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Lovers High  作者: ショコラ*
第七章 プリズム
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罪悪感


『俺はユウを……愛しているんだ』


 今までの人生でそんな言葉をくれたのは、セイひとりしかいない。


(でも、なんでだろう)


 あの時に、初めて言われた言葉のはずなのに……思い出すたび、どこか懐かしい気持ちが込み上げてくる。


『近いうちに、ユウは返してもらうよ』


 ―――頭が、ズキズキする。

 セイの声が……リネの傷ついたような瞳が、ヒロの悔しそうに歪んだ顔が、私の身を焦がすように揺さぶりをかけてきた。



 第七章『プリズム』



「おっはよー、ハニー! ご機嫌麗しゅう?」

「……」


 恒例になった、行き帰りの送り迎え。例の如く、まるでウサギか何かのように浮ついたテンションの藍くんを横目に、私は無言のまま後部座席へと乗り込んだ。


「おはよう、ユウ」

「おはよ、ルイ」


 先に乗っていた隣のルイにする挨拶も、もはや日常のひとコマ。


「どうしようジュンジュン…俺、とうとう無視されちゃったんだけどー。慰めて?」

「はいはい、よしよし。とりあえず早く車出せよ遅刻するだろ――おはよ、ユウちゃん」

「おはよう、准くん」

「……俺の扱い酷過ぎない? もはや運転手以下に成り下がってない?」


 耳を下げた子犬よろしく、唇を尖らせた藍くんは、渋々車を発進させる。せっかくの金髪・ピアスの派手な顔立ちも、こうして見るとかわいらしく見えてしまうから怖い。隣にいる准くんがクールだから、余計に際立つというか。

 クスリと笑った私の髪を撫でながら微笑むルイに、すっかり拗ねてしまった藍くんをあやす准くん。数ヶ月前まで毛嫌いしていたはずの空間に、最近はなぜか安堵を覚えるようにもなった。

 なんというか……リネやヒロ、セイたちといるときとは種類が違うけれど、この3人を見ていると、ザワリと心が揺れる瞬間がある。それはふとルイの表情が陰った瞬間だったり、慰めるようにルイに寄り沿う藍くんや准くんを見た時だったり、こうしてみんなが穏やかに笑っているときだったり―――


 この3人だって、リネたちのように結束が強いはずなのに。ルイたちには常にどこか、脆さというか儚さが漂っている気がする。そのことに私が関係するかといえば、まったく無いはずなんだけれど……酷く気掛かりで、目を離すことができなかった。だから毎日、「今日こそはリネたちに会いたい言おう」と思いながらも、実行出来ずにいるのだ。

 准くんが加わって、ルイたちの雰囲気が一転してから数ヶ月。私自身の心境変化にも、いがみ合うルイたちとリネたちにも、様子を見守るように目を光らせている嵐にも、すべてに違和感がある。不自然なほど色んなことが同時に動き始めたのに、本質が見えてこない。


(私の考え過ぎ……?)


 ううん、違う。私の被害妄想の延長線なのだとしたら、あまりにも不可解な出来事が多過ぎた。今までだって、私と仲良くしようとしてくれた人は存在したのだ。でもルイがここまで警戒するのは、今回が初めて。その理由は、なんなんだろう。彼女たちが、あまりに目立つ存在だから? 私の心が、セイに揺れ動きそうだから?

 ……そもそもあっという間にセイに想いを馳せるようになった自分自身すら、現実味がなくて疑わしい。


「はぁ……」


 小さくため息をつけばルイが不思議そうに首を傾げ、私は誤魔化すように微笑む。人は自分にとって不都合な記憶を、無意識に作り変えてしまうことがあるというけれど……もしかしたら私の脳も、勝手な動作を起こしているのかもしれない。

 ルイと私が共有する記憶は、決してそんな簡単に受け入れられるものじゃないはず。それなのにルイに、安堵を覚え始めてるなんて――有り得ない。そんなの、考えなくたってわかることだ。

 ……でも。一方ではもしこのままルイを好きになれたら……なんて思っている自分もいる。もし本物の恋人になれたら、私たちを蝕む記憶は“過去の試練”として処理出来るようになるんだろうか。そうしたら、みんなが幸せになれるんだろうか。

 ルイだって絶世の美男子な上、頭脳明晰で経済力もあるし、私を誰より大切にしてくれる。それに私たちが上手くまとまれば、“家族”も喜ぶはず。


「……」


 不意に、ズキリと胸に突き刺すような痛みを覚えた。


「ユウ……?」


 心配そうに、私の肩に手を回すルイ。色素の薄い瞳はあまりにも純粋で、透き通り過ぎていて人間味に欠ける。誰もが持つ雑念や駆け引き、欲望すらも、忘れ去ってしまっているかのようだ。


「気分悪い?」

「……大丈夫、ありがと」


 ――私は、ずるい。

 自分が辛いから……考えたくないことから逃げたいから、嘘の延長線に感情を乗せようとしている。心の奥底では、別の人を想い浮かべているくせに。

 こうやって私は周りにいる人を、私を愛してくれる人たちを、傷付けていく。


『私が、こんな風じゃなければ――』


 ……なに?


『私に、そんな価値なんてないのに――』


 脳内にダブって響く、不穏な声。これは……私の声?

 車の窓越しに見えていた広葉樹の並木道が、グラリと揺れる。違う、この景色じゃない……私が知ってる並木道は、もっと石積みの『お屋敷』に沿っていて……まだ肌寒い季節だった。あの時も私はこんな風に、周りの人を苦しませていることに胸を痛めて――


「ユウ? ……ユウ?!」

「は……っ」


 上手く呼吸が出来ない。低能な肺を震わせるように、私は浅い呼吸を繰り返した。

 混乱する。私は今、頭に……何を思い浮かべていた?


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