呟き~まだ見ぬ彼に思いを寄せて~
ここに出てくるユーザーはオリジナルであり、実際にツイッターに同名のユーザーがいても全くの無関係です
「はぁ、今日は彼浮上しなかったな」
私は高校に入ってから、やっとか親に携帯…というかiPhoneを買ってもらった。
ついついメールや電話、インターネットなどをやり過ぎて親に怒られた事もあったけど、それでもやめられず徐々にならしていこうと決めて少しずつ控えようと自分に言い聞かせてたある時、友達から
「ツイッターやらない?」
と勧められ、どっぷりはまってしまった。
ツイッターの中では少々羽目を外し過ぎるため、友達以外には見せられないのだが、それでも顔を合わせずに会話出来るというのはどこかホッとし、安心できるため、フォロー数やフォロワー数こそ増えなかったが、多分現実より話す人が多かった。
そんな時、私の元に“彼”が来た。
悠斗
@nagisa 初めまして!フォローさせていただきました!
そう、悠斗くんこそがその“彼”だ。
あ、@nagisaというのは私。まあ、名前もそのままナギサなんだけどね。
それで、そんなフォローと共にツイートまで来たら、話しやすい人なのかな?って興味を持ち、気付いたら
ナギサ
@yuto_0909 フォロバさせていただきました!気軽に絡んでください!
と、現実ではあり得ない社交性をフルに使ってリプライしていた。
そしたら悠斗くんは、本当に隙あらば絡んで来て、いつの間にか気軽に話せて、親友とか言い合ったりしていた。
そう、悠斗くんにだ。(ついでに後ろの0909とは誕生日とのこと。そういう人って多いのかな?)
そして今日は、悠斗くんはツイッターに来なかったのだ。
「…はぁ」
自分がため息を吐いたことに少々驚いた。
ツイッターはその人の都合や気分で強制では無い。だからいなくてもしょうがない。それに、別にいつも悠斗くんだけと話しているわけではない。顔を知ってる友達や、ツイッター内で知り合った人など、その気になれば話す人はいる。そもそも話すことだって強制じゃ無い。前だって友達がいない事があったりした。
だからこそ、悠斗くんが来ない事をがっかりしている自分に驚いた。
彼は、自分に取ってそこまで大きい存在になっていたのかと。
「うーん。暇だなー」
その言葉に中に、“悠斗くんがいないから”という要素が、少なからず含まれているのは自覚している。だが、そうは思いたくないから、
ナギサ
何もやる事が無くて暇だよー。
なんて、ツイートしていた。
その後、軽くTLを流し見た後、面白い内容のツイートをRTして、そのままアプリを起動して暇を潰そうとした。
その時、
「あ、通知。加奈からだ」
加奈とは私の友人であり、ツイッターを私に勧めた人である。
まあ、別段おかしい事ではない。すぐにツイートを確認する。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 暇ならお話しようぜ凪っち!
嘘つけ!と心で叫ぶ。
カナカナこそが私の友達、加奈であることは偽り様の無い事実ではあるが、少しテンションがおかしい子なのだ。なんだ恋愛相談事務所って。
ついでに、私の本名は渚でも凪でもない。如月奈々(キサラギナナ)だ。本名からとってナギサなのは事実だが。
ナギサ
@kanakana なによカナ。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa おっと。友人の暇を救うべく立ち上がった友人に冷たいお言葉。
ナギサ
@kanakana じゃあ話題早くー。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 恋愛について語ろうではないか。
ナギサ
@kanakana れ、恋愛だと((((;゜Д゜)))))))
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa ふっふっふ。さあ、悩みを私にぶつけるがいい凪っち!
ナギサ
@kanakana いや、覚えがない。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 本人が気付いてないパターン。orz
何なのだろうか。全く記憶に無い。学校で誰かのこと見てたのを勘違いした?でも学校で特定の誰か、しかも男子を見ることなんて特に無かったはず…。
ナギサ
@kanakana なによ。さっさと教えなさいよ。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 悠斗くんでしょw
「はぁ!?」
つい叫んでしまった。
加奈も知ってることには知っている。というか面白い人だから私が引き合わせたのだ。
だが、なぜ私が悠斗くんに恋してると?無い無い無い!絶対加奈の勘違い!
ナギサ
@kanakana はあ?なに言ってるの?
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa その文章の長さで先ほどより返信が遅かった…ということはリアルの方で動揺していると見た!!
エスパーかこいつは。
ナギサ
@kanakana ちょっとメール来てそっち確認してただけ。というか、悠斗くんいないからって好き勝手言わないで…て、これ悠斗くんも見れるじゃない!?
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 大丈夫!悠斗くんは一気にトップツイートに飛ぶタイプの人だから!この前聞いたからね!だから見られる心配は無い!
はあ!?なんであんたがそんな事を聞いてるのよ!
と打ちかけて、これでは嫉妬してるみたいでは無いか!と慌てて打ち直す。
ナギサ
@kanakana だったらいいけど。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa その文章の長さで(ry
まあ、私と家族とぐらいしかメルアド交換してないような凪っちが誰からメール貰ったのか凄く気になるけど追求はしないでおくねw弱いものイジメはダメ!なんてねw
私はもしや、とても厄介な相手と友達になってしまったのではないのか。とても気になるけど気にしちゃいけないと心が警報を鳴らすのでやめておいた。
ナギサ
@kanakana でも、だからってなんで恋愛云々の話になるのよ。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 本人気付いてないんだ…。凪っち、学校で話す時内容が殆ど悠斗くん繋がりだよ。
そんなこと無い。
そう返せばいいだけだった。
だが、心当たりが多過ぎた。
その後は私の返信を待たずどんどんツイートが送られてくる。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 周りと話す時も「この前聞いた話なんだけど」とか前置きしてるけど、それってナギサが悠斗くんから聞いた話だったし。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 私と話す時なんか、まるっきり悠斗くんがどうのって話になってるのじぶんで気付いてる?
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa しかもテンションも普段と違うし。悠斗くん繋がりの時だけテンション高いよ?
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 話終わった時の顔はなんか、恋してますって顔だし、クラス内で凪っちが「誰かに恋してるんじゃないか」って専らの噂だよ?
そうやって次々と送られてくるなか、唯一返せたのは
ナギサ
@kanakana 実際に顔も合わせた事も無いのに、恋がどうとか無いってw
こんな内容だった。最後のwは最後の抵抗でもあった。
別に恋愛にトラウマがあるわけでも無い。
何か打ち込んでる物があるわけでもない。
悠斗くんが嫌いなわけでもない。
自覚が無いわけでもない。
だけど、実際問題、会った事も無いのに話した印象派だけで恋をするという事が、考えられなかった。
だが、加奈は違うようだった。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 出会いは関係無いよ。そこにあるのは気持ちだけだから。
ナギサ
@kanakana え?
気持ちだけ?どういうこと?
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa 夢見すぎって言われてもさ、あり得ない事じゃ無いと思うんだ私は。一度も会った事が無い人を好きになる。ロマンチックでいいんじゃないかな?
ナギサ
@kanakana ろ、ロマンチックって、それで片付けていいことでも無いと思うけど。
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa いいんだよ!そもそも恋愛に打算を妥協を持ち込むな!好きなら好き!出会いもきっかけも関係無いよ!大事なのは自分の気持ち!!
何でこの友達はここまで言ってくれるのか、私にはわからなかった。
どうしてここまで必死なのか、私にはわからなかった。
でも、その言葉は私の心から打算とか、妥協とか、実際問題とか、そういう言い訳を全部取っ払ってくれた。
好きかどうかはわからない。だけど、小さく仄かな、そして暖かい特別な“何か”を抱いてることに、変わりは無かった。
ナギサ
@kanakana …うん、ありがと
カナカナ@恋愛相談事務所
@nagisa あとは自分の手で掴み取りな若者よ!
そうリプ返ししてから加奈は、「離脱!」とツイートしていった。私はそんな心優しき友達に、ただ「りだてら」と返しておいた。
・・・
・・
・
次の日。
ツイッターには悠斗くんがいてくれた。
早速DMで
メルアド教えてください!
私はやらかした。
バカか!?ちゃんとわけ話せよ!?
へ?急になに?
ですよね!
え、いや、ちょっと会えないかなーって。
いや、会えてるだろここで。
り、リアルの方で!オフ会とかあるじゃん?それでね、悠斗くんがどんな人なのか気になったわけですよはい。
…お前、カナカナさんに何かを吹き込まれたろ。
私の周りエスパーだらけ過ぎる。
違う!その、ただ興味あるだけ!
だからってこの前と急に態度が違うって言うか…。
ああもう!いいじゃん会ってくれたって!
お前、さっきから言ってること滅茶苦茶だぞ!?
好きなの!
…待て、私は今なんと打った。何と送った。
すぐさま先ほど打ったメッセージを消し弁解のメッセージを打つ。
ウソウソ!今のなし!
おい、今のどういうこと?
記憶にございません
おい!今のって俺の今後にすっごく関係者あるんだが!?
いいでしょ別に!
こうやってメッセージでは普通(?)に返せてはいるが、現実のわたしはすでに真っ赤だ。
ああ、やばいやばいやばい。顔絶対真っ赤だよ今。心臓もバクバクいってるし。
…わかったよ。現実で会ってそこで確かめる。メルアドほれ。
そう言ってメルアドが送られてくる。こっちも送り返す。
これで完了だな。で、お前の住所は?会うなら住所ぐらい教えろよ。
う、…わかったわよ。あんたも教えなさいよ。
住所はさらに自分の身元に近づく情報だ。少し抵抗があるが、正直に教えた。
え?うそ!?
どうしたの?
家、そこまで離れてねえ!
え!?
住所を確認し、本当にそこまで離れてない事を確認できた。電車で駅四つ程の距離。
ぐ、偶然って怖い。
じゃ、明日にでも会えるな。
ええ!?
じゃあ××駅の近くのデパート昼に集合な!
な!?ちょっと!
だが、DMはもう送られてこなかった。
TLを見ると、彼はすでに離脱していた。
あまりにも強引に取り付けられた約束。
「…なんなのよ!もう!」
私にはただ叫ぶしかない。
だけど、言葉とは裏腹に、私の頬は自分でもわかるほど緩んでいた。
・・・
・・
・
「どどど、どうしよう加奈!」
『落ち着け親友!』
次の日の朝になって、ようやく私の脳はアラームを鳴らす。
髪型、服装、持って行くもの、自称恋愛相談事務所こと加奈に光の早さで電話し相談をしていた。
そうやって準備が終わる頃には、もう出る時間だった。
「ああ!もう行かなきゃ!切るね!」
『お礼は土産話聞かせてね!ファイト!奈々!』
本日二回目の登場となる私の本名で呼んでくれた加奈の応援を受け、急いで玄関を出る。親がニヤニヤして見送ってきたが、気にしてはいられない。
移動中の私に殆ど意識は無く、次に気づいたのは約束のデパートの前、昼ちょっと前だった。
そして、気付く。
私、彼の容姿全くわからないじゃない!
同様に悠斗くんも私の姿を知らないだろう。
こんな落とし穴…最悪だ、
「ど、どうしよう…」
彼とどんな話をしよう。どこで食事しよう。どこを歩こう。どこで遊ぼう。
そんな妄想の前に、その彼の姿がわからない。
「うぅ…」
思わず泣きたくなる。
その時だった。
ブブッ、と携帯が震える。何かの通知だ。
「…え?」
通知はツイッターのもので、相手は悠斗くんだ。
そこには、
悠斗
@nagisa 俺の背中はお前に任せた。なんてなw
そんな、ツイートだった。
反射的にと言うか本能的にというか衝動的にというか、私は後ろを振り向いた。
そこにいるのは、見知らぬ青年。
でもなんでだろう、こんなに暖かく感じるのは。
こんなに嬉しく感じるのは、なんでだろう。
青年は私を真っ直ぐ見て、
「よ、ナギサ」
ただ、そう言った。
何で私とわかったのか、凄く気になった。普通わからない。
でも、何故か彼、悠斗くんを見たらどうでも良くなってしまった。
なぜなら、そんな事聞く機会は、これからいくらでもあるんだから…。