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Lovers High  作者: ショコラ*
第七章 プリズム
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秘め事


「じゃあ……そろそろ、行かなくちゃ」


 このまま時間を止められたらいいけれど、そんなことはできない。解決すべき問題がある限り、この逢瀬は内密に終わらせる必要があった。


「次はいつ会えるかな……」

「嵐を通して、また連絡するよ。あいつには迷惑かけちゃうけど」


 思わず嘆いた私の髪に、セイが手を差し入れて微笑む。


「そんな顔をしないで……さらいたくなる」

「ふふっ。それもいいかも」


 決して実現し得ない冗談に、互いの口元がほころぶ。好きな人と心を通わせるのがこんなにも幸せだなんて、知らなかった。過去に付き合ってきた男の子の顔がボヤけて、2度と思い出せなくなりそうだ。


「セイ」

「なに?」

「あと1回だけ……」


 そっと肩に手を掛け乗り出し、目を閉じる。密やかに笑う声がした後、柔らかな唇が私のそれを愛撫した。唇から頬に、瞼に、額に……もう1度、唇へ戻って。名残惜しそうに離れていく気配に目を開くと、とろけそうな甘い視線を向けられる。


「……それじゃあ、ユウが先に戻って」


 離れたくない。

 締め付けられるような胸の痛みを感じるものの、今は離れる以外の選択肢がなかった。


「うん……またね」

「……」

「……」

「また、そんな顔をして」


 セイは切なそうに笑い、上手く笑い返せない私の頬をなでる。その手を絡め取り、ぎゅっと握って……最後にはゆっくりと離した。


「リネとヒロにも、よろしく伝えてね」

「わかった」


 ノロノロと立ち上がり、歩き出す。でも数歩進んだところで呼び留められ、振り返った。


「ユウ……好きだよ」


 途端に込み上げた熱情に翻弄されながらもうなずき、今度こそ振り返らなかった。急いで講義室へ向かって……ルイと合流する頃には、切り替えなければ。そう思うのに少しでも気を抜くと、頬が熱くなった。慌てて首を振り、感情に蓋をする。

 ――ルイにだけには、知られちゃいけない。

 頭の中で何度も繰り返し、夢心地を振り払う。この時私は、自分の恋心にばかり気を取られていて……この行動が誰を傷付け、どうバランスを崩し、何を壊していくのか全然想像できていなかった。もう少し慎重に考えれば、結果も変わったかもしれないのに。気付いた時には、後の祭り。


 誰かが笑う時、一方では誰かが涙するのだ。


 *


 数時間後。私はいつものように、ルイたちと共に彼らの溜まり場――正式に言えば裕福なルイの家が所有する、廃館となった建物の一室にいた。ほぼ毎日大学の講義を終えた後は、藍くんの運転でこの場所に立ち寄る。そして夜には、嵐と住むマンションまで送り届けてもらうのだ。終始ルイたちにべったりの生活に最初は抵抗を感じていたものの、時が経つにつれて日常と化していった。

 館内にいる間は課題をやったり、雑誌を見たり、ネットサーフィンをしたり……他の3人と同様に、私も好きなことをして過ごしている。常に彼らの目の届く範囲に身を置いているが、完全に自由を奪われているわけでもなかった。

 ……まあ外から見れば、十分軟禁と呼べる状況なのかもしれないけれど。


「ユウ、ちょっと席を空けるね」

「わかった」

「送る時間には、戻ってくるから」


 最新型のパソコンと長く睨み合っていたルイが、不意に立ち上がる。出で立ちこそ不良っぽいルイだけど、すでに両親の仕事の手伝いをしているらしい。根っから文系の私には理解できない数字やグラフ、英語の文字が延々と続くモニターを見つめ、なんらかのシステム運営を行っているんだとか。きっと今も、仕事の電話のために出て行ったんだろう。以前通話中のルイを見掛けたら、流暢な英語で会話していたから驚いた。彼の頭脳には、ひたすら感心するばかりだ。


「あ、俺も電話だ……面倒だな」


 私の斜め向かいでペンを走らせていた准くんも、嫌そうに顔を歪ませる。


「マジでしつこい……」

「女の子?」

「いや、留学してたときの友達。俺と同じで、こっちに戻ってきたばっかりなんだ。しょっちゅう飲みに誘ってきて、鬱陶しくって」


 肩をすくませた准くんは、静かに部屋を出ていく。残されたのはテーブルに座る私と、窓際のソファーで音楽を聴いていた藍くんだけだった。シンと静まり返る中、課題を続けていた私は気分転換にカウンターキッチンへ向かう。確か戸棚に、紅茶がしまってあったはずだ。


「……ユウ」


 コポコポとお湯を注ぎ始めた時、ヘッドフォンをつけて目を閉じていた藍くんが身を起こす。顔を上げるとこちらに歩いてきて、そばにあったテーブルに腰掛けた。


「え……なに?」


 思わず声が掠れたのは、彼の様子がおかしかったから。ふざけて“ユウチャン”と呼んでくる時とは全然違う、無機質な低いトーン。射貫くような眼差しを向けられ、緊張が走った。


「ちょっと話がある」


 有無を言わせない空気に、おとなしくキッチンを出る。その間も彼の鋭い視線は、私に突き刺さっていた。


「どうしたの……?」

「あのさ、今さらなんだけど。俺がルイを大事にしてるのは、もちろん知ってるよね」

「うん」


 それは、言うまでもないことだった。藍くんは常にルイの身辺に目を光らせ、危険を遠ざけるかのように前線に出る。仲のいい幼馴染みと表現するには違和感があるくらい、ふたりの関係は深く見えた。もちろん准くんも仲はいいけれど、冷静沈着な彼に対して藍くんは感情豊かだから、ルイへの関心がより顕著に映るのだ。


「ルイが大事にしてる以上、俺にとってもユウは大事だよ」

「……」

「でも……だからと言って、なんでも許せるわけじゃない」


 さらに険しくなった視線に、憤りの色が滲んだ。



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