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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第二話

「沙耶……? お前、なん……は?」


「久しぶり、心矢。 てか驚きすぎだ、まったく。 まぁでも、私も最初は似たようなものだったけどさ」


 沙耶は笑う。 あの日、あの日々と同じように。 それが俺にとっては懐かしすぎて、しかしそれよりも状況が全く飲み込めず、俺はただただ沙耶の顔を見るしかなかった。 見間違いようのない、沙耶だ。 肩ほどの黒髪、凛とした顔付き、絵にもなりそうな綺麗な肌、それらはあの頃となんら変わりなく、沙耶はそこに居た。


「掻い摘んで説明するぞ。 心矢は死んで、幽霊になった」


「……掻い摘みすぎだろおい。 てか、幽霊って……そんなの信じられるわけ」


「私が嘘を吐くと思うか? ほら、そこ」


 沙耶は言いながら俺の後ろを指差す。 何かと思い俺がそちらへ視線を移すと、そこにあったのは俺の体だった。 服装、体格、顔、それらが全て一致する。


 繰り返そう。 俺の体がそこにはあった。 それも、かなりグロテスクな見た目になりながら。


「え……あれ、ちょっと待て。 あれ死んでない? てか、ちょっとグロすぎない?」


「そりゃあれだけ派手に轢かれて百メートル近く落ちればそうなる。 あ、私はもうちょっと綺麗だったからな。 散り際の美しさなら私の勝ちだ」


 言いながら腰に手を当て、沙耶は笑う。 その言葉に嘘はないように思えた。 しかし、それだとこの意味不明な状況を飲み込むことになってしまうぞ。 そこで俺はひとつの結論に至った。 画期的、かつこの状況を一発で解決できる裏技。 そうだ、これは夢か。


「ったく……俺もすげえ夢見るようになったなぁ」


「なんで夢にする!? 現実だ、現実! ほら、それならあれだ。 今日、私のお墓に来ただろ? 心矢」


「……行ったな。 見てたのか」


 だとすると、もしも仮に沙耶が言う「現実」という言葉を本当だとするならば、あのとき聞こえてきた沙耶の声は本物ということになる。 その事実を認識し、俺はこう思った。 良かった、幻聴じゃなくてと。 見られていたという事実よりも、自分の体が健康であることに安堵した。 まぁ死んでる……らしいけどね。


「いや良くねえよ! なんだよこれ!? 意味分からないぞ!?」


「いきなり何を言っているのか良く分からないが……まぁ落ち着け。 とりあえず、ここから離れるぞ。 警察とかも来るかもしれないし、事故って分かれば厄介なのも来るかもしれない」


 窘めるように沙耶は言い、先ほど俺が落ちてきた崖上を見上げる。 釣られて俺も見上げるが、そこには特に妙なものは見えない。 ガードレールが飛び出ているのは妙ではあったが、沙耶が言いたいことはそれではないと多少は理解もできた。


「厄介なのって?」


「あとで説明だ! とにかく早い内に離れるぞ、付いて来い」


 沙耶は言い、森の中に向かって走り始める。 物凄いスピードで、まるで空を飛ぶかのように。 俺から見れば沙耶は運動神経なんて大して良くもなく……それでも学年では上から数えた方が早いくらいではあったが。 そんな沙耶があれほどの速度で走れることが信じられずにいた。 いや、それどころかとてもそれは人間が出せる速度ではない。


「ああくそ! なるようになれだな!」


 とりあえず、状況も状態も意味が分からないが、沙耶に付いていくしかなさそうだ。 その結論に至り、俺は走り出す……が、その直後に異変に気付いた。 まるで車にでも乗っているかのように、電車にでも乗っているかのように、横の景色があっという間に後ろへと流れていく。


 とても、人が出せる速度じゃないように思えた。 自動車、電車……それ以上だろうか? 体がとてつもなく軽く、空でも飛べそうなほどに活力に満ちている。 自分の体が別人かのように思わせるほどの身軽さを感じた。


「おお、驚いた。 さすがに足が早いな」


「いやお前……さすがで済む速さじゃなくねえか?」


 それに加え、体力も全くなくならない。 息切れすら起きず、どこまでも走っていけるような軽さである。


「そんなの幽霊だからに決まっている。 リミッターが全部外れるんだ」


「リミッター? なんか聞いたことあるな」


 人間は、無意識の内に体にリミッターをかける。 それはもっとも重要で、人間の潜在能力を制限するもの。 本当にピンチのとき、本当に発揮しなければいけないときですら外れるか外れないかは分からない。 だが、体の組織を壊さないように、人は自身の体にリミッターをかけている。 沙耶の言葉を鵜呑みにすれば、それが今、外れている状態ということだろう。


「でもそれってやばくないのか?」


「平気だ、幽霊ならばそう簡単に死にはしない」


「それ便利な言葉だな」


 今更の話、結城沙耶という人物は説明下手である。 要するに、沙耶が言いたいのは、肉体を持った人間ではないからリミッターをかける必要がないということ。 つまりそれは、同時に病気や事故による怪我、人体が傷付くことがなくなるということに繋がる。 人が自身の体にリミッターをかけるのは体を守るためであって、その必要がなくなるというのはそういうことなのである。


 そこで、俺はふと思う。 待て待てつまりアレか? 肉体が傷付かないってことは物理的なアレもなくなるってことか? 痛みとかそういえば感じなかったし、もしそうなら本当に幽霊みたいに壁とか抜けられちゃうわけ? え、なにそれやばくない? なんて。


「……」


 丁度、俺の目の前には巨大な木が立ちはだかった。 その木を見つめたあと、俺は満を持して、その木へと速度を緩めることなく突っ込むことにした。 沙耶の言葉を信じて、私が嘘を吐くはずがないだろう? と自信満々に言った沙耶を信じて。


「あ、でも物にはぶつかるぞ。 だって、ぶつからないと下にどんどん落ちて行くだろう? それはそれで面白いかもしれんが」


「それはもっと早く言って欲しかったぁあああああ!!」


 頭に衝撃。 酷く鈍い音が辺りに響き渡り、それを見た沙耶は馬鹿を見ているような顔でため息を吐く。 今この瞬間、馬鹿にされたことは間違いないだろう。


 だが、予想通り肉体的な損傷はない。 痛みもなければ、気を失うこともない。 言ってしまえば傷付いたのは俺のプライドだけという事実である。 一生馬鹿にされることはない幼馴染に馬鹿にされたのだ、それは無理もないこと。


「あーあ、心矢のドジも変わらないな。 ふふ」


「うるせえ……」


 ともあれ。 俺はこうして幽霊になり、そして状況を理解するために、沙耶へと付いていくのだった。




 それから走ること数十分、沙耶はようやく街中で足を止めた。 やはり体力というものは存在しないようで、あれだけの速度でかなりの距離を走ったというのに、息切れひとつない。 俺も沙耶も、やはり幽霊というものになっているのが伺える。 本当に、にわかには信じられないが……ひとつひとつが、そうだと言わんばかりだな。


「お疲れ。 いやぁ早いなお前は。 やはり身体能力は生前に依存するみたいだな」


「そりゃどうも。 で、何が何なんだ、これ」


「それを説明するために連れてきたんだろう? ほら、あそこ」


 沙耶が指差す先には、建物がある。 あまり新しい建物ではなく、かといって古過ぎもしない。 その建物の扉には掛札がされており、そこには「喫茶店」と書いてある。 その横には小さく「ファンタズマ」と書かれており、恐らくこれが屋号だろうか?


「お化け屋敷みたいな名前だな」


「あ、それ中に入ったら言わないように。 怒られるぞ」


「怒られるって……」


 誰に? だって俺や沙耶は幽霊で、そうなれば人に認識されることだってないはず。 認識されるのだとしたら、俺が沙耶を見れていたはずだし。 つか、こいつって案外自由に動けるみたいだけど、ずっとあの墓に居たのかな? 更に言わせてもらえば、言うなと言われると言いたくなるのが人間の性である。 あ、もう人間じゃなかった、えへ。


「それじゃあ行こう。 確か心矢はコーヒーはミルクだけだったよな? 丁度良いかもしれない」


「それだと何が丁度良いのか分からないからね。 お前、ほんとそういうところ変わらないのな……説明を省くっつうか、なんというか」


 単純に頭脳だけで言えば、沙耶は大変優秀だ。 学年でもずば抜けた成績を持ち、テストで二桁を取ったことがないほどに。 だが、その反面、コミュニケーション能力が著しく低い。 自分が分かっていることは他人も分かっていて当然、そう言わんばかりの話し方をいつもしてくる。 頭が良いのか悪いのか、判断に困る。


 しかし待て、今思い返してみれば、俺がコーヒーを飲むようになったのって沙耶が死んだあとだったような。 とすれば、どうしてこいつはそのことを知っているのだろう? いくら頭脳明晰だとしても、そんな千里眼みたいなものは持っていないだろうし、不思議なことだ。


 そう思い、俺は沙耶に尋ねてみることにする。


「ん? お前と一緒に居たとき、俺ってコーヒーとか飲んだことあったっけ?」


「ない。 だって、私が死んだあとに知ったことだし。 ずっと見てたからな」


「なにそれ怖い……」


 恐怖だ。 俺が知らなかっただけで、こいつずっと俺の傍に居たってことか? ストーカーかな? 幽霊でストーカーってもう恐怖しかないんですけど。 ホラー映画か小説か、そんなものが出来上がりそうな気がしてならない。 恐怖、生前の親友を監視する霊……いつも一緒だよ。 とかいう見出しで。 いかん、鳥肌立ってきた。 俺はホラーが大嫌いなんだ。


「邪魔するぞ」


 そんな俺の恐怖も知らず、沙耶は店内へと入っていく。 俺はため息をひとつつき、そんな沙耶へと付いて行った。




「いらっしゃい。 おや、今日はお友達も一緒? 珍しいね、結城さんが誰かと一緒に居るっていうのは」


「ああ、ちょっとな。 心矢は私が生きていたときの親友なんだ。 今でも親友だが、今日久し振りに会うことができてな」


「へぇ、ならそのお友達も死んじゃったってわけだ。 それで、幽体になってしまったんだね」


 俺の目の前で、そんな会話が繰り広げられる。 この人は……この人も、幽霊ってわけか? 沙耶と知り合いのように見えるが、俺たちが見えるってことはそうだよな? ていうか、どうやら俺は本当に死んだってことだよな。 未だにその事実すら受け入れられずにいるが……起きること全てがそうだと言わんばかりだ。


「このお店は、幽霊専用の喫茶店なんだよ。 あまり人気はないんだがな」


 そんな俺の考えを悟ったのか、沙耶は横でそう教えてくる。 小さい声ではあったが、その声はカウンターの中にいる人、恐らくは店長にも伝わったらしく、口を開く。


「結城さん、悲しくなるからそういうこと言わないで……僕、これでも頑張っているんだからさ」


 幽霊専用の喫茶店……そんなのまであるのか。 まさに幽霊物件、なんちゃって。 これ結構面白くないかな。 顔が少しにやけてしまったよ。


 なんて馬鹿な考えもそこそこに、俺は状況の理解に従事する。 僕、と自分のことを呼ぶ男は、温厚そうな男だ。 二十代半ばくらいだろうか? 困り顔で沙耶にそういう姿は、なんだか哀愁が漂っていなくもない。 温厚そうな見た目と、少し小太りの体、声は優しく、喫茶店の雰囲気にとても合っているような気がする。 首にはネックレスのようなものを付けており、それにはリングが七つかけられていた。 少々特徴的な装飾具だな。


「それで、結城さんが連れてきたってことは、僕に説明を任せたってことかな?」


「さすがマスター! 話が早くて助かるよ」


 男の言葉を聞き、指を鳴らして声をあげる沙耶。 こいつが指を鳴らすときは機嫌が良いときである。 本人は知らないと思うが。


「やれやれ……僕の役目はそうじゃないんだけどね。 まぁ、心矢くんだっけ? 僕は神城(かみしろ)(じん)。 適当に座って良いよ。 何か飲むかい?」


 手早く自己紹介を済ませ、微笑みながら神城さんは言う。 俺はその言葉に従い、カウンターにある椅子へと腰を掛けた。 それを見ていた沙耶は、俺の隣へと腰を掛ける。


「私はいつもので。 心矢はホットコーヒーで良いよな? ミルクだけで」


「了解。 コーヒーに砂糖を入れるのは邪道だからね、僕の前でそれを言ったら許さない」


 優しそうな顔をしている割に、拘りはしっかりあるのか。 てか怖いな……この人。 許されないと一体どうなってしまうのだろうか。


「あ、すいません、自己紹介が遅れました。 俺は柊心矢です。 えーっと……さっき死んで? 気付いたらここに居て? みたいな」


「……相変わらず説明が下手みたいだね、結城さん。 まぁ良いよ、僕から説明するね」


 また困り顔をして、神城さんはため息を吐く。 俺もその苦労をよく知っているから、気持ちが痛いほど良く分かるな。 説明をぶっ飛ばす癖がある沙耶の話を理解するのは、並大抵の努力じゃできない。 てか、未だに俺もできない。 むしろできる奴がいたら見てみたい。


「簡単に言うと、今現在柊くんが居るのは死後の世界だ。 人が死んで、直後に訪れることになる世界。 けど、全員が全員そうではない」


 神城さんはコーヒーを淹れながら言う。 その横で同時にココアのようなものも作っており、そちらの方が先に出来たのか、沙耶の元へと置きながら続きを口にした。


「適正というのがあるんだよ。 適正がない人間は、生前の世界を終え、死後の次の世界、まぁ君が想像するような世界へ行く感じかな。 僕もそれは知らないから、本当はどうなるのか分からないけどね。 転生でもするのか、はたまたそこにあるのは無なのか。 とにかく、君が居るのは……そうだね、生前の世界を表とするなら、裏の世界だよ。 適正ある人間が来れる死後の世界だ」


「裏の世界って言い方はなんか格好良いな、心矢。 こう、心の辺りに来るものがある」


「そうか……? てか、別に言い方はどうでも良いだろ」


 なんでお前がワクワクしているんだと言いたい。 少なくとも、死んだ直後にこうなるのだとしたら、沙耶は一年丁度この世界で過ごしているわけだし。 お前は慣れていないとまずくない? 大丈夫ですか、沙耶さん。


「それで、神城さん。 適正っていうのは?」


 沙耶に構っていたら埒が明かなくなりそうなので、俺は神城さんに話題を振る。 神城さんも察したのか、沙耶が入り込む隙がないように喋り始めた。


「うん、ずばり霊界師の素質のことだね。 悪い幽霊……僕たちは境界者と呼んでいるんだけど、それを倒す感じかな? それが一度死んだ僕たちに与えられた仕事なんだ」


 言いながら、神城さんは俺の目の前にコーヒーを置く。 香りが良く、寒さに震える体にはとても美味しそうに見える。 そのときに気付いたのだが、神城さんの左手の薬指には指輪がはめられており、どうやらこの人は既婚者なのだろうか? なんてことを思うも、邪推だとして、俺は差し出されたコーヒーで冷えた両手を暖めながら、話の続きを促した。


「霊界師……? 境界者……?」


 これはちょっとヤバイ、新しい言葉が出てきて混乱してきた。 こんなことならもっとちゃんと勉強しておけばよかった……でも良く考えたら学校で習うことじゃなかった。 やっぱり勉強していなくてよかった。


「順番に、ね。 霊界師っていうのは、今の僕や結城さん、それに柊くんも霊界師というのになる。 感覚的に言っちゃえば幽霊ってわけさ。 でも、いくら幽霊と言っても、空腹は感じるし、ちゃんと食べ物も食べなきゃ本当に死んじゃうんだよ。 寿命とかはないけど、しっかりお金を稼がないといけないってこと。 これは表でも裏でも一緒さ。 そこで霊界師という仕事に就くわけだけど」


「その内容が、境界者を倒す?」


「ご明察。 僕たちのような霊界師は大勢いるんだ。 その雇い主と言えば良いのかな、霊界機関というのがあって、基本的には境界者退治をすればそこから報酬が出る。 そのお金で生活をするってわけだよ」


 となれば、俺もその境界者ってやつと戦わないといけないってことだよな……。 できるのか、そんなこと。 すげえ不安だらけなんだけど。 得体の知れない化物と戦うなんてこと、俺にできるのだろうか? その境界者とやらを見ていないから分からないが、命懸けにもなりそうな話だ。


「大丈夫、心配は要らないさ。 必殺武器とかあるしな。 だろ、マスター」


「それはもうちょっと理解してから進めようと思っていたんだけど……まぁ良いかな。 結城さん、出せる?」


 へらへら笑って言う沙耶に、神城さんが言う。 それを受け、沙耶は席を立ち、俺から少し距離を取った。


「アッキヌフォート」


 言葉と同時、沙耶の手には弓が出現する。 光粒が周囲に撒かれながら、どこか美しい弓だ。 大きさは沙耶の身の丈と同じほど……百六十センチくらい。 禍々しいとも、神秘的とも呼べる弓。 シンプルな構造ながら、そんな認識をさせる形だ。 何もない空間から突如として現れた武器、それを手馴れた様子で扱う沙耶。 意味が、分からない。


「なんだ、それ」


「私の相棒だよ。 絶対必中の弓なんだ」


「絶対必中……?」


 すると、沙耶は弓を構える。 他でもない、神城さんへと向けて。


「え? なに、僕で試すの?」


「マスターなら止められるし。 いくぞ、えいっ」


 沙耶は迷うことなく弦を引き、可愛い掛け声と同時に放つ。 俺はそれを見ていたはずなのに、飛んで行く矢が見えなかった。 認識したのは、俺の顔の真横を何かが通り過ぎたということだけ。 目で追えないほどの速度。 髪が少し切れたんですけど。


「ってあぶねえなおい!! 俺に当たったらどうするんだよ!?」


「いやいや、狙われた僕の方が危ないよ。 まったく……ここ、店内なんだけどね」


 神城さんの声に、俺は振り返る。 すると、神城さんは自身の額の前でその弓矢を掴む形で止まっていた。 座っていた俺の真横を抜けたと思ったのに、そこよりも高い神城さんの頭に行った……? 速度も速度だが、どんな軌道を辿ったんだ?


「私の弓は、意識した物に向かっていくんだ。 今はマスターの頭狙ったから」


「よりにもよってそこを狙わないよね、普通。 とまぁ、こんな感じで霊界師になった人にはもれなく、神具と呼ばれる武器が付いてくる。 この種類は人それぞれだよ。 結城さんの場合は、アッキヌフォートと呼ばれる必中の弓、物体を抜け、意識した場所へ確実に当たる弓だね。 神話にも出てくるトリスタンが持つ弓だよ。 所謂「当たり」の部類さ」


 神話どうこうはこの際置いておいて。 だから、俺の横を抜けたのに上へ曲がったのか。 しかし、物体を抜ける……ってのはどういうことだ? それならば、神城さんが止められたのは理屈が通らない気がするが。


「横からの干渉には弱いんだよ。 それが弱点だね、結城さんの神具は」


「横から……え、つまり飛んできた矢を掴んだんですか? 神城さん」


「うん、まぁね」


 まぁねじゃねえよ。 どんだけびっくり人間だこの人。 ああ、死んでるからびっくり幽霊か。 そりゃびっくりだわな。 にしてもあの速度の矢を掴んで止めるとか神業か。 この人、優しそうに見えて案外怖いのかもしれない。


「マスターは滅茶苦茶強いからな。 それで、幽霊になった人にはもう一つあるんだ」


 笑い、沙耶は言う。 なんでか、再会してからの沙耶は随分笑っている気がする。 気のせい……じゃあないと思うけど。


「うん、結城さんの言う通り、霊界師には二つのものが与えられる。 ひとつは、今見たような神具と呼ばれる武器。 そしてもうひとつは」


「能力、だな」


 やはり、沙耶は笑ってそう言うのだった。

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