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死後のセカイへようこそ!!  作者: もぬけ
俺が死んだという話
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第十話

「なるほど。 それでこれだけ帰りが遅くなったというわけか」


「ああ、そうだよ。 レイラには今度、ちゃんとお礼をしないといけねえけどな。 あいつが断ったとしても、借りはできちゃったわけだし」


 それから、俺は神城さんと沙耶に文字通りの言い訳をした。 無論、顔は洗ってから。 この借りはいつか絶対に返してやるから覚悟しとけよ、あいつめ。


 ともあれ、その話を聞き、最初に口を開いたのは沙耶だった。 頬杖をつき、神城さんが作ってくれたココアを飲みながら、真剣な表情をしている。 いつも真剣なように見えるだけの沙耶ではあるが、今回は心の中でも真剣だろう。


「アレイスか……良い噂を聞かない男だな」


「知っているのか?」


 沙耶でも知っているとなると、やはりそれなりに有名な男というわけだろうか? レイラは本当に興味がなかっただけで、普通だったら知っていなければおかしいほどの奴なのかもしれない。 と思いつつ、俺は神城さんが淹れてくれたコーヒーをひと口飲む。 程よい苦味が広がり、どこか落ち着ける味がした。


「つい数年前まで、ライザーという男が作った組織に所属していた奴だ。 その中でも屈指の実力を持ち、同時に残虐な男だと聞いている」


 やはり、霊界師の中にも様々なグループのようなものがあるのか。 東さんたちが所属しているファンタズマだって、言ってしまえばそういうものの一つだしな。


 だが、そこで神城さんが口を開く。


「ファンタズマとも違うよ、その組織は。 僕も一応ファンタズマの一員だから、言わせてもらおう」


「……なんで考えていることが分かったんですか?」


「そんなの、顔を見れば一発だよ」


 そんなに分かりやすい表情してたか? てか、そこまで読めるって俺は一体どんな表情をしていたんだ。 そっちの方がよっぽど気になるんだけど。 これでも表情が豊かとは言われたことないし、そりゃ人並みには笑ったり怒ったりはするものの、別に特別人と違うってわけでもないしな……。


「職業柄ね。 悩んでいたりとか、隠していたりとか、そういうのが分かるようになってしまったんだよ。 だから」


 ……またしても読まれた。 俺、この人やっぱり怖い。 神城さんの前では妙なことは考えないでおこう。


「ライザーファミリー。 名前の通り、マフィアのような組織だよ。 霊界機関にバレないように、結構悪どいこともやっていたみたいだ。 特徴としては、彼らが好き好んでやっていたのはブリーダーというものだね」


「ブリーダー? 犬でも育ててたんですか?」


「馬鹿かお前は」


 やばい、沙耶に馬鹿と言われるとめちゃくちゃ悲しくなる事実に気付いてしまった。 開いた口が塞がらないとはこのことか? まさか沙耶に「馬鹿」と面と向かって呼ばれる日が来るとは。 今まで言われたどんな罵倒よりも酷い。


「育てるのは犬でも猫でも、もちろん蛇でもないよ。 彼らが育てていたのは、境界者さ」


「境界者を……? それって、どういう?」


「柊くんはさ、境界者に強弱があるのは分かるかい?」


 言われ、思い返す。 俺は既に何度か境界者と戦っているが、神城さんの言う通り、拍子抜けしてしまうほどに弱い奴も、少々手こずる強い奴も存在する。 あれは単に個体差だと思っていたが……この様子だと、それは違うらしいな。


「肌で感じている、といった感じかな。 柊くんの考えていることは近くもあって遠くもある。 個体差というのはあるけれど、それよりも影響を受けるのは不幸だ」


「不幸? それって、人のですか?」


「そう。 彼らが起こすのは、人にとって不幸なこと。 魔が差した人間の背中を押してくる。 所謂、犯罪行為の背中を押してくる。 彼らに目を付けられた人間は、抵抗する方法を知らないから、成されるがままに犯罪を犯してしまう。 そしてそうすることによって生まれた不幸を糧にする」


 つまり、強い境界者であれば、それだけの不幸を吸い取っているということか。 小さいことだとしても、それを積み重ね、境界者は次第に力を付ける。 そういうことか。


「そして、強くなれば強くなるほどに与える影響も大きくなる。 柊くん、境界者は行き過ぎれば人だって殺せてしまうんだ」


「……なるほど。 事故とか、殺人に置き換えてですか」


「うん、ご明察。 そうして強くなった境界者ほど、レクトも価値があるものとなる。 だからブリーダーさ」


 となれば、ライザーファミリーがやっていたことにも検討が付く。 境界者を見つけ、捕らえ、人間たちを餌にしたというわけだ。 そうして人の不幸を吸い、ある程度強力になった段階で仕留め、それを霊界機関に収める。 単純な構造で、やり方としてもやりやすい部類だろう、これは。


 だけど、問題はその過程で犠牲になっているものたち。 詳しくは知らないが、沙耶も神城さんも噂くらいは聞いているのか、悪どいことと切り捨てている。 それはつまり、そういうことだ。


「そこまで分かっていて、どうして霊界機関は野放しにしているんですか?」


「していないさ。 最初に言っただろう? そのアレイスという男は、ライザーファミリーに所属()()()()


 過去形。 沙耶の言葉を噛み砕けば、今現在は所属していないということか? それで、霊界機関が野放しにしていないってことは。


「三年前、ライザーファミリーに一人の霊界師が送られた。 ライザーファミリーもかなり巨大なものになっていて、数は五百を数えるほどだったらしいよ。 けれど、その組織が一晩で潰れたんだ」


「え? 一晩で? そんな大人数相手に一人で、ですか?」


 いくらその送り込まれた奴が優れていたとしても、五百人にもなる組織を一人でだと? そんなことをできる奴なんて居るのか?


「そうじゃない。 そんな巨大な組織がまとまっているわけがないだろう? 拠点の数は十二、各地に散らばり、そして各地とも強大な力を持つ霊界師が多数いた。 そんな組織が、一晩で潰されたんだよ」


「……まさか、その送り込まれた奴って」


「レイラ・ルイスフォール。 最強の霊界師にして、もっとも恐れられる霊界師。 彼女は一晩でライザーファミリーを壊滅させたんだ」


 やはり、あの金髪チビは化け物だ。 性格こそ歳相応といった感じではあるが……俺や沙耶、それに恐らく神城さん、東さんなどのファンタズマの人たちでさえ凌ぐ強さを持っている。 絶殺と呼ばれるからには、それなりの理由があるというわけか。


 予想以上に、想定以上に、この世界は広い。 今日だけでも、何度驚かされたことか。 そんな世界で生きていく以上、俺も俺で更に力を付けなければ駄目なのかもしれない。


「アレイスは唯一の生き残りだね。 もっとも、一年間は幽閉され、更生の見込みありと判断され、出てきているわけなんだけど……柊くんの話を聞く限り、彼にはそんなつもりはなさそうだよ」


 そうだ。 あいつは、レイラのことを探していた。 自分が属する組織を潰され、その恨みを晴らしにでも来たのだろうか? あいつ自身、恐らく相当強い。 レイラと戦い、それでも生きているということは。


「絶殺と呼ばれる奴でも、殺し損ねることがあるんですね」


「違うよ、心矢。 あいつが殺し損ねるなんてことはあり得ない。 あいつの神具を受け、生きていた奴を私は知らない。 聞けば、序列戦のことは聞いたのだろう? それならば私が知っている一つの情報を教えよう」


 沙耶は前置きをし、口を開く。 珍しく、怯えているように見えた。 俺が知る限り、こいつの神経はかなり図太い。 だが、そんな沙耶が怯えている。 俺はその光景こそが信じられなかった。


「レイラは既に五年、霊界序列一位を保っている。 そして、その最初の序列戦のことだ。 私も直に見たわけでは当然ないから、それがどれほどのものだったのかまでは詳しく知らないが……五年前の序列戦、レイラと戦った者は全て殺されている。 そして次の年から、彼女と戦う者は皆、棄権をするようになったのだ」


 だからこその、絶殺。 だからこその、最強。 だからこその、化け物だ。 沙耶はそう付け加え、小さく笑った。 投げやりにも見えるそんな笑い方で、手に持っていたココアを一気に飲み干す。


「……それでも、アレイスが生きているってことは殺し損ねたんじゃないのか?」


「僕もそれが不自然だったんだ。 だから個人的に調べた結果、ひとつのことが分かった」


 神城さんは言い、続ける。 沙耶が持っていたコップを受け取り、新たなココアを作りながら。


「霊返し。 それが彼の持つ能力だよ。 一度だけ死んだとしても、生き返れる。 もちろん、表側じゃなくて裏側にね。 だから厳密に言えば彼も殺されていたんだ、レイラくんに」


「そんな能力が……。 でも、一度死んだってことは」


「うん、既に能力の方はなくなっているだろうね。 とは言っても、神具は健在のようだから強力な霊界師ということは間違いないよ」


 確かに、神城さんの言う通り生半可な奴ではない。 腕力、脚力、気配、それらだけで考えたとしても、かなりの強さに思える。 そして、あいつは特有のモノを持っていた……それは、緩急だ。 ゼロからの百、それを引き出せる奴は珍しい。 典型的な攻撃的性格と相まって、それが奴を凶悪なものにしている。


「結城くん、少し席を外してもらっても良いかな? このココア、部屋に持って行って良いから。 柊くんと二人きりで話がしたいんだ」


「だが……これは重要な話だろう?」


 神城さんの言葉に、沙耶は心底不審な顔をする。 沙耶の言う通り、俺は一度あいつと会い、そしてやられている。 下手をしたら沙耶にもそれが及ぶってことも考えられる状態で、持ちうる情報は共有すべきと思うのは自然なことだろう。


「だからだよ、結城くん。 君たち二人のために僕は言っている」


「……分かった。 だが、心矢に妙なことは吹き込まないで欲しい」


「もちろん。 僕はいつだって、若者の味方だよ」


 神城さんは優しく笑い、言う。 それを見た沙耶は「そうだな」と笑って言うと、俺の後ろを通り、部屋へと戻っていった。


「さて、柊くん」


「はい、なんですか?」


 神城さんは忙しなく動かしていた手を止めると、壁に背中を預けた。 どうやらここからは、穏やかな話ではなさそうだと、少しだけそんな空気を感じる。


「これからのことを話そう。 君にとっては、あまり良い話ではないと思うけどね」


 そして、俺は真実を聞く。 俺の身に起きた出来事の真実を。

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