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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第十六話

「誰かいるか!?」


 肩で息をしながら、俺はファンタズマのアジト、その扉を勢い良く開ける。 誰でも良い、助力を請えれば、沙耶を救える確率はグンと上がる。 藁にもすがる思いというのはこういうことなのだろう。


「おっ……と。 なんだなんだ、そんな慌てて。 サンタクロースかテメェは?」


 そのままの勢いで中に入った俺を受け止めたのは、因原さんだ。 どうやら普段からあの露出度が滅茶苦茶高い服装らしく、今日も前に会ったときと同じ格好である。 俺は密かに因原さんは変態だと思っている。 誰しもが思っていることかもしれないが、口に出したら酷い目に遭う未来が見えるな。


 ……と、そんなことを考えている場合じゃなかった。 因原さんが居たのなら都合が良い、この人ならば大きな力にもなり得る。 変態ではあるが、ファンタズマの隊長なのだから。


「沙耶が、アレイスのところに……それで、力を貸して欲しい」


「あ? 沙耶って……ああ結城か? ほお、そりゃ確かなのかよ?」


 一瞬思考したように視線を上へ向け、その後疑問に満ちた顔をする。 俺はそんな因原さんを見て、すぐさま口を開いた。


「レイラが言っていた。 霊気が乱れているって」


「あーあのチビか。 なるほどねぇ、あのチビが言うからには間違いねえんだろうな」


 因原さんは独り言のように言ったあと、俺の方へと視線を戻す。 そしてそのまま、続けた。


「んで、テメェはどうして行く気に? 関係ねえんじゃないのかよ」


 言われ、俺は考える。 どうしてか、関係なかったことなのに、俺にとっては関係のないことで、関わる必要がないこと。 そう結論付け、俺がどうなろうとどうでも良いとさえ思っていて、終わったことなら気にする必要がないと思って。 なのに、今更どうしてか。


「決まってる。 沙耶がそこにいるからだ」


 俺はたぶん、馬鹿なんだ。 こんな今更なこと……本当に今更だ。 俺にとっては関係がなかったとしても、沙耶を巻き込む可能性はあったはず。 そんな簡単なことにさえ、俺は気付けていない。 だからレイラは言っていたんだ、悪意を向ける相手を放っておいて良いことはない、と。 俺はそれで良いと思っていても、俺以外の人間というのもこの世界には存在している。 そんな当たり前のことを今更ながらに実感し、俺は歯を食いしばる。 俺は客観的に見ていたのでも、俯瞰的に見ていたのでもない。 俺は、自分だけしか見ていなかった……ただの自己中だ。


 これが、事実だ。 俺が目を逸し、面倒だと思った結果だ。 沙耶がどうしてかアレイスのところに一人で行き、今現在戦っている。 その事実を受け止め、俺は次に移すべき行動を考える。


 しかし……ちょっと待てよ。 あいつはそもそも、どうしてアレイスのところに行ったんだ? 俺からは何も話していないし、あいつにとっても行く理由なんてないはずだ。 俺が殴られたっていう話はしたが……それだけで、あいつが一人で行くとは思えない。


「若いねぇ。 ま、いーぜ。 つうか結城のヤロー、いくら話を聞いたからって一人で行くとかバカすぎるだろ」


 因原さんはそう言った。 バツが悪そうにしながら、沙耶が話を聞いたと。


「……おい、話を聞いたって? なんの話だよ?」


「ん、そりゃアレだろ。 テメェがアレイスにぶっ殺されたっつう話だよ。 それ以外にねーだろ」 


 因原さんは俺のことを睨むように見ながら言う。 それを聞いた瞬間、俺の頭に一気に血が上ったのを感じた。


「話したのか」


 それだ。


 それしかあり得ない。 沙耶は確かに馬鹿だけど、無謀なことをする性格でもない。 もしもそれをするとしたら、自分の身を捨ててでも成し遂げたいことがあった場合のみ。 あいつにとって、沙耶にとって……俺が殺された、殺した相手というのは、そうする必要があると思ってもおかしくはない。


「ふざけんなッ!! てめぇ、余計なことを言いやがってッ!!」


「ッ……あ?」


 俺は気付いたら因原さんに掴みかかり、その両肩を抑えながら、壁へと押し付ける。 その行動が意外だったのか、因原さんは俺のことを睨みつけるだけだ。


「言ったらあいつは行くに決まってんだろ!? あいつが周りの人間をどれだけ大事にしてるか、一年も一緒に居たなら分かるだろッ!? なのに、てめぇは!!」


「はっ、分かってるよそんなこと。 ただな、柊。 自分の力量と相手の力量を見極められねぇ奴はバカだ。 いくら頭にきたとしてもな。 そんで死ぬのは間抜けのすることだ。 アタシはテメェに言ったよな? アタシは優しい優しいお姉さんじゃねーよって。 冷静に状況判断ができない奴はいずれ死ぬ。 今のテメェも、いずれ死ぬぜ」


「……てめぇ」


 一発、殴ってやろうか。 因原さんは分かった上で言ったんだ、沙耶がどう動くかある程度の予想を立てていて。 あいつがキレると分かって、あいつが一人で突っ込むと予想はしていて。 それなのに、ろくに止めもせずにただ行かせた。 ただ一つの予想外は、沙耶がすぐさま行動に移したということだけで。 そして今、沙耶は一人でアレイスと境界者と戦っている。 その結果、もしも沙耶が死んだら……間抜けだと?


「はいはいストップストップ。 柊君も、隊長も落ち着いて。 ここで揉めても事態は好転しないよ」


 そこで間に入ったのは、東さんだった。 俺と因原さんを引き離し、俺たちのことを窘める。 だが、それもそうだ。 ここで揉めて、言い合いをしたとしても、それはただただ不毛な争いだろう。 暗転こそするものの、好転することは絶対にない。 悔しいが、ぶん殴ってやりたいが、冷静な判断をしなければならないというのは、間違っちゃいない。


「良いか柊、こっちの世界は全て自己責任だ。 誰かに責任なんかねぇ、誰かが悪いわけでもねぇ、他人は所詮他人で、ひとつの出来事で死んだら当人の責任でしかねぇ。 それをあいつは分かっちゃいねぇんだよ」


「そうかもしれない。 だけど、俺にはそれを受け入れることなんてできない。 俺が死んだら俺の責任だ。 でもな、俺の親友が死んでも、それは俺の責任なんだよ」


「何も知らねえガキが偉そうに……他人の責任を背負うなんて真似、できる奴なんていねぇよ」


 因原さんはあからさまに機嫌悪く言う。 苛立ち、とは違う。 その表情は怒りのように見えた。 もしかしたら、因原さんには昔、そう思わせる出来事があったのかもしれない。 でも、そんなことこそ、今この場では無関係だ。


「出来るさ。 俺は生憎、同じ過ちは二度繰り返さないようにしてるからな」


 俺は言い、振り返る。 時間が惜しい、一刻も早く沙耶の元へと向かうべきだ。 この一分一秒、一瞬の遅れが致命的にもなるかもしれない。 そもそも、俺がもっと良く考えていれば分かっていたことじゃないか。 沙耶がどうしてアレイスのところへ向かった理由なんて。 そんなの、ひとつしかあり得ないじゃないか。


 こう言うのもあれだが、正直ここに来たのは()()()()()だった。


「東、みんなにすぐ準備するように伝えろ。 アタシらファンタズマは今からアレイスの討伐に向かう」


「了解。 相変わらずツンデレだね、隊長は」


「うるせぇ、このクソガキに啖呵切られて黙ってられるかよ」


 そんな会話を耳にして、俺は言う。 頭の中はひどく冷静だった。 だから、俺がこう言ったのもその冷静さからだろう。 そう、思うようにした。


「俺一人でやる。 それが、俺なりの責任の取り方だ」


「おいおい、バカ言ってるんじゃねーよ。 相手は腐っても霊界序列五十八位、アレイスだぞ。 それにあいつの神具は近距離しか脳がないテメェとの相性が……」


「――――――――あんたらに手伝ってもらう義理はねえって言ってるんだよ」


 違うか。 これは、とても冷静だからとは思えない。 考えていることと、感情的に言ってることが食い違ってしまっている。 下手をしたら一周回って頭がおかしくなっちまったのか、それとも。


 ……それとも、沙耶のことを間抜けと呼んだのが、許せなかったのか。


 俺はそれから、前だけを見た。 ファンタズマのアジトを出て、真っ直ぐと山奥のトンネルへと向かって走り出す。


 答えは出た。 俺、柊心矢が今回の件でどうするべきか。


 そんな変わりはしないか。 ただただ俺は傍観する。 俺は何もせず、誰も恨みはしない。 この問題の正解は、俺が決めるのだ。 ただし。


 ただし、結城沙耶が関わった場合は全てを例外とする。

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