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Lovers High  作者: ショコラ*
第五章 黒の泡沫
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黒の始動


「……昨日は悪かったよ、ユウ。どうかしてた」

「え……」


 不意に呟いたルイに、私は息をのむ。


「昨日あの後、准に殴られて目が覚めたよ」

「……准くんに?」


 驚いて声を上げれば、ルイは気まずそうに苦笑した。

 木下准キノシタジュン――佐野くんと対になっている、ルイのもう1人の側近的存在。

 ここ2年は海外に留学していたけれど、日本滞在時は常にルイの側にいて、ルイを宥めたり抑えたりする役回りだった。

 そしてルイが度の過ぎる行為に及んだ際、私のことを庇ってくれるのもいつも彼だったのだ。

 通りでルイが、久し振りにとても落ち着いていると思った。


「まったく、聞いて驚いたよ……。藍もいながら、本当に怖かったよね? ルイを許してやって、ユウちゃん」

「はぁ? 俺ぇー?! んだよ、いつも准ばっか……」


 アイ、と何とも可愛らしい名で呼ばれたのは、佐野くんだ。


「まったく、お前は役に立たない……」と言われて、ムスっと膨れている。


「最近色々あって……気が焦ってたんだ。許して欲しい」

「……ちゃんと嵐に、直接謝ってね」


 素直に謝罪されて拍子抜けしつつも、簡単に許すわけにもいかない。

 痣はともかく、火傷の痕はもしかしたら、消えないかもしれないし……。


「あぁ。大学に入ったら、直接謝りに行くよ。ユウも一緒にいてくれるだろう?」

「うん、大学でなら直接……って、え?!」


 なに、今、大学って言った?!

 ぎょっとして、私は思わずティーカップを乱暴にソーサーへと下ろす。


「だ、大学でって何? まさか……」

「うん。そのまさかだよ」


 考え得る最悪の出来事に、思わず絶句する。

 だってもし万が一、今私が考えたこと――ルイが同じ大学の生徒になる、なんてことが起きてしまったら、それはもう、文字通り監視の中で生きるようなものだ。

 それにリネやヒロ……それからセイと会うことも、きっと難しくなる。

 ……いや、でもそれは突飛な考えかもしれない。

 単純に、遊びにくるつもりなだけかも?

 考え込んだ私の顔を見て、今度は准くんが口を開いた。


「大丈夫だよ、何も事件なんて起こさないから。俺と藍もいるんだし」

「……え?!」


 何の安心材料にもならない情報に、再び言葉を失う私。

 いや、だって……こんな悪目立ちする3人に囲まれて歩いたら、絶対に悪い意味で浮いてしまう。

 というか、どうしてそんな話になってしまったのだろう。

 冷や汗をかく私を横目に、ニヤリと笑う佐野くんが腹立たしかった。


「あれ、もしかして何も話してなかったの?」

「あぁ。今日話そうと思ってたんだ」


 完全にパニックを起こしている私を見て、眉を寄せる准くんと、それに答えるルイ。


「何の話なの……?」

「実は元々俺が、2年だけ留学して、今年からはユウちゃんと同じ大学に編入する予定だったんだ」

「准くんが?」

「うん。それで……」


 准くんが、ちらりと目配せをすると、ルイがクスリと笑った。


「せっかくだから、俺と藍も一緒に編入しようと思って」

「は?!」

「ルイと准が行くっつーから、俺も編入することにしたんだよ。優しくしてね、ユウチャン」


 いや、准くんの編入までは、特に滞りなく理解出来たよ?

 でも……ルイの言った「せっかくだから」辺りから、全く意味がわからなかった。

 佐野くんの「俺も」なんて、微塵も理解出来ない。


「だ……だって、大学って……」


 入学金とか、試験とか……手続きとか……!

 そんな、簡単に出来ることじゃないでしょ?

 こんなフザけた話が、現実にあるわけ――


「俺の家は、金持ちだから」


 ――ないことも無かったらしい。

 サラリと言い切ったルイは、涼しげに微笑む。


「俺は、親のコネで無理矢理入れられた今の大学、ほとんど出席してなかったしなぁ。『したい勉強が出来た』っつったら、喜んで編入手続きしてくれたんだよねぇ」

「藍の両親も、学歴主義のお偉いさんだから……」


 佐野くんの説明に、補足を入れる准くん。

 真っ青になる私。


「じゃ、じゃあ……本当に……」

「藤原姉弟とキャンパスライフ、楽しみだなぁ」


 二コリと笑う佐野くんの言葉に、私はトドメを刺された。


「もっと早くこうしておけば良かったよ。ユウに変な虫がつく前に、ね」


 そしてクスリと笑ったルイに、思わず目を見開く。

 変な虫……って。


「『噂の4人組』なんて、本当に不愉快だよ」


 冷やかにそう言ったルイに続き、藍くんも肩を竦める。

 こちらは相変わらず、嫌な笑みを浮かべながら。


「向こうは俺たちのこと、まだあんまり分かってないみたいだけどねー?」

「……佐野くん、どういう意味?」

「ちょ、もうすぐ同級生になるわけじゃん。俺だけ苗字呼びとか、悲しいなぁ」


 佐野くんはクッキーを頬張りながら、そんなふざけたことを言い出した。


「トクベツに藍って呼んでもいーよ?」

「いや、いいし……」

「呼んで」

「何で」

「だって、ユウちゃんはルイのハニーでしょ? ルイのハニーってことは、俺の小猫ちゃんってことだし。小猫ちゃんの特権は、俺の名前呼び……ぶっ」

「ユウちゃんを困らせるんじゃない」


 准くんの痛烈な一撃で、佐野……藍くんは、涙目で後頭部をさすっている。


「悪いけど……ユウ?」


 馬鹿な藍くんに呆れていると、不意に低いトーンで呼ばれて、ルイに振り返った。


「ユウを、アイツらに渡す気はないんだ。なるべくなら、君を追い詰めたくない……でも」


 そのガラス玉のようなグレーがかった瞳に見つめられ、私は言葉を失う。


「ユウが向こうを選ぶのなら、ある程度手荒に……っていう可能性も、否定出来ない」



 いつもアクセスありがとうございます!

 今回は少しご連絡があって、あとがきを足させて頂きました。


 これまでほぼ毎日連載して参りましたが、最近少し実生活の予定が立て込んでいるので、もしかしたらお休みを頂く日もあるかもしれません。(ストックが切れてしまっている状態なので……)

 出来る範囲で頑張っていく形となりますが、ご理解頂ければ幸いです。

 今後とも『Lovers High』を宜しくお願い致します。

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