないかな?」


「へ、どうしてまた」


 俺の言葉に、神城さんは無言で鏡を手渡してくる。 それを覗き込むと、前髪の隙間から何やら文字のようなものが見え隠れしていた。


 不審に思い、前髪を掻き分けて確認する。 すると、そこに書かれていたのは「クソ根暗」という文字だった。


 ……あのチビめ、ちゃっかり仕返ししやがって!! ていうかこんなこと書かれながら俺は大真面目に語ってたのかよ!? あいつ絶対内心馬鹿にしていただろ!!


「ふふ、似合っているぞ、心矢」


「うるせえ!!」


 いつの間にか入ってきたのか、沙耶は入り口で尚も笑いながら言う。 そんな沙耶に言い、同時にあのチビには絶対いつか仕返しをしてやると思いながら、俺は洗面所へと歩いて行くのだった。

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