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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第五話

 アタッシュケース……アタッシュケース……? うーん、一体どんな奴だ、それ。 マフィア的なアレか? ていうか霊界師にもそういう類の連中って居るのかな。


「ほお……それで、それが妖刀村正なのか」


「まーな。 けど、さすがにレプリカって言うだけあって、持っても何も感じない」


 朝ご飯を食べながら、俺と沙耶は会話を交わす。 こうして朝食を一緒にするのも、久し振りのことだ。 すること全てがそう感じさせるのだから、ていうか事実そうなのだから、当然か。 一年という時間は、決して短いものではない。


「ふうん……? 良く分からないが、刀なんだし普通はそうじゃないか?」


 そりゃそうだけど。 しかし妖刀と言われると、なんだかこう……用心したくなるじゃん? 持った瞬間に声が聞こえてきたり、いきなり暴走したりとか。 そういうの想像してたんだけど、なんだか拍子抜けでもある。


「ま、一応これで境界者は斬れるらしいし、問題はないだろ。 俺の神具は使えないから丁度良かったよ」


「だな。 だがな、諦めちゃダメだぞ。 いくら妖刀とは言っても、限界はあるんだろうしな。 本来使うべき神具を扱いきれるようになって、ようやく一人前ということは覚えておけ」


「おお……なんかお前が先輩に見えてきた。 ごもっともだな、それ。 ところでさ、その境界者ってのはどんな姿なんだ? 見つけたらいきなり斬っても良いのか?」


 俺の言葉に、沙耶は食事を摂る手を止めた。 そして、俺の方へと向き直り、口を開く。


「まさに化け物みたいな見た目だ。 だが、マスター曰く様々な形を取ることもあるらしい。 詳しくは見ていないから知らないがな。 それで、私たちが退治するのは悪影響を及ぼす境界者だ」


 すげえざっくりとした説明だな……。 境界者の見た目のイメージが全然湧いてこないぞ。 それはもう諦めて、実際目にしてみるのが一番良さそうだな。


 で、沙耶の口振りからすると境界者の中にも悪いのと良いのが居るってことか? そんな感じの印象を受けたが、やはり沙耶に説明を求めるのは無理がありすぎたようだ。 答えが何一つ得られていない気しかしない。 諦めよう。


「良い先輩だな、やっぱお前」


「そりゃ先輩だ、一年も。 というわけでそんな先輩からの提案だよ、心矢。 今日はとりあえず、この街の探索でもしようと思っているんだけどどうかな? ほら、心矢ってこの辺りにはあまり来たことがないだろ? 地理は頭に入れておいた方が良いと思うのだが。 会わせたい人もいるんだ」


 皮肉が皮肉と捉えられていないようだが、うーん、まぁ確かに。 ほとんどあのド田舎から街に降りてくることはなかったな、それもこんな都市部まで。 これが大都会ってやつなんだろうな……なんつって、本当の都会から見ればここもまだまだ田舎なのだろう。


 喫茶店ファンタズマは、川沿いの一角にある小さな店だ。 その川というのも田舎にしては巨大な川で、ここに来たときは全然気にならなかったが、遠くに見える大橋を渡ってここへ来るのだろう。 大橋の向こうに見えるのが俺たちが暮らしていた場所で、川を挟んでファンタズマがある街になっている。 周辺は住宅街、少し街中に入っていけばデパートなんかもあるにはあるらしい。


 建物が多いここの地理を頭に入れるってのは、中々に骨が折れる作業になるかも。 木の大きさとかで道が覚えられないのは不便である。


「あー、うーん……今日は良いや」


「普通そこは賛同だろう!? この流れで素直に断る奴は初めてだ! 私の決定に従え、今日は行くぞ! 今決めた!」


「……ならなんで確認したんだよ。 やだよ面倒臭いし。 別にこの部屋から見えるところにその……境界者? が来たらやっつければ良いだろ。 必要最低限だけ動いてエネルギーの消費を抑えたい。 俺の体はお前と違って繊細なんだよ」


 ご飯を食べ終わった俺は、沙耶にそう言うと「ごちそうさま」と伝え、食器を洗う。 しかし、その後ろから禍々しい空気を感じる。 怒ってる怒ってる……だから疲れるんだよなぁ、こいつと一緒に遊ぶのは。 動きまわって疲れを知らないこいつの遊びは、付き合う方は割と命がけである、俺だけかもしれないが。 けれど、一番ヤバイときで野犬に追われたりもしたほどだ。 そんな状況でも、沙耶は楽しそうに笑っていたんだけどな。


「ダメだ、私が許さない。 そんなダメ人間になるのを見過ごせるか!」


 机をバンと叩き、沙耶は言う。 やめろ、机をいじめるな。 お前は確かに美人だが、机にそんな趣味はないだろう。 もちろん俺も、叩かれて喜ぶ趣味はない。


「もう人間じゃねえし。 えーめんどい……」


 折角ほら、本棚あるんだしさ。 今日は本でも読んで過ごそうよ。 俺も鈍った体を鍛えたいから、あまり外を歩き回りたくないしさ。 歩くより家の中で刀振ったほうが良いでしょ? 外寒いし。 そんなので風邪をひいても馬鹿らしいし、何よりほら、昨日の今日で慣れていなくて、まだ酔ってるんだ。 乗り物酔い的なやつ? そんな言い訳を頭の中でつらつらと並べていく。


「じゃあダメ幽霊だ! 心矢はダメ幽霊! マヌケめ!」


「ガキかお前はッ!? マヌケってなんだよ語彙少ねえぞバーカ!」


「心矢だって一緒だろうが! アホ! ニート!」


「てめぇ……俺はニートじゃねえ! ただただ要領が良いだけだッ! 考えなしにすぐ行動に移す直感馬鹿とはちげーんだよ!!」


「はぁ!? 直感馬鹿って言ったな!? 間抜け! ボケ! 心矢!」


「俺の名前を罵倒に使うんじゃねぇ! 心矢って悪口は存在しねぇ!」


 言い合いを始める俺と沙耶。 ちなみにこういう言い合いはよくあるもので、今のこれは随分生ぬるい方になる。 ひどいときは朝、通学のときに言い合った悪口の応酬が一週間ほど続いたこともあった。


 が、俺と沙耶は大事なことを忘れていた。


「ねぇ、少し静かにしてもらっていい? そろそろお店を開くから、騒がれていると迷惑なんだ」


「……」


 顔こそ笑顔だが、そこには明らかに「うるせえ黙れ」と言わんばかりの空気を身にまとった神城さんの姿があったのだった。 コップを洗っていたのか、握られてるコップがミシミシと言ってますよ。 静かな怒りとはこのことか、またひとつ賢くなってしまった。




「心矢の所為だからな」


「おうそうか、俺は沙耶の所為だと思ってるからな」


 結局、追い出されるような形で喫茶店から叩きだされた俺と沙耶。 俺の目的は部屋でゆっくりぐだぐだすることだったのだが、この場合は沙耶の目的を達成することとなりそうである。 はぁ帰りたい。


「んでどうするんだよ。 行く場所とかあるのか? さっきは会わせたい人がいるとか言ってたけど」


「ああ、とりあえずは挨拶かな。 この辺りは、ファンタズマの人が統制しているんだ。 だから、一応そこで活動するわけだから挨拶をしておかなければ」


「ファンタズマの人? 喫茶店のことか?」


「じゃなくて。 喫茶店の従業員? かな? とりあえず、そんな感じだ。 それに喫茶店の店名はファンタズマではないぞ」


 すげえ大雑把だなおい。 全く理解できなかったぞ……唯一、喫茶店の名前がファンタズマではないということだけ理解できた。 じゃああそこの店名はなんなんだ。


「とにかく! 来れば分かるし善は急げだ、ほらほら早くしろ」


「はいはい……本当に善なのかよそれ」


 それから歩くこと数分、どうやら沙耶が俺に挨拶をさせたかった奴……が恐らく居る場所は、喫茶店からそれほど離れた場所ではなかった。 何回か曲がり角を曲がり、真っ直ぐ行き、そしてまた曲がったそこに、この辺りでは一見して場違いな建物が現れたからだ。


「屋敷……か?」


「ああ。 みんな、隊長以外は多分この時間なら居るから」


「みんな?」


 聞き返した俺の言葉に何も言わず、沙耶は堂々と扉を開ける。 豪邸と呼べるほどの巨大な屋敷の巨大な扉は、見た目とは裏腹に軽く開かれた。


「ん、結城か? 珍しいな、お前が来るなんて」


「まぁな。 実は、新しく霊界師になった人を連れてきた。 その挨拶に」


 最初に視界に入ったのは、大柄な男。 百九十はありそうな長身に、服の上からでも分かるほどの肉体。 並大抵の鍛え方じゃないことは容易に伺える。 そんな大男は椅子に腰掛け、どうやらテレビを見ていたようだ。


「新しく……へえ、その女か。 初めましてだな、俺は郷原(ごうばら)(やいば)。 郷原で良いぜ」


 顔には大きな傷が二つ。 年齢は三十くらいか? しかしそんなことよりも、こいつ……強いな。 気の張り方がその辺の奴らとは違う。 威圧感も、かなりのものだ。


「よろしく。 俺は柊心矢だ、女じゃねえよ」


 俺は男を見上げながら言う。 その直後のこと、郷原の纏っていた雰囲気がガラリと変わった。


「女みてぇな顔だからついつい間違えちまったな。 それよりガキ、俺はテメェより年上だ。 年上に対して敬語を使えって習わなかったのか?」


 女顔だとは言われるが、言い方が腹立つ。 だから俺は聞こえる声量で口を開く。


「は? めんどくさ……」


 こいつは俺が一番嫌いなタイプの人間だ。 偉そうに上から物を言う輩だな。 気に食わないんだよ、こういうのはムカつくし。 俺に剣道を教えてきた奴も、こういうタイプの人間は多かったんだよな。 礼儀とか正直面倒だ。 だが、郷原の言っていることは間違いではないとも思う。 だからといって取り消しはしないが。 無論、謝罪をする気もない。


「謝れ」


 俺に向け、郷原は言う。 しかし、俺も俺で引くことなく言い放つ。


「やだよ面倒臭い。 俺は自分より上の人間にしか敬語は使わねぇ。 今のとこで言えば、助けてもらった神城さんくらいだな。 あんたには助けられた記憶も、助けられる予定もないもんで」


「ふ、ふっふ! 上等だガキ」


 手の平に拳を打ち付け、俺のことを郷原は睨む。 闘争心、それも威圧的なもの。 こいつは確かに強い、だが、正直な話負ける気はしない。 俺は生まれてこの方、俺は負けたことがないから。 そんな自信過剰とも言える想いを抱く。 無論、その考え方こそ、勝つために一番大切だと俺が思っていることだ。


 勝てないと思ってしまえば、勝てる可能性は極端に減る。 勝てると思い込み、異常なほどに思うことこそが、一番必要なものなんだ。


「おいおい……なにいきなり揉めてるんだよ。 まったく……あ、(あずま)さん! レミ!」


 間に沙耶が割って入るものの、俺も郷原も止まる気はない。 だが、不意に沙耶は屋敷の外を見ながらそう言った。 俺がその声を聞き、振り返ると、そこには二人の人物が立っている。


「結城君かい? お久し振りだね」


 一人は、帽子をかぶった金髪の若い男。 まるで女ではないかと思わせるほどに顔が整っており、髪が腰まで伸びている。 手には買い物袋。 細い体に白い肌、ぱっと見ただけでは女だが……声は完全に男。 デニムにファーが付いたダウンという簡単な格好をしている。


「沙耶! 来てくれたの!」


 もう一人は、幼い少女。 赤髪の少女だ。 ゴスロリ的な服を着ており、手には熊のぬいぐるみが抱えられている。 見たところ、十歳にも満たないほどの印象を受ける。


「助けてくれ。 郷原さんと心矢が同属嫌悪的なあれで!」


「同属嫌悪じゃねえ!!」


 沙耶の言葉に俺と郷原は声を揃えて言う。 嫌なところで合ってしまった。


「それは大変だね。 どうしたんだい、郷原。 それにこの子は?」


 そして、沙耶の話を軽く受け流し、金髪の男は郷原に尋ねる。 俺も郷原も横槍が入ったおかげである程度落ち着きを取り戻し、とりあえずは新たに現れた二人に事態の説明をすることとなったのだった。




「ふうん、それで喧嘩ね。 ああ、申し遅れてごめん、俺は東弥生(やよい)。 ファンタズマと呼ばれる組織の一員だよ。 こっちの子はレミ、小さいけれど、立派な女性だよ」


「立派な女性ってもう……照れるじゃないですかぁ! うふふふ……」


 顔を赤らめ、体をぶんぶんと振り回すレミと呼ばれる少女。 うん、ガキだな。 間違いねぇ。 ちょっと褒めるとすぐ図に乗る。 俺は似ている奴を知っている、誰とは言わないけど。


「俺は柊心矢。 こいつの親友だ」


「……男の子だったんだね、ごめんごめん。 それよりも結城君のか。 親友ということは、生前の知り合いかい? それで、わざわざ俺たちのところに来たということは、最近死んだってところかな。 こっちの世界についてはどこまで聞いている?」


 東さんは顎に手を当てながら、しばしの思考のあと、そう口を開く。 頭の回転が早そうな印象を受けるな。 あまり敵にはしたくないタイプ……かも。


「大体は神城さんから。 そんで、俺はなんでここに連れて来られてる? 沙耶に聞いても、良く分からなくて」


「神城君と会っているのか、それなら話が早い。 大変だったね、いろいろと。 はは、でも神城君から聞いているならそこまで話す必要はなさそうかな。 それでも簡単に付け加えて話すと、この地域は俺たちファンタズマが統制を取っているんだ。 霊界師は数多くいるけど、それぞれが好き勝手にやったらバランスが崩れてしまうからね。 そうなれば、他所まで出張る霊界師も増えるだろう。 それが切っ掛けで、霊界師同士の抗争に発展する可能性も出てくる。 縄張りってのは大切なんだ、俺たちにとって」


 つまり、霊界師が各々、地域ごとに分割し、統制を取っているってわけか。 境界者自体、今日歩いている限りでは見かけなかったし、至るところにいるというわけでもないのだろう。 それを奪い合いとなれば、霊界師同士で争うことにも繋がる。 そうならないように、この辺り一帯を統制しているのが、この人たちということか。


「なるほど。 それで挨拶か、馬鹿らしい。 俺は俺が好きなようにやるよ」


 主に、部屋でごろごろと。 なんだか色々と面倒になってきたぞ、早く帰って沙耶が揃えている漫画を読みたい。


「……うーん、それはちょっと困るんだけど。 結城君、柊君は言って聞くタイプ?」


「どっちかと言うと、言って敢えて逆らうタイプだな……頑固で、生意気、怠惰で生意気だ」


 後半ほぼ悪口じゃないですか沙耶さん……。 それに生意気を二回言うとか、こいつもしや朝の出来事をまだ恨んでいるのか。 お前、俺のことをそんな奴だと思っていたのかよ。 頑固ってのはお前のほうがよっぽど酷いと思うぞ、俺は。 生意気なのは否定しないけどな。


「なら仕方ない。 郷原もこのまま仲良くってのは納得いかないだろう? そうなれば、することは一つだね」


 東さんは手を叩き、俺と郷原に笑顔を向ける。 どうやら郷原の方は東さんが何を言いたいのか理解したらしく、ニヤリと笑った。


 ……なんだか、面倒臭いことになってしまったな。

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