決意
「繰り返さなきゃいけない運命、か……」
先程嵐がぼやいた言葉を呟き、俺は目を閉じた。本当に神様がいるのなら、俺も尋ねてみたい。再びルイも共に生まれ変わり、そして同じ苦しみを共に繰り返している理由はなんなのかと。
そしてどうしてよりによって、記憶を失ったのがユウだったのかと――。
あの時俺たちが受け入れなければならなかった悲しい運命には、意味があるのだと信じていた。
いや、今も信じている。けれどもし……もし、それが今世での幸せに繋がらないのだとしたら。人はなんのために、生まれ変わるのだろう。それともこんな不安を抱えないで済む為に、繰り返しを、繰り返しだと気付かないように、人は記憶を失って生まれてくるのだろうか。
けれど俺がそれを肯定してしまったら、ユウとの約束を果たすこと――記憶を呼び覚まそうとすることが、間違っているということになってしまう。
何が正しいのかなんて、俺にはわからない。けれど迷って立ち止まることは、何よりも恐ろしいことである気がした。あの頃よりは、自由が許される世界に生を受けたのだ。
今度こそ、後悔するような生き方をしてはいけない。そう自分を奮い立たせて、俺は両手を握り締めた。
「……ヒロ」
そして皆が沈黙する中、俺はひとつの決意を口にする。
「なんだ?」
「会いに行って来ても、構わない?」
「……」
俺の言葉を聞いて、3人は一瞬目を見開いた。漠然とした発言だったけれど、誰に、なんていうのは言わなくても正確に伝わったようだ。
「ユウと、相談しなきゃいけないこともあるしね」
ユウに直接、もしくは電話やメールをすれば、どうしてもルイやその取り巻きにバレてしまう。新歓パーティーの日から、奴らは決してユウを単独で俺たちに近付けることは許さなかった。
でも……それは、いつまで続くのだろう。いったい終わりは、どこにある?
答えは、たったひとつしかない。その答えを導き出すには……
「会うしか、ないんだ」
そう、会うしかないんだ。
ルイたちが、俺たちとユウとの接触を警戒する理由……それはきっと、単なる独占欲では無い。なぜなら、彼らが最も恐れているのは――
「思い出してもらわなきゃいけないんだ。ユウ自身に……」
ユウにとっての、“その瞬間”――怒濤の記憶が、過度のストレスとなって彼女の脳に蘇る時、隣にいるのは俺でなければならない。いや、俺自身が隣にいたいと、強く願っているのだ。
「約束を、果たさないと」
あの頃君をこの腕に抱き締められたのは、きっと片手で数えられるくらいだった。毎日恋し焦がれながら、君の笑顔を求めて、ヒロの後に付いて暗い森を駆け抜けて叶えた逢瀬。月の仄かな明りに照らされた、秘密の待ち合わせ場所。白い花が光るあの草原でリネと君は、いつも幸せそうに手を振って迎えてくれた。君がリネに向けていた友愛の微笑みも、俺を見付けた時に見せてくれたはにかんだ笑顔も、すごく好きだったから……今でもはっきり思い出せる。
君に触れたくて、愛してるって伝えたくて。いつもいつも、持て余す程の想いを胸に秘めていた。けれど俺は、結局時代に翻弄された人間のひとりでしかなく……大切過ぎて、多くのことを見誤ってしまった。もっと心のままに、君を沢山抱き締めれば良かったんだ。そうしたら君以上に守りたいものなど無いと、もっと早くに気付けたかもしれないのに。
……だから。今度はちゃんと、迎えに行くよ。
もう、離れ離れは嫌なんだ。今度こそ……君がどんな結末を選ぶにしろ、俺は可能な限りのことをしてあげたい。その先で君が微笑んでくれるのなら、俺の運命は――この人生は、すべて肯定されると思うから。




