白薔薇の君
不敵な笑みを浮かべた、ピアスだらけの金髪美男子が先頭をきり……その数歩後に、冷めた目をした赤髪の男が続く。もちろん彼も息を飲むような美系で、派手な容姿とは裏腹に、知性も滲ませている。周りに噛み付くような雰囲気を持つ金髪と、対になっているのだろう。
そして――その後に続くのはアッシュブラウンの髪をした、眼光の鋭い男。彼こそが、ルイに違いない。孤高の狼のように冷やかで絶対的な空気を放っているのが、これだけ距離が離れた場所からでもビリビリと伝わってくる。3人の男は一様に黒いスーツを纏い、周りを拒絶するかのような冷たい空気を放っていた。俺たちが歓声で迎えられたのとは対照的に、数百人が一気に静まり返っていくような圧倒感……そんな“黒”の彼らの中に、一輪の花が咲いていた。
――憂いを帯びた、“白薔薇”が。
久しぶりに見たユウは、まるで別人のように見えた。 目の眩む様な深いブルーのドレスは白い肌を透き通る様に見せ、ミルクティ色の髪はフォーマルらしいアップアレンジになっている。頭上から流れるように巻かれた髪は、その項をより色っぽく見せていた。伏し目がちな表情は儚げで、言うなれば“孤高の姫”とでもいったところか。
あまりにも……リネと対照的過ぎる。俺たちの深紅の薔薇に対する「自分たちの白薔薇」といわんばかりの演出に、無意識のうちに強く拳を握り締めた。
「ねぇ……あの子、前に利根さんたちといた子?」
「うっそ! あんな美人だったっけ?」
「ていうか、あっちに付いたのかな?」
「わぁ、すごいグループだね! 対照的」
ユウの正体に気付き始めた生徒たちが、俺たちのグループとルイたちのグループを見比べ、ひそひそと話し始める。それはそうだろう。現実世界で、こうも明確なゴシップを目に出来る機会は少ない。傍から見れば、俺たちはユウを“奪られた”もしくは“裏切られた”ように見えるのだろうから。
「……行くぞ」
ヒロは低い声でそう言うと、迷うことなくルイたちの方へと歩み始めた。それに無言のまま俺、リネ、嵐が続く。周囲は、息をのんで見守っていた。
20m、10m、5m……どんどん距離が縮まっていき、ようやくルイ率いる奴らが、完全に視界に俺たちを捉えた。ユウもこちらに気付き、驚いたように目を見開く。
「まず、俺から」
角が立たないよう気遣ったのか、小声でそう囁いた嵐が最初に前へ出た。
「ユウ、遅かったな。また派手な格好させられて……もろルイの趣味じゃん」
「嵐……」
嵐はルイを睨みながら、ユウに話し掛ける。一方ルイの方はその視線を気にすることもなく、微笑みさえ浮かべて口を開いた。
「嵐、この前は悪かったな」
「あぁ? ゴメンで済むかよ、跡付けやがって」
「そう言うと思ったよ。でも、ユウが悲しむからね……謝らせてもらう」
ルイの声を間近で聞いた瞬間、身体に嫌悪感が走る。強烈な記憶が、鮮明によみがえるようだ。
「つーかルイ、ユウ連れ回すんじゃねーよ」
「それは、弟クンが口出す事じゃないよねー?」
ルイに詰め寄ろうとした嵐に、金髪男が笑いながらも、抜け目のない視線で牽制をした。
「佐野……」
「あはは、久しぶり。火傷、お大事にねー」
頭が、ズキンと痛む。この声も……どこかで、聞いたことがあるような。
「ルイ、ちゃんとして」
ユウが懇願するように小さな声を出せば、ルイはその冷たい視線を別人の様に和らげ、ユウを愛おしげに見つめた。
……吐き気がする。
「初めまして、高谷尋人さん、西崎利根さん、それから……長篠誠さん」
コイツ……俺の時だけ、たっぷり間を置きやがった。ユウが自分の隣にいるからか、余裕な態度で俺を見下してくる相手に、苛立ちが募る。
「嵐から聞いてるかもしれませんが。ユウの恋人の、桐谷留衣です」
「ちょっと、貴方ね……!」
「リネ」
その紹介内容に喰って掛かろうとしたリネを、ヒロが制した。そんなリネを見て、冷やかにクスリと笑ったルイは、他2人の男に目配せする。
「どーもー。佐野藍でーす、お見知りおきを」
金髪の方が人を小馬鹿にしたような態度で、俺たちに会釈した。まったくもって、上辺だけの社交辞令だ。
「……木下准だ。コイツらに用があるときは、まず俺に言ってくれ」
赤髪の男は、さも興味無さそうに……でも、佐野と同様牽制を含んだ目で、俺たちを見てくる。コイツも、何だか見覚えがある気が――
「君たちのことは、ユウから聞いたよ。有名なんだってね? 羨ましいな」
何が可笑しいのか、ルイが挑発的にそんなことを言ってきた。
「近いうちに、ユウは返してもらうよ」
ルイの軽口には取り合わず、俺は短くそう言った。瞬間、ユウは目を見開いて俺を見つめてくる。そんな彼女に、俺は微笑んでみせた。
「ユウはモテて困るね」
「……」
ルイにそう言われ、肩を抱き寄せられたユウは、うなだれるように俯く。身体の中に、殺意に近い憎悪が渦巻いた。
「さ、行こうか」
ルイに促され、ユウは歩み出す。
「ユウ」
けれど声を掛ければ、ユウはちゃんと振り返ってくれた。
「またね」
そう言えば、返される微笑み。ルイもいる手前、頷いてはくれなかったけれど。
「……うざ! 何あれうざっ!!」
「リネさん、言葉遣いが乱れてますよ」
「ていうか嵐! あんな風になるまで放置してんじゃないわよ!」
「リネ、嵐に当たるな」
いまだユウの後ろ姿を見つめたままの俺を余所に、ヒロと嵐はリネを宥めている。手の届く場所にいるのに、するりと攫われていってしまう……こんな事までもが過去の繰り返しのようで、たまらずにため息をついた。




