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Lovers High  作者: ショコラ*
第六章『恋奏花』
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繰り返すように



「ユウの恋人の……ね」


 小さく呟けば、3人がはっと俺の方へ向き直る。


「俺ですら、そんな自己紹介したことないのに……ルイが羨ましいよ。どんな事情があるにしろ」


 投げ遣りに呟けば、リネと嵐が困惑した顔をする。この二人は性格こそ全然違うものの、どこかしら思考回路が似ているのかもしれない。


「セイ」


 そして、案の定ヒロからの雷が……


「気を落とすな。俺たちが付いてるだろ」


 ……落ちなかった。予想に反して肩に手を置かれ、思わず顔を上げる。


「……珍し」

「流石に、俺も鬼じゃねぇよ。キレなかっただけ、お前の方が俺より大人だ」


 ……マジで、やめてよ。泣きたくなるじゃん、カッコ悪い。


「相変わらず、アイツらは気に入らない……」


 ルイたちが去った方向を見たまま、すっと目を細めてヒロが呟く。ルイとヒロは、かつて対等の立場でもあり、敵でもあった。一方俺はあの頃、ルイよりも格下で。どんなに悔しかろうと、ユウが奪われていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。そんな俺の代わりに、ヒロはあの頃もルイに対して顔をしかめていたっけ。

 でも……今は、違うんだ。


“次はもっと、貴方に近い場所に生を受けて……”


 あの時、俺よりも……俺たちの誰よりも立場が弱かったユウは、約束を守ってすぐ近くに現れてくれた。だから俺も、応えなきゃいけないんだ。

 あのとき、君と交わした約束を守るために――




「結局、神様って存在してるんですかね……」


 いつの間にか、衝撃の新歓パーティーの日から数日が経っていた。学年が変わっても、相変わらず俺たちはガラス越しに陽の注ぐ3号館のカフェに身を寄せている。変化したのは、ユウが微笑んでいた席に、その面影を共有している嵐が座っていることぐらいだ。


「なんだよ、嵐」

「いや、いるならちょっと説教したいなって。生まれ変わっても繰り返さなきゃいけない運命って、無意味だと思いません? 無駄が多い」

「……信仰のある人にぶっ飛ばされるぞ、お前」


 あまりにも不謹慎な発言に、思わず眺めていた雑誌から視線を上げた。


「嵐って急に怒り出すよね。うふふ、私みたい!」

「やめてくれ、リネ」


 朗らかに笑うリネに、ヒロもうんざりしたように課題を書く手を止める。前に感じたことは、気のせいじゃなかったみたいだ。嵐は捻くれ者でリネは真っ直ぐな人間だけれど、突拍子も無い発想とかが、どことなく類似していた。


「昨日、たまたま嫌な夢を見たんですけど……」


 嵐の表情が、すっと陰りを見せる。

 “嫌な夢”

 これは俺たち全員が、それぞれに持つ闇に塗れた記憶――言ってしまえば、誰かしらとの“別れ”の場面の記憶を示唆するものだと言って良い。俺たちは出逢い、心を通わせて……最後には引き離された。その時を迎えるにはあまりにも若く、純粋だったあの頃の俺たちにとって、いまだにそれは苦い思いを伴わせる。例え今新しい身体を得て、新しい人生を重ねている最中なのだとしても。


「俺、なんでルイにココ焼かれたか、わかっちゃったんですよね」


 そう言いながら首を少し傾げ、鎖骨下にある火傷の跡を示す。ユウの面影のある顔で、そんな色っぽい仕草を見せないで欲しい……

 嵐は大体中性的な顔立ちであり、元々無駄に色気が有り過ぎるのだ。


「理由?」


 俺はほとんど度の入っていない、オシャレ目的のメガネを外してテーブルに置くと、嵐に向き直った。


「ルイ、これ付けた後に『ユウの制裁は、これで清算する』的なこと言ってたんですよ」


 そう言いながら嵐は溜め息を吐き、テーブルに肘をつく。話にユウの名前が上がって、自ずとリネとヒロも口を噤んで耳を傾けていた。


「あの時は、ただの嫌がらせの延長線かと思ってたんですけど……」


 そう呟いて、嵐は傷痕に指を這わせた。


「この場所は……」


 ――ドクン。身体中に、ひと際大きく鼓動が脈打つ。一瞬にして、忌々しい記憶が脳裏を霞めて、思わず嵐から視線を外した。同時にリネは真っ白ですらりとした手を口に当てて眉を顰め、ヒロも顔をしかめる。多分、皆同じ情景を思い浮かべた。

 誰よりも早く先立った、ユウの最期の姿を。


「……そういえば、その場所をられたんだったね。辛い思い出だから、忘れてた」


 哀れっぽく呟いたリネが、切な気に微笑む。今こうして思い出すだけでも、こんなにも辛いのだ。その傷痕を、今世ともリンクさせるかのように新たに刻んだルイは、いったい何を考えていたのか。とてもじゃないけれど、正気の沙汰とは思えない。ルイはウを、どう考えているのだろう……

 あの頃もルイは恋慕の情があまりにも強く、道を外れてしまった。彼の歪な形となった愛を埋める方法が、俺たちの繋がりを絶つことに繋がったわけだけれど……

 大概アイツも、悲しい人生だったのだろう。だからといって、決して許すことは出来ないが。


 時代、社会、立場。どうにもならない理由で阻まれた俺と、どうにもならない理由でしか結ばれなかったルイ。心だけは今も尚互いに引き合い続けている俺と、今世も血縁関係という形でしか繋がりを得られなかったルイ。

 どちらが、ユウに近いのか。 どちらが、より心を焦がしているのか……


 許すことは、出来ない。

 でも同じ者に心を奪われた身としては、同情せずにはいられないのも事実だった。


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