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Lovers High  作者: ショコラ*
第五章 黒の泡沫
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逢瀬電話


「ユウー、またルイんとこ行くワケ?」


 不機嫌そうな声が聞こえて、私はお茶を注いでいた手を止めて振り返った。


「嵐……」

「ここんとこ毎日じゃん。まさか寝返ったんじゃねぇだろうな」

「寝返るってなに?」


 笑いながらコップを差し出せば、嵐は視線をこちらに寄越したまま受け取る。


「みんな、早くユウに会いたいって言ってるよ」

「……うん」


 嵐が「みんな」と言っているのは、リネやヒロや……セイのことで。

 怒濤の試験とレポートの日々を終えた私は、春休みに入った今、ほとんどの日々をルイたちと共に過ごしている。

 最後にみんなに会ったのは、いつだろう……。

 キャンパスを出る際、ちらっとリネの後ろ姿を見たのを最後に、連絡すらとっていない。

 ……というのも、一応はこうして、嵐を通じて会話をしていることすら無い事になっているからだ。

 ルイに強制的に携帯を変えられてから、みんなの連絡先は手元に無い。

 その代わりに、今は一緒に住んでいる嵐の手元に、その連絡先が納められているのだけれど。

 でも、これはルイたちには内緒。

 嵐がバイト先でリネたちと接触したことは、まだバレていないから。

 と、不意に軽快な洋楽の着メロが鳴って、嵐はパチンと携帯を開いた。


「はい、もしもし……あぁ、はい。元気です……あはは、そんなことないですよ?」


 嵐は余所行きの、感じの良い声で話をする。

 何の気なしにその様子を見守っていると、嵐が私の顔を見てニヤリと笑った。


「はい、はい……丁度いますよ。はい、今代わります」

「……え?」


 不意に渡された携帯に驚きつつ、「誰?」と尋ねるものの、嵐は「出てみ」と笑うばかりで教えてくれない。

 戸惑いながら携帯を耳元に当ててみれば、聞こえてきた声は――


「もしも……」

『ユウーーーッ!』

「う、わっ」

『うわっじゃないでしょ?! どういうつもり? 嵐越しなら連絡とれるんでしょ? 何で電話くれないの?! 私ずっと待ってたんだよ!』

「りっ……リネ?」

『何よ、私のこと忘れてたわけ?! もう信じられない!』

「ちが、違うよ。そんなこと――」

『会えないだけでもムカつくのに、どうして……って、ちょっと……!』


 そこでノイズが入り、しばらくモメる声が聞こえた後、別の声が聞こえてきた。


『……リネが悪いな。元気かユウ?』

「ヒロ……」

『許してやってくれ。これでも、かなり我慢してたんだ』

「むしろ……私の方こそ、ごめんなさい。あれから何の説明もしてなくて」

『電話じゃ話し難かったんだろ? 何となく嵐から聞いてるから、気にするな』

「ありがとう。嵐まで、良くしてもらってるみたいで……」

『お前の弟だってこと抜きにしても、嵐は特別だから気にするな』

「うん……」


 ヒロの言葉に、ほわんと胸が温かくなった。

 リネたちは私だけじゃなくて、嵐のことまで大切にしてくれているみたいで。

 その後も時々、嵐のバイト先のカフェに顔を出しているらしい。

 嵐が新学期から大学に来ることも、とても楽しみにしてくれている。

 何だか姉弟ぐるみで仲良くしてもらえて、すごく嬉しかった。


「じゃあ、ユウ……セイに変わるぞ」

「え? う、うん……」


 ちゃんと返事をする前に、ガサガサとノイズが入り、私の心臓は急激に高鳴り始める。

 ……久しぶりに、セイの声が聞けるんだ。


『――もしもし、ユウ?』

「……セイ」

『元気にしてる?』

「うん、セイは?」

『あぁ……元気は、元気……かな?』

「そっか。良かった……」

『でも、ユウに会いたいよ』

「……」

『わかってる、色々事情があるんだろ? 困らせるようなことは、しないから』

「ごめんね……」

『リネみたいに、怒ったりもしないしね。安心してよ』


 静かに笑う声が、耳に心地良い。

 優しい響きが、胸の中を温かく満たしていく――


「嵐が、すごくお世話になってるって聞いた」

『あぁ。今や嵐は、ユウだけの弟じゃなくなったからな』

「えぇ、そうなの?」


 今度は、私が笑う。


『ユウによく似て、俺たちの“癒し系”第2号と化してるよ。早く、2人が揃ってるところを見たいな』

「うん……私も、みんなと嵐が揃ってるところを見たい」

『新学期になったら、会えそう?』

「それが……」

『……ダメそうなんだ?』


 声のトーンが下がった私にすぐに反応し、言葉を返してくるセイ。


『はぁ……。まぁいいや、そのうち取り返すし』

「セイ……」

『会話くらいは、出来るんだろ?』

「うん」

『新学期始まったら、空気読まずに絡みに行くよ。楽しみにしててね』


 若干黒い微笑みが見えてきそうな声で、セイが言い切る。

 「空気読まずに」っていう言葉が何ともセイらしくて、私は笑ってしまった。


『……やっぱりユウの笑い声は、一番癒されるな』

「また、そんなこと言って」

『本当だよ。既に顔が見たくて仕方ないよ。大学の春休みって、何でこんなに長いんだか……』

「休みが長くて嘆くなんて、セイくらいだよ」

『ユウとずっと一緒に過ごせるなら、何ヶ月あっても足りないんだけどね』


 ……甘い。

 セイの言葉は、いつも糖度高めだけれど……今日は、いつにも増して甘い。

 電話越しにも関わらず、私は頬が熱くなってきた。


『じゃあ、名残惜しいけど……。嵐の携帯だし、そろそろ切るね』

「うん……」

『ユウ』

「なに?」

『何かあったら、いつでもちゃんと頼ってくるんだよ』

「……ありがとう」

『嵐に、こまめに現状報告してね』

「うん、約束する」

『じゃあ……』

「ありがとう。またね、セイ……」

『また電話する』

「リネにも謝っておいてくれる?」

『わかった、伝えておくよ』


 それから通話が切れた電子音が聞こえてきても、私はしばらく同じ姿勢のまま、マグカップを見つめていた。

 ……愛しい。

 声を聞くだけで、こんなにも心が乱される。

 何回かのランチと、たった一度のデートしかしたことないのに……どうしてこんなに、セイは特別に感じるのだろう。


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