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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第三話

「能力?」


 というと、あれか。 超能力的な? 火を操ったり、氷を操ったり、そういう類のもの? なにそれ、ちょっと良いじゃん。 そんなものがあるなら早く言って欲しかったよ、高校生男子としては憧れちゃうって。


「結城さん、嬉しいのは分かるんだけど、説明の度に口を挟まられると順序が……」


「いいだろ別に。 減るものじゃないし」


「まったく……」


 神城さんはついに頭を抱え、それでも俺に事態の説明をするという目的を達成させるため、顔を上げる。 なんだかとても可哀想に思えてきた。 こいつ、やっぱりどこへ行っても人様に迷惑かけまくりだな。 死んでも治らないというものは確かにあるようだ。


「能力といっても、サポート的な力だね。 君の場合は……うーん」


 神城さんは言いながら、俺にグイっと顔を近づける。 俺の中身を見られるような目で、しばし俺を見つめていた。 やだ、惚れちゃいそう。 なんてふざけたことを考えながら、俺は神城さんが口を開くのを待つ。


「メだね」


「メ?」


 ようやく口を開いた神城さんは、サッパリとそう言い切った。 メ……眼? そう言われても、何が何やら。


「意識をしてみれば分かるよ。 何か見えると思いながら周囲を見るんだ」


「何かが見えるように……っと」


 俺は一度、目を瞑る。 何かが見えるように、つまりは思い込めってことか? そのくらいなら、まぁ……できなくもないか。


 そして俺はゆっくり目を開ける。 すると。


「うお……」


 何か、モヤのようなモノが辺りを漂っていた。 それは沙耶、神城さんから出ているように見えて、俺からも出ているように見える。 これは……なんだ? 白い霧のような靄、だが、それで視界が遮られることは不思議とない。 見ているというよりかは、感じているに近い感覚だ。


「オーケー、もう戻していいよ。 今見たのは、恐らく霊気の流れってやつだ。 そこに居る裏側のモノが見えるってわけだね。 使い始めでそれなら、もう少し慣れるか感覚を理解できれば、別の使い方もあるだろうし、強力な武器にもなり得そうだよ。 まぁ、それは都度見つけて行けばいい。 と、こんな感じかな?」


 ええっと……つまり裏側の奴がどこに居るかとか、そういうことが分かるってことか。 今現在だと沙耶や神城さんが分かるように。 あまり使い道はなさそうに思えるが、使い方は練習しておくに越したことはなさそうだな。


 とにかく、一度状況の整理。 俺は死んで、霊界師となった。 死んだと言っても空腹は感じるらしく、生きていくためには……正確に言えば死にながら生きていくためには、稼がなければいけない。 そのためにすることが、境界者と呼ばれる悪い幽霊の退治。 それを霊界機関と呼ばれる場所に報告して、金を稼ぐ。 んで、戦うために与えられているのは神具と呼ばれる武器と、特殊能力的なもの。 うん、良く分からない。


「第一、食べるって言ってもどうやって食べ物を買うんですか?」


「心配ないよ、心矢。 幽霊向けのお店いっぱいあるしな」


「……幽霊向けのお店? あれ、てかここもそうなるのか? いやでも、普通の人……表側の人が来たらどうするんだよ、これ。 説明が付かない状況になっちまう気が」


「心配無用だよ。 裏で起きたことは、表ではそうあるべきものだとして改変されるんだ。 例えばこの喫茶店は表側から見ればただの空き地で、当然中に居る僕たちや物は絶対に認識できない。 そして僕たち霊界師が表側で暮らす人々に干渉することもできない。 その幅もそれぞれだけど、まぁ基本的には傷付けたり、殺したりかな。 そういうことを表側に向かってはできないんだ」


「干渉できないってのはなんとなく分かりますけど……改変される? それって」


 そりゃまぁ裏側が表側に干渉できたら、今頃表側は大騒ぎだろうしな。 いきなり人が死んだりとか、そういう事件が後を絶たないだろうし。 俺たち霊界師がそこら辺にいる人間を殴ったり斬ったりしても、何もならないってわけだ。 正確に言えば、ならないのではなく起こせないって感じだろうけど。


 だが、改変されるってのはどういうことだ? そこがいまいち分からない。


「柊くんはさ、生きているときに「あれ、ここにこんな物置いていたっけ?」とか、そういうことはなかったかい? 身近な物、携帯とかでもいいよ。 テーブルの上に置いたと思ったのに、ベッドの上にあったとか」


「……まぁ、たまに。 けど、ただの記憶違いですよ。 後から思えば、確かに置いたなって思い出しますし」


 俺の言葉に神城さんは笑う。 そして、こう言った。


「そこだよ。 そこで改変されているんだ。 本当だったらそれは置いていない、霊界師や境界者の仕業が、そうやって境界を超えて認識を変えている。 人には干渉できなかったとしても、物には干渉ができてしまう。 そして簡単に言えば、収まるように収まるんだ、絶対にね」


「そんなことが……」


 しかし、納得が行ってしまう。 忘れ物とか、失くし物、そういった物は後から思えば自分が悪いという結論に至るが、最初は確かに入れたのに、確かにここに置いていたのにということが多々ある。 それがもし、俺の所為ではなく、幽霊の所為だとしたら、霊界師や境界者の仕業だとしたら。


「ん? そういや、沙耶が死んでからそういうことが多くなったような……」


「……不思議なことがあるものだな?」


「……お前な。 まぁ良いけど」


 こいつの嘘は至極分かりやすい。 疑問を投げかけたときは必ず目を合わせて話すこいつが、嘘を言うときや気まずいときは確実に目を逸らすのだ。 そんな沙耶の癖はどうでも良いとして、人の私物を勝手に使うなよ。 てか、実際のところどの程度のレベルで傍に居たんだ? アレだ、マズイところとか色々あるじゃん。 さすがにそういうときは察してくれていると大変助かるんだけど。


 ……これは聞かない方が良いことだな、間違いねえ。


「だからいくら騒ごうと、物を壊そうと、それがバレることは絶対にない。 やり過ぎるとマズイけどね」


「そうなんですか?」


 なんだ、てっきりやりたい放題だと思ったのに。 ちょっと期待してたのに。


「やり過ぎると霊界機関から目を付けられて、下手をしたら懸賞金をかけられるんだ。 現に今、ひとつの集団が懸賞金をかけられているしね」


「集団? それって、霊界師の……ですか?」


「うん。 良い霊界師ばかりではないんだ、残念ながら。 内容は様々だけど、存在する一番大きな組織はコネクトと呼ばれる奴らだよ」


 コネクト……繋ぎ、か。 あまり、関わり合いたくはない奴らだろうな。 懸賞金をかけられるということは、善行なんて確実にしない集団だろう。 神城さんの言い方からしても、良いイメージは抱かない。


「まぁ今は気にしなくて良い。 うまいことやっていれば目を付けられることもないし、何より霊界機関から目を付けられるのが一番厄介だ。 腕が立つ霊界師がとても多いからね」


「なるほど……大体分かりました。 要は、そういうのに関わらないようにうまくやりつつ、境界者を倒して、金稼ぎってことですね。 それで、その金で普通に暮らすと」


「そういうこと。 飲み込みが早くて助かるよ、ほんと。 結城さんのときは大変で大変で……」


 神城さんは遠い目をしながら言う。 うんうん、俺にはその気持ちが痛いほどに良く分かるよ。


「マスターそれは内緒だと言っただろう!? まるで私が馬鹿みたいじゃないか!」


 そして、腕を振りながら意義を唱える沙耶。 その時点でもう既に馬鹿みたいだけど、言うまい。 そんな惨めな沙耶は置いておいて、俺は神城さんに気になっていることのひとつを尋ねることにした。


「あ、それで神具……でしたっけ? 俺の場合、そんなの持ってないんですけど」


「普段は仕舞われてるよ。 失礼」


 神城さんは言うと、今度は俺の胸へと手を置いた。 そして目を瞑り、集中しているように見える。


 数分が経ち、先ほどの能力の発見よりも難しいのか、変化はない。 そしてそのまま十分が経とうとしたそのとき、神城さんはようやく目を開ける。


「……珍しいな。 それに、面白い。 柊くん、ちょっとこれで手の平斬ってみて」


「はい……って、え? これで斬るって、嫌ですよ! ナイフじゃないですか!? 痛いのは好きじゃない!」


「急に駄々をこねないでよ……やれば分かる、君の神具の取り出し方法はどうやらそれしかないからね」


 ……マジかよ。 さっきの沙耶みたいにスーって感じで出せないのか。 なんて不便な体だ、俺。


「がんばれがんばれ」


 横からかかる声が更にやる気を削いでいく。 が、しかし……やるしかあるまい。 じゃないと俺、本当に戦えないニートになりそうだし。 最悪沙耶に養って貰えば良いかな……やっぱやめよう。 沙耶に養われるのはなんか癪だ。 こいつのことだし、絶対調子に乗って俺に命令しまくってくることは目に見えている。


「はぁ……っ!」


 ため息を吐き、しばし手の平とナイフを見やる。 数十秒そうした後、俺はようやく決心を固め、手の平を浅くナイフで斬り付けた。


「っていってぇええええええ!! 普通にいてぇ! 最悪だッ!」


 ナイフを叩きつける俺。 数回跳ね、それは床へと落ちた。


「オーバーリアクションだねぇ……大丈夫? ほら、血が出てる内にこうやって」


 神城さんは苦笑いをしながらそのナイフを拾う。 ナイフという危険物を雑に扱ったことについて咎めないのは、神城さんなりの気遣いだろうか。


 いやいや、てかね、だって痛いもん。 痛いの嫌なんだよ、基本的に。 そりゃ剣道の試合のときとかはそんなの感じないくらい集中するから別だけどさ。 基本、痛いのは嫌だ。 大っ嫌いだ。


「ああくそ痛い……えっと、こう?」


 神城さんの見よう見まねで俺は手を合わせる。 ああ痛い……本当に痛い、泣きそう。 そんな俺が見ていられなかったのか、沙耶が俺の頭を撫でる。 やめろ鬱陶しい。 あとで怒るぞ、今は痛くてムリだけど。


「うん、それで武器を取り出すイメージで手を引いて」


「武器を取り出すイメージ……? ええっと……」


 困惑しながら、俺はそれをやる。 これで出なかったら本当に痛い思いをしただけになってしまうから、それは嫌だ。 無駄なことは基本的に嫌いな俺である。


 が、そんな思いも杞憂だったようだ。 思いの外、本当にあっさりとその武器は現れた。


「うわ……」


 刀。 それも、刀身が赤黒く染まった、気味悪い色をした刀。 柄の部分は黒だが、基本的には赤黒く染まっている。


 第一印象は、とても軽い刀という認識。 片手どころか、親指と人差し指だけでも振れそうなほどに。 俺が長年振り続けてきた竹刀よりもよっぽど軽い。


「おや。 ちょっとごめんね」


 神城さんは言うと、その刀をノックするように叩く。 すると――――――――刀はあっさり砕け散った。


「はぁ!? ちょ、ちょっと何するんですか! 俺の神具ッ!」


「いや、今のは失敗だね。 どうやら君の神具は自身の血液から作り出されているようだけど……にしてもへっぽこだなぁ」


「さり気なく毒吐かないでくださいよ! こんなんじゃ戦えないじゃないですか!!」


 いや、マジで。 ちょっと叩かれた砕け散るとかヤバイやつじゃん。 むしろガラスで出来ているのかと思うほどに呆気なく砕けたぞ。


「あっはっは! 心矢の神具はあれだな、飾り物的な? まったく、それなら私が頑張って養うしか……」


「お前はなんで嬉しそうなんだよ!? 絶対嫌だからな、そんなの! お前俺のことを扱き使う気だろ」


 てか飾り物の神具ってなんだ。 部屋にでも飾れば良いのかな。 けど残念ながら、見た目もドス黒い血みたいなものだよ? うーん……どうしよ。


「何かが足りない。 柊くんのは、心象具現型と呼ばれる物だね。 この系統の神具は非常に珍しく、自分の体から作り出すそれは、自身のコンディションをモロに受けるんだ。 だから、本来の力を出すには原因を自分で見つけるしかない。 大丈夫、柊くんにならできるはずだよ」


「そうそう、大丈夫だよ心矢。 マスターがこういうときって、半々くらいでどうにかなるからな」


「半々なの!? 結構確率低くね!?」


 五十パーセントじゃないですかそれ。 せめて八割は欲しかったよ、俺。


 とまぁ、こんな感じで俺は生きていくこととなる。 先行きが不安すぎるものの、なるようになれだ。 良い言葉だな、本当。 なるようになれ……なるようになるのかな。 なるように……なるといいなぁ。

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