新歓パーティー
春休みは、淡々と過ぎていった。リネとヒロは、再会するまでの約19年間を埋めるように、ずっとそばで過ごすのが常で。俺はそこに参加しつつも、ユウのことばかりを鬱々と考えてしまうのを懸念して、短期のバイトをしてみたり、嵐と昔以上の関係を築く為に、一緒に遊びに行ったりした。
定期的に、電話越しにユウの声にも癒された。穏やかな日々と言えば、そうだったのかもしれない。良くも悪くも、ユウが見えない場所で変化していることを知らなかったのだから。
ただ嵐が表情を曇らせることが多くなり、薄々は良くない方向に何かが動いていることには勘付いていた。記憶が無いとはいえ……段々と自然にルイの方へと身を寄せるようになっていたユウに、言い知れぬ不安を感じている。
もっと、会いたい。俺を見て、何も思い出せないにしろ……何かを、感じ取って欲しかった。
余裕のない自分に、溜め息を吐く回数が前よりも増えていく。そんな日々を、2ヶ月ほど繰り返し……とうとう、ユウと再会する日がやってきた。
「セイ」
ふと顔を上げると、燃えるような赤いドレスを身に纏ったリネが、俺の頬に手を伸ばしてきていた。
「リネ……、すごい綺麗だね」
いつもはストーレートなダークブラウンの髪が、今日は鎖骨から下にかけてゆるいウェーブを描いている。真っ赤な果実のように目を魅くドレスは、色が白く、凛とした美しさを湛えたリネにぴったりとハマっていた。「絶世の美女」としか形容のしようが無いくらい、本当に綺麗だ。例えるなら、愛と情熱を秘めた赤い薔薇。さすが、ヒロが見立てただけある。ヒロからリネへの愛情が、ありありと表れていた。
「ふふ、ありがとう。それよりセイ、大丈夫? 緊張してるの?」
リネは少し笑ってから、俺を気遣うように尋ねてくる。
「少しね……なんだかんだで、実際会うのは2ヶ月ぶりくらいだし」
――今日は、新歓パーティーの日だ。ようやく4月になって数日、大学2年生になった俺たちは、久しぶりにそろって構内へと入っていった。深紅のドレスを着たリネの隣には、シックで高級だとひと目でわかる黒いスーツを着たヒロ。セミフォーマルということで、いつよりはセクシーにセットされた黒髪のヒロは、文句無しにカッコイイ。対する俺は、細身のグレーのスーツで、ヒロとは異色の演出をした。元々の顔立ちにしても茶髪にしても、俺はトーンが明るく華やかな印象のモノの方が似合う。
「セイも、今日は超カッコイイよ? きっとユウも見惚れるって!」
「そうですよ、セイさんも凄い素敵です」
俺たち3人に参加して歩く嵐は、ライトグレーにさり気なくストライプの入ったスーツ。ふわふわとした印象を受ける、ミルクティ色の髪もよく映えていた。俺たちのそばでも全く物怖じしない、むしろ挑戦的なくらいの嵐は、この春からの注目株になるだろう。
「……リネ、行くぞ」
「はーい!」
ヒロのひと声で、俺たちは会場へと向かう。4人で歩けば、周り中から歓声が上がった。
「ちょ、見て見て見て! なにあの人たち?!」
「凄い! 芸能人?」
「いやーん、ここ入学して良かったぁ!」
「私黒髪の人ど真ん中! でも、隣彼女さん……?」
「私はピアスしてる人がいいなあ。もはや2次元から出てきた人でしょ!」
「私あの童顔の子やばいっ」
恐らく新入生であろう女の子たちの、無数の叫びが聞こえてくるかと思えば。
「きゃー! 目の保養……!」
「やっぱ姫美人ー! 私ドレスの色かぶんなくて良かったぁ」
「王子と王も健在だね! つかあれ誰?!」
「うわ、新入りくんも超イケメンじゃん! カワイイ~!」
「あれ? もうひとりの平凡な女の子は?」
在学生の、嵐やユウを噂する声も聞こえてくる。本当は、ユウも一緒に来たかったけど……
「セイさん、もうすぐユウも着くそうです」
「わかった」
長い指で携帯を弄んでいた嵐が、メールを見てそう告げてきた。
「ようやく顔見せか……いいご身分だな」
「ヒロ、怖いから」
俺が苦笑しながらそう突っ込めば、ヒロは顔をしかめながらリネの綺麗に巻かれた髪に触れる。
「一応言うまでも無いですけど……相当目立つ登場ですよ、きっと」
「上等じゃない、受けて立つ」
「リネ、それ俺の台詞だからね」
今度は、嵐に反応したリネを宥めた。周りにいる数百人が、少し距離を置いてこっちを見ている中、相変わらずの会話をする俺たち。そんな中、時間は着々と進んでいて――
突如、会場内のざわめきが消え始めた。その不自然な静寂は、入り口の方から発生している。
「……っ」
ひと言で言えば、「やられた」。そう思わずにはいられなかった。
現れたのは言うまでも無くユウと、その取り巻き――ルイたちだ。隣で、唇を噛んでいるリネ。俺もの顔もきっと、歪んでいるに違いない。目が、逸らせなかった。




