運命
「難しい質問だね……本当とも言えるし、正確には違うとも言える」
准くんの声はどこか無機質で、温度が感じられない。まるで目の前にあるシナリオを、淡々と読み上げているみたいだ。
滑るように走る車の外では、疎らに咲いた傘の花が踊る。十字路に差し掛かると、通りの向こうは濃い霧に包まれていた。
「俺の場合はね、少し複雑なんだ」
ゆったりとブレーキを踏みながら、准くんはつぶやく。
「言うまでもなく、俺はルイと藍の味方だ。ルイが敵とみなすのなら、俺にとっても敵なんだろう」
告げられた内容は、やっぱり少し他人事のよう。でも私は口を挟まず、窓の外を見たまま耳を傾ける。
「でも、ある意味……ユウちゃんを軸に考えるのなら、一番客観的な立場なのかもしれない」
“私を軸に”なんて、今の私にとってはなんとも皮肉なものだった。何も知らない、何もわかっていない私が軸になり得るのなら、水面下で不満を抱いている人はいったいどれほどいるんだろう。
「時はもう、満ちてきているのかもしれないね」
誰に向けるでもなく、そっと囁かれた言葉がゆらゆらと漂って、消えていく。私は目を閉じ、視界を遮断した。
「ただひとつだけ、忘れないで。ルイも藍も、決して悪ってワケじゃないんだ……本当は君に、罪なんてないのと同じでね」
閉じたままの瞼が、じんわりと熱を帯びる。言われた内容のすべては理解できなくても、じわじわと脳に浸透した言葉が、心を揺さぶった。
「……初めて言われた」
「え?」
「私に、罪はないって」
「……そっか」
色褪せない記憶を思い出すたび、私を苛むのはいつだって罪悪感だった。
“私のせいで”
“私さえ、あの時……”
「ユウちゃんは、運命って信じる?」
物思いにふけっていると、再び准くんが声を掛けてくる。
「ちょっと前までは、信じてなかったけど。今は……信じざるを得ないかな」
「それなら、こう考えるといい」
いつの間にか車は私のマンションの駐車場に入り、空いていたスペースに停車していた。准くんはベルトを外しながら、こちらに振り返って微笑む。
「“すべては、運命なんだ”って。時々はそう思わないと、人生つらいでしょ?」
「……そうかも」
力無く微笑み返しながら、私は目尻を拭った。
決して絶ち切ることができないほどの、ルイからの強い想い。
ルイのために、その影すらも共に纏おうとする藍くんの背中。
宛がわれた役割をまっとうするべく、前を向き続けるくんの眼差し……
私の知らない場所で、切り札として守っていてくれた弟の決意。
出逢った瞬間から私を魅了して止まないリネの、光華の微笑み。
光も影も、身内のものならすべてを背負おうとするヒロの存在感。
決して抗えない引力で、私の世界の色を変えるセイの体温……
まるですべてのピースがそれぞれの角度から手を伸ばし、繋がろうと動いているみたいだ。
“すべては運命”
私はどこから、切り開いていけるんだろう。
――手を伸ばす。掴まなければならない何かを、手繰り寄せる為に。




