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Lovers High  作者: ショコラ*
第五章 黒の泡沫
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違和感


「……?」


 驚く私の目の前で、男2人も目を見開く。


「今すぐ消えろ」


 耳に届いてきた、無機質で低い声。

 はっと顔を上げると、ルイが、鋭い眼差しで男たちをとらえている。

 相手を押し潰してしまいそうな程の気迫に、その場の空気は一気に冷えた。


「な……つーか、アンタが待たせるのが悪いんだろ?!」

「そ、そうだよ! そっちこそ邪魔すんじゃねぇ」


 彼らは微妙に引きつつも、軽いなりにプライドがあるのだろう……ルイに、食ってかかる。


「へぇ、死にたいってこと?」

「は……はァ? バカにすんのもいい加減に――」


 不気味なほど穏やかに問い掛けたルイに、男のうちの1人が掴みかかった瞬間、聞いたことの無いような鈍い音が聞こえてきた。


「――ルイに触んじゃねぇよ、ただの虫ケラの分際で」


 その、背筋の凍るような低い声が聞こえた時には、ルイに掴み掛った男は地面に転がっていた。


「っ!」


 私は驚いて、彼の……藍くんの横顔を見つめる。

 そこに普段のおちゃらけた雰囲気は、微塵もなかった。


「な……何すん……」

「やめろよ。おトモダチの隣でお昼寝したいんなら、止めないけどね?」


 残ったもう1人にそう言い放ったのは、准くんだ。

 口調は一番柔らかいものの、やっぱり相手を怯えさせるだけの迫力を備えている低い声。

 男はたまらず、伸びているもう1人を引きずるようにして、退散していった。

 ルイの物騒な言葉や、別世界の私から見ても桁外れに強いとわかる藍くん、その2人を見守る准くん……外で彼らを見て、改めて気付いた。

 この人たちは、そこら辺の不良と同列で考えてはいけない。

 とにかく、醸し出しているオーラが半端じゃないのだ。

 好意とか、尊敬とはまた種類が違う感情ではあるけれど……そこに流れる緊迫した空気や、共有している世界は、目を見張るものがある。

 危うさや儚さと紙一重な、美しく黒い世界に……。


「ユウ?」

「……あ」


 ルイに呼び掛けられ、はっと我に返る。


「大丈夫か?」

「う、うん……ありがと」

「てゆーかさぁ、駅で絡まれるとかどんだけなの! ユウチャン、もっと威嚇しなきゃダメよ?!」


 藍くんにまで呆れたように振り返られて、私は少し顔をしかめた。


「俺たち基準でモノを言うなよ、藍。あくまでユウちゃんは、普通の女の子なんだからさ」

「……チッ。そこだけは変わらねぇんだな」

「藍、余計な事を言うな」


 准くんに何か言い返した藍くんに、ルイが鋭い言葉を掛ける。

 「そこだけは変わらない」って、どういう意味なのだろう。

 藍くんとは、正直それほど付き合いは長くないし、それに伴い互いのことも深くは知らないはず。

 それなのに「変わらない」という表現は、些か不自然なように思えた。

 誰かから、私の過去の経験談でも聞いたのだろうか……?

 私は戸惑って首を傾げたものの、藍くんははっとして気まずそうにスタスタと先を歩いて行ってしまったし、准くんやルイも、何事も無かったかのように歩き出している。

 何となく、突っ込んで聞いてはいけないような雰囲気が漂っていた。


「……行こう、ユウ」


 ルイにそっと背中を押され、とりあえずは質問することを諦める。

 これからも、多分ずっと一緒にいることになるのだ。

 いずれ、わかる時が来るに違いない。


「さっきまで、ユウに何をご馳走するか話し合ってたんだよ」


 ルイは紳士的に後部座席を開けて、私を中へと促しながらそう言った。

 自然な流れで、黒光りする広々とした車の運転席には藍くん、助手席には准くんが座り、シートベルトを締めている。

 ルイは私の隣に乗り込むと、150パーセントの色気が溢れ出ている微笑みで、引き続き私に問い掛けてきた。


「藍はお勧めのイタリアンだって言い張ってるし、准は意表を突いて日本料亭って言ってるんだけど……」


 流れるようなルイの言葉と共に、軽やかに車も発進する。

 今日のBGMは、いつだったか掛かっていたトランス系ではなく、穏やかな洋楽だった。

 最近気が付いたんだけど、ルイが同乗しているときは、大抵こういう系統の音楽が流れている。

 歌詞は英語ではないみたいで、どういう内容の曲かはわからないけれど……多分、フランスとかイタリアとか、そんな感じの発音の言葉。

 どことなく心安らぐレトロなサウンドが妙に落ち着くから、実は私も結構好きなジャンルだった。


「でも、大切なユウとせっかく一緒にランチに行くんだしね。俺としてはこのままサロンに行って着替えて、フレンチなんかも――」


 ……ちょっと待って。

 考え事してる間に、ルイが血迷ったことを言い始めている。


「ルイってば……。こんな何でも無い日のただのランチに、一体いくらかけるつもりなの?」

「ユウを楽しませる為なら、俺に可能な限りはいくらでも。言っただろ? ユウは俺の大切な……」

「わかった、わかったから! 普通でいいんだってば! 藍くん、ごくごく普通なイタリアンでお願いします」

「あははっ。りょうかーい」


 藍くんは、慌てて意志表示をした私をチラリと振り返って笑ってから、くるくるとハンドルを回した。


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