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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第二十一話

「お疲れ様です。 元気そうですね」


「お前からしたらそう見えるのかよ……体中ボロボロだ、特に足な」


 足には痺れが依然として残っており、まともに歩くのはもう少し時間がかかりそうだ。 俺のところにやって来たレイラは言いながら、沙耶を俺の横に座らせる。 未だ気を失っており、こちらも目を覚ますのはもう少し時間がかかりそうか。


「驚きましたよ。 まさか本当に倒せるとは思っていなかったので」


 言い、レイラは先ほどまでアレイスが居た場所へと向かう。 そして、そこに落ちていたアタッシュケース……神具、パンドラを手に持った。


「俺は意外性に満ちた男だからな」


「へえ、そうなんですか」


 すっげえ適当な返事だなおい。 というか、冗談なんだからせめてそこは乗って欲しいものだよ。 人付き合いが分かってない奴だ。 人のことは言えないが。


「どうするんだ、それ。 お前が使うのか?」


「ん、これですか? いやいやまさか、神具には適合というのがありますし、基本的には他人の神具なんて扱えるものじゃないですよ。 これは、霊界機関に送りつけておきます。 何かしら有効活用はするでしょうし、お金も入りますしね」


 レイラはパンドラをひょいとつまみ上げながら言う。 適合があるということは、他人の神具はやはり、奪ったところで扱えるとも限らないのか。 俺の神具は少々特殊らしいが……沙耶もそういえば、持っている神具はアッキヌフォートだけと言っていたしな。 考えてみれば、それが通常ではあるのか。


「んー、やっぱり変ですね」


 辺りを見回し、僅かに残っている戦いの痕跡を見ながら、レイラは言う。 まるで探偵みたいだな、なんてことを思い、俺は尋ねる。


「変……ってのは? なんかあったのか?」


「何も。 ですが、経緯が変です」


「経緯?」


 こいつは一体何を言っているんだ? 経緯ってのは……俺がこうしてアレイスと戦ったことだよな? たぶん、きっとそうだ。 でも、そこに至るまでの経緯でおかしなことなんてあっただろうか?


「そもそも、アレイスは私を探していたはずです。 なのに、ここに拠点を構えていたといっても過言ではありません。 それも一ヶ月前から」


「……別に普通じゃないか? レイラのことが標的で、その近くに拠点を構えるなんて。 ここは見晴らしも良いし、絶好の場所だと思うが」


 しかし、レイラは言う。 レイラが感じる不自然さというものを。


「その情報は一体どこから? 私がここに来たのは、それこそ一ヶ月前なんですよ、柊」


 ……こいつが来たのが一ヶ月前? ということは、アレイスと同じ時期だということか? けど、待て。 アレイスは確信を持っていた。 あいつはレイラがここに居るということを知っていた。 追跡方法なんて俺には分からないが、ベテランとも言える霊界師であるレイラがそこに不自然さを感じている時点で、普通のことではない。 レイラの動向がどこかしらから漏れていたというのは、間違いないのか。


「おや。 これはこれはレイラ・ルイスフォールさん。 お久し振りですね」


 そのとき、レイラの背後から声がする。 それを受け、俺はそちらに、レイラは振り返り、その相手を視界に入れた。


 シルクハット帽をかぶり、タキシードを着た男。 手には白い手袋、顔は西洋風の顔立ちに、薄く笑っている。 ただならぬ雰囲気は俺でも感じることができた。


「ラミー。 随分早かったですね」


「それが仕事ですので。 いやはや、例に漏れず今回もしっかりと仕事は果たしてくれたようで、私達としてもレイラさんのような腕の立つ方が正しい行動を取ってくれるのは有り難い。 今回の謝礼は後日お支払い致します」


 大仰な身振り手振りでラミーと呼ばれた男は言う。 まるで、演技でもしているかのような立ち振舞だった。 口振りからして、レイラの顔見知りか? そして、謝礼と口にしたということは……霊界機関の人間だろうか。


「残念ですが、今回の仕事をこなしたのは私ではありません。 そこにいる方がやりました」


「おや。 これはこれは驚きました。 あなたとは初対面ですかね?」


 言いながら、男はレイラの横を抜け、俺のすぐ傍まで歩み寄る。 俺はそれを目で見ながら、警戒を一切解かない。 得体の知れない男、更にこいつからは……何か嫌な感じを受ける。 レイラや沙耶、ファンタズマの人たちとも違う雰囲気だ。


「……失礼致しました。 私はラミーと呼ばれております、霊界機関第四処理部の隊長をやっておりまして……ああ、これは申し訳ない。 私のことを知らないとなると、霊界機関を知らないのかもしれませんね。 ということは、あなたはもしや霊界師に成り立てということでしょうか? 分かりやすく例えれば、あなた方、霊界師が終わらせてくれた仕事の後処理などを請け負っております。 どうかお見知り置きを」


 男は言い、手を差し出す。 俺は数秒それを見つめたあと、その手を掴んだ。 だが、妙な空気をやはり感じる。 それは俺の体全体ではなく、手からだ。 この男の手は……とても冷たい。 まるで死人のように、人の温もりというのが感じられない。


 おかしなことを言っているよな、俺。 だってこいつは手袋をはめているというのに、その熱さを表現するだなんて。


「ふむ、成程。 あなたがあのアレイスを。 是非とも部下に欲しいものですね、将来有望とあれば、人材不足である私達霊界機関に是非とも欲しい。 如何ですか?」


「えっと……いや、俺は……」


 突然そんなことを言われ、俺は戸惑う。 まず、その仕事自体が良く分かっていないし、いきなりそんなことを言われてもな。 後頭部を叩かれたような、奇妙な感覚さえ受けてしまう。 ラミーは直接それを見ていないというのに、こうもあっさり俺の力を信用されても、困惑してしまう。


「すいません、残念ですが柊は私の弟子です。 勝手に手を出されたら私が許しませんが」


 ……レイラの中では俺が正式な弟子ということになっていないか、激しく不安になってきた。 冗談だよな、冗談ですよねレイラさん。 俺、そんなことひと言も言ってないからね。 勘弁してね。


「おや。 いやはやこれはこれは。 そうとは知らず、無礼なことを。 それならば仕方ありません、ここは恩を売りつける、という卑劣な行為に出るとしましょう。 それを柊さんがしっかりと覚えておき、いつか私に恩返しをしてくれるという行為に期待をしましょう」


 ラミーは言い、手に持っていた杖のような物で俺の肩を叩く。 それは軽く、まるで触れるようなものだった。 だが、その動作があまりにも自然すぎて、俺は反応すらできず、ただただそれを見守っている。 それは次に行われた動作も同様で、横で気を失っていた沙耶にされた同じことも、俺はただ見ているだけだった。


「……お前、一体何を」


「ですから、恩の押し売りです。 あなたは壁に背中を預け休んでいる、つまりは体のどこかがオカシイ。 横にいる女性は見るからに怪我をしていますしね。 先ほどレイラさんが仰った「今さっき終わった」という言葉を考えれば、答えはひとつ。 あなたは怪我をしており、横の女性も同様ということです。 なので、恩を売りましょう。 気になさらず、これは私の気まぐれで、サービス精神の譲渡です。 例え一分後に柊さんが忘れようと、五分後に忘れようと、数日後に忘れようと、数年後に忘れようと、一生忘れていようと、私が怒るということはあり得ません。 ですが、もしも柊さんが覚えている間にそれを返すチャンスが訪れたら、私に協力して頂けたら大変有り難い。 というわけで」


 独特な話し方をし、ラミーは振り返る。 俺から離れるように歩き出し、レイラは何も言わずにラミーのことを見続けている。 レイラの表情を見るに、あまり良い感情は持ち合わせていないようだ。


 ……それもそうか。 この男は、やけに状況を観察したがる。 レイラのこともそうなのだろう。 たった一度だけレイラが口にした俺の名前をハッキリと取り入れた時点で、そうなんだ。


「どうやら修復は終わったようですので、私はこれにて失礼致します。 レイラさん、柊さん、どうかお元気で」


 言うと、男の体は光の粒子に包まれ、消え去る。 それはまるで、アレイスが死んだときと同様だ。 だが、意志を持って行われたようにも見える。


「……ったく、一々食えない男でウザいです。 柊、あいつとはあまり関わらないことをオススメしますよ。 何を考えているのか分かりませんし」


「大丈夫、俺も同じことを思ったから。 でも、あいつが言ってたように恩は売れらたみたいだ」


 足の痛みは、完全に消えている。 俺が負った傷、失った体力、その全てが回復している。 体力のほうはレイラに霊気を受け渡されたときのように回復できることは知っていたが……この足は、例外だったんじゃなかったっけか。 自然回復できない傷は、霊気の受け渡しだけでは治癒できないとレイラは言っていたのに。


「それがラミーの能力です。 世にも珍しい治癒系能力、私が知っているのはあいつだけですよ。 だからウザいんです、あのボケは死ねば良いのに」


「……お前めっちゃ嫌ってるんだな」


 悪態をつきながら、ラミーが先ほどまで居た場所を見つめるレイラ。 俺が先ほど勧誘されたとき、咄嗟に俺のことを弟子だといったのは、ラミーに対する嫌がらせの意味が大きそうだ。


「柊、平和に生きることが望みなら、霊界機関とは関わり合わない方が無難ですよ。 当然、生活する上ではある程度の関わりは必要ですが……深く関わることはやめた方が良いです。 さっきの見ましたよね?」


「さっきの?」


 何か分からずに俺は言う。 が、そんな俺を見てレイラはため息を吐き、口を開いた。


「移動ですよ、消え去るような。 あれは恐らく、霊界機関の誰かが持っている能力です。 並大抵の能力ではありません。 それを当たり前のように利用している、それが霊界機関というものです」


「……ふうん。 ま、良く分からねえけど、気を付けろってことだろ。 別に俺は自分から面倒事に首を突っ込もうとは思ってないし、これからもそうする気なんてないから大丈夫だよ。 心配してくれてありがとな」


「な……」


 俺が言うと、レイラはバッと俺の方へ顔を向ける。 なんだ、何かマズイことでも言ったか? まさか心配していたんじゃなくて、警告だとか言わないよな。 俺にとっては一緒のことだが、レイラにとっては俺を殺さなければいけないほどの言い間違い……とは到底思えないが、レイラだとありえると思ってしまう。 こいつ頭おかしいからな、マジで。 常識知らずの枠を飛び越えて頭がおかしい。


「……まぁ、良いです」


 良かったぁ! セーフ! 危うく死ぬところだった。 こいつといると、いくら命があっても足らないぞ。 選択肢をひとつでも間違えたら、即死エンドが待っているという恐ろしいゲームをやっている気分だよ。 超絶クソゲーじゃねえか。


「私もそろそろ帰ります。 柊」


「おう、またな……っと」


 レイラは言いながら、俺に何かを投げつけた。 俺がそれを受け取り、なんだと思い顔を上げると、そこには既にレイラの姿はない。 跡形もなく、一瞬で帰ったようだ。


「……メモ? なんだこれ」


 数字の羅列? 十一桁、しかし見覚えがある並び方。 これ、携帯の電話番号か? このタイミングで渡してきたってことは、レイラの番号か。 なんかやけに雑な渡し方だな……ま、文句を言っても仕方ない。 というか文句を言うべきことではないだろう。


 俺はそれをポケットに仕舞い、既に完全に治りきった足で立ち上がる。 そして、沙耶の方へと顔を向けた。


「……ん、心……矢……? 心矢、心矢かッ!?」


 勢い良く飛び上がり、勢い良く俺の胸ぐらを掴む。 そこは抱きしめて欲しかったな、苦しい苦しい……いや割と本気で苦しい。 息が。


「お、おう……死ぬ……放して……」


「おお、すまん。 いや、待て、あいつは」


 俺を放したかと思えば、沙耶は辺りを見回し警戒する。 未だに混乱しているのか、俺がこの場に来たということさえ、忘れているのかこいつ。


「倒したよ。 少し話していくか」


「……倒した? まさか、心矢がか? それは……いや、ああ、そうだな。 ひとまず、話を聞こうか」


 沙耶は驚いた顔をしながらも、すぐさま冷静さを取り戻す。 改めて思うが、こいつの物事の理解の速さは恐ろしいものがある。 普通だったら取り乱して、矢継ぎ早に質問でもしてくるところなのだろうが、数秒で冷静さを取り戻すとは。


 俺はそんな沙耶に呆れのような、感嘆のような感情を抱きながら、ことの成り行きを口にし始めるのだった。

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