表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lovers High  作者: ショコラ*
第五章 黒の泡沫
32/54

翌日


 午後13時過ぎ――嵐に希望を託した私は、1人電車に揺られていた。

 急行が停車する主要駅で下車すると、ごった返す退勤ラッシュ時とは違って、ホームにいる人はまばらだ。

 ホームから改札口へと向かう途中、カチカチと使い慣れない携帯のボタンを押し、ルイにもうすぐ着くとメールを打った。

 義務的で事務的なその作業を終えると、私の意識は過去へと遡る。

 ……さっきセイ、辛そうな顔をしていたな。

 まるで自分のことのように、痛みを耐えるかのような……そんな表情だった。


『愛してるんだ』


 一昨日のデートで言ってくれた言葉が、まるで遠い過去の出来事の様に思える。


「はぁ……」


 私は溜め息を吐くと、重い足取りで改札口を抜けて行った。



第五章『黒の泡沫』



「どーもぉ、ユウチャン。昨日ぶりぃ!」

「……」


 ……帰りたい。

 多分今の私は、世界で一番帰りたいと思っている人間だろう。

 ルイからはすぐにメールが返ってきて、迎えを寄越すと言われた。

 都心から程近い、ルイたちの溜まり場の最寄り駅から出てロータリーを歩いていると、突然黒光りする高級車が一台、私の横に滑るように現れた。


「……迎えって、佐野くんの事なの?」

「えぇ、それ今更だよね。ほらほらぁ、怖い顔しないで。どーぞ?」


 運転席で、相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている佐野君に、乗車するよう促される。

 一瞬佐野くんを睨みつけて抵抗しようとしたものの、派手な車とボリュームの大きいBGMのせいで、悪い意味で目立ち過ぎている。

 私は大きく溜め息をついて、仕方なく助手席へと乗り込んだ。


「丁度俺も、この辺車走らせてたとこでさぁ。グッドタイミングでしょ? グッジョブ俺ー」

「佐野くん、うるさい。それからこの音楽も何とかしてよ、頭痛くなる。煙草も消して」

「わー。乗って早々女王様発言! あはは、ルイのハニーじゃなかったらお仕置きしちゃうとこなんだけど――」

「うるさい。煙草、こっちに吐かないで」

「え、ユウチャンてまさかのツンデレ系? ちなみにデレはどこ?」


 びっくりする程めんどくさい……会話が成り立たない。

 私は顔を歪めて窓の外を眺める。

 佐野くんはクスリと笑うと、煙草を揉み消し、音楽のボリュームを下げた。


「でも、大人しくユウチャンが来てくれて良かったよ。俺、大学まで派遣されちゃうとこだった」

「……何でそこまでルイの言いなりになるの? 断ればいいじゃない」

「んー、無駄なことはしたくない主義なもんで。ルイを穏やかにさせるには、ユウチャンを呼ぶのが一番手っ取り早いからね」

「……」

「まぁ、わかんないだろうけどさー……、あんま恨まないでやってよ」


 不意に声のトーンが下がったことに違和感を感じ、そっと佐野くんを盗み見てみる。


「ルイは本当、不器用な奴だから。ユウチャンのことが、好きで好きでたまらないだけなんだよ」

「……そんなこと言われても」


 サラサラと流れる金髪を掻き上げながら、佐野くんはにっこりと微笑んだ。

 ピアスだらけの耳や、話し方でカムフラージュされているけれど……時折垣間見える言動から、本当の彼は決してバカではないことが伺えた。

 軽そうに見えて、隙が無い――ルイとはまた違った意味で、油断出来ない男だ。


「そういえば、あの後弟クン、火傷大丈夫だった?」

「大丈夫なわけないでしょっ、外道!」

「オイオイー、俺がやったわけじゃねぇじゃんか」

「止めないで見てたんでしょ! 同罪だよ」

「そりゃ、止めないよねぇ。いわゆる、時を越えた因縁の対決、その1……ってヤツだったワケだしぃ?」

「……はぁ?」


 眉を寄せて佐野くんを睨みつければ、彼はくるくるとハンドルを大きく回して、駐車場に車を停めた。


「さってと、俺たちのご主人サマが、首を長ーくして待ってますよ」

「……」


 佐野くんのおふざけには取り合わず、私は助手席を降りた。

 コツンコツンとヒールの音が響かせ、佐野くんの3歩くらい後ろを歩きながら、私は溜め息を吐く。


『ルイは本当、不器用な奴だから』


 ……そんなこと、わかってる。

 ルイとはただの従兄以上に、良くも悪くも濃密な関係を築いてきたのだ。

 私たちがこんなに暗雲立ち込める関係になってしまったのは、ルイが有り得ないくらい不器用で……それから私が、バカみたいに弱かったから。

 きっとお互いに、突破口を見失ってしまっているのだ。

 過去と現状で雁字搦めになって、どうにもならなくなっている。

 

 先を歩いていた佐野くんが開けてくれたドアに入ると、綺麗な丸テーブルには、お茶の準備がしてあった。

 綺麗なレースのテーブルクロスの上には、紅茶とクッキーが用意されている。

 小さい頃から、私が好きな組み合わせだ。


「いらっしゃい、ユウ」


 不意に部屋の奥から聞こえた声に、ゆっくりと振り返った。


「ルイ……」

ジュンが用意してくれたんだ。せっかくだから、座って」


 促されるまま椅子に腰を下ろせば、先に私の斜め前に座った佐野くんの他に、もう一人の男の子が奥の部屋から現れた。


「久しぶり、 ユウちゃん」

「あ……准、くん?」


 アッシュ系ブラウンの髪のルイと、金髪の佐野くん、そしてこの赤髪に近い准くん……3人揃うと、もう何というか。

見た目こそ、ルイたちに引けを取らない派手さな准くんだけれど、実は一番穏やかな性格をしている。

 そんな彼とこうして会うのは、2年ぶりくらいだ。


「留学……してたんじゃ?」

「あ、覚えててくれたんだね。ありがとう」


 赤髪の不良とは思えないくらいの優しい微笑みを浮かべて、彼は正面に座った。

 その隣には佐野くんが、私の隣にはルイが腰を下ろしている。

 ……異様なお茶会だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ