彼の闇
言われた内容はある程度衝撃的なものではあったけれど、それ以上に、何故だかルイの様子に引っ掛かるものがあった。
アイツら、と言った時のルイの表情には、何か含みがある気がしたのだ。
まるで、リネたちと面識があるような……。
単に私が、ナーバスになっているだけなのかもしれないけれど。
困惑したまま首を傾げると、ルイは切な気にふっと笑った。
「……好きだよ、ユウ。もう一度だけ、チャンスが欲しい」
そして突如飛び出した告白に、思わず目を見開く。
まさかここでそんな展開になるとは思っていなかったから、何と答えたら良いのか見当もつかなかった。
「えっ、ちょっと俺ら邪魔じゃね?」
「あー……ルイは突発的だからねぇ」
私と同様に驚いたらしい藍くんと准くんも、ひそひそと声を潜めている。
「そんなこと……急に、言われても……」
「過去に縛られないで、ユウ」
「え……?」
「ユウがアイツら……高谷尋人や、長篠誠に魅かれてるのは――」
「ルイ」
言葉を濁したルイに、准くんが鋭く声を発した。
珍しく低いトーンで会話を遮った潤くんに驚き、私は思わずその顔を見つめてしまう。
一方ルイは、何を考えているのかわからない表情で俯いてしまった。
「……わかってる。何でもない、ゴメンねユウ」
そして、二度と話の続きを口にすることはなく……疑問符を浮かべる私には、苦笑するだけだった。
私の中には、何とも消化不良なモヤモヤが残る。
最近、私の周りには秘密主義者が多過ぎると思う。
どうして、いつも私だけ……そんな不満が胸に渦巻いた。
「とにかく、虐めてばかりだけど、ユウのことを愛してるんだ。だから、俺をあまり怒らせないで……大切にしたいんだよ」
そう呟きながら額にキスしてきたルイが、あまりに苦しそうな表情で……その声が、あまりにも甘くて。
私は戸惑う一方だ。
准くんが帰って来てくれて、少しは状況が良くなるかもって思ったけれど……実は逆なのかもしれない。
冷酷で、利己的な顔しか見せないルイを疎ましく思うのは簡単だけれど、こんな風にストレートな愛情表現をされたり、悲しそうな表情を見せられたりしてしまうと、縛られている不満をどこに向けたら良いのかわからなくなってしまう。
「俺には、ユウが必要なんだ」
「……」
頭の中を過ったのは、セイの微笑み。
今の私の恋愛感情は、確かに大きくセイに傾いている。
でも……時に恨めしく思うことがあっても、ルイのことを完全に切り捨てることは出来なかった。
それは、少しでも血を分けている従兄であることとか……元カレであることとか。
原因はいくつもあるけれど、何より。
忘れもしない、4年前の“あの事件”。
あれを思うと、この手を振り払うことは決して出来なかった。
たとえこの先、私がずっと心の底ではセイを想っていたとしても……ルイをこの世から“失う”恐怖には、勝てないのだ。
美しく頭の良いルイは、一見欲しいものはすべて手にするだけの力を持っているように見える。
でも、彼はいつも、たった1つのことを恐れていた。
――ただ、私を失うことだけを。
『俺といることで、息が詰まるのなら……。アイツなら、付き合ってみても良いよ。お互い、本気にならないだろうしね』
先日まで付き合っていた孝明も、ルイの不器用な配慮の1つだった。
傍目から見ても、女と見れば手を出さずにはいられない孝明と、恋人には一途でありたい私が上手くいくはずは無かった。
それでも紹介されるままに付き合ってみたのは、ルイの監視の目を少しでも避けるためであり、同時に常に目を光らせていたルイ自身にも休息が必要だと思ったから。
何かに強く執着するということは、執着されるのと同じくらいに、苦しく辛いことでもある。
ルイの精神を壊さない為にも、私は時々彼の提案に乗る必要があったのだ。
「……リネたちは、すごく良い友達なの」
友達、という言葉を強調しながら、私は呟いた。
「セイも、ヒロも……。だから、会うななんて言わないで」
「それは出来ないよ」
一生懸命訴えた私に対し、ルイがはっきりと拒絶を示す。
これ程までにリネたちを警戒する理由が思い当たらなくて、私は困惑した。
「俺の目の前で、少し言葉を交わすくらいなら構わない。でも、見ていないところであのグループに近付くのはダメだ」
「……」
「ドンマイ、ユウチャン。ルイってば、超束縛男だからねぇ」
けらけらと笑う藍くんを一睨みすると、准くんが困ったように笑った。
「まぁ……全く関わるな、なんて言わないけどさ。しばらくは、ルイのそばにいてやってくれないかな? 俺からも、お願い」
准くんまで、紅茶のおかわりを注ぎながら懇願してくる。
――ズルイ。彼は私が下手に出られると弱いことを、熟知しているのに違いない。
「……ベッタリしなきゃいいんだね? でも、挨拶くらいはするから。絶対に」
「わかったよ」
少し不機嫌そうながら、ルイは譲歩して頷いた。
交渉成立。
……とはいえ、最近リネたちのテーブルに同席するのが何よりも至福の時だった私にとって、これは過酷な命令だった。
これからレポートと試験の期間になるから、あまりリネたちとは会えずに春休みに突入する。
そして、そのままルイたちと新学期を迎えることになって――そう考えると本当に、リネたちと過ごせる時間はもう少ししかない。
胸がぎゅうっと痛み、私は俯いた。
そんな私の心情を察してか、その後はルイも准くんたちも適当な雑談をしていて、私は熱い紅茶をひたすら飲み続ける。
……これから、どうなるのだろう。
近い未来さえ想像がつかなくて、気分は重くなっていく一方だった。




