約束
「すごい、すごいっ! こんなことってあるんだね!」
嵐が去って行った後も、俺たちの興奮はなかなか冷めることはなかった。
リネはすっかり頬を紅潮させ、上機嫌に喋り続けている。
「まさか、ルーカスまで転生しているとは思わなかったけど……」
「これもきっと、あの時リリーのお婆さんが言ってた『代償』の一つなんだろうな」
さっき嵐と話しているときに出た、アルドという嵐の前の名前や、ルーカスという名前……そういった前世の頃を彷彿とさせる名前を久しぶりに聞いたせいか、懐かしい話題が、自然と口を突いて出てくる。
ちなみにリリーとは、今は黒髪ストレートヘアのリネが、ブロンドの美しいお嬢様だった頃の名だ。
リリーの祖母は、不毛な魔女裁判が自国から近隣国に渡って蔓延っていたあの頃、数々の危険をかい潜って生き延びていた、不思議な力を持つ老女だった。
俺たちの、切なる願い――『生まれ変わって、もう一度出逢う』、なんて何とも魅力的で夢のような願いを、全身全霊を懸けて叶えてくれたのは彼女だったのだ。
身分や肩書き、派閥……幾つもの壁に阻まれ、バラバラに裂かれるまでのカウントダウンが始まった俺たちにとっては、それこそが唯一の希望であり、光だった。
――永遠の別れは、何よりも恐ろしい。
例えそれが運命だと言われようと、あの頃は、どうしても……いくら心が強くあろうと、互いが互いを失う事だけは、怖くてたまらなかったのだ。
「……本当に不思議よね。いまだに、夢の中みたい……ううん、あの頃が夢だった気さえする」
「わかるよ」
リネの小さな呟きに、ヒロと俺は頷く。
「私がドレスを着て……ヒロが、剣を握っていて……。今でも時々、夢に出てくるの」
リネが窓の外を眺めながら、そう呟いた。
その気持ちは、痛い程によく分かる。
あの頃見て、聞いていた記憶は、まだこの世では20年も生きていない俺達にとっては、強烈過ぎるものだった。
思い出した光景の中には、あまりに理不尽で残酷で……簡単には受け入れられないものだって沢山ある。
平等が謳われ、人の命が尽きる瞬間に立ち合うことなど滅多にない今とは違い、あの頃は人を陥れる為の策略など腐る程溢れていたし、それが人を殺めることに直結することだってあった。
『目を、開けてくれ……』
あの夢を、もう何度見ただろう。
『君無しで、どうやって生きたらいい?』
あの無情なまでに青かった空の元、木漏れ日の中に見た君の最期の姿は、いまだ俺の記憶に強烈に焼き付いている。
『愛してる……愛してる……』
あの時の慟哭を、息が止まりそうな程の苦しみを、どうして忘れることなど出来るだろう。
俺の腕の中で、俺から去っていってしまう君を見つめながら、俺は再度誓ったのだ。
来世では君を、今度こそ……幸せにしてあげると。
すべての苦しみや悲しみから守ってあげると、そう誓った。
その決意は今も変わっていないし、それを全うするために、俺は今生きている。
あの時果たせなかったこと、叶えられなかった想い……さよならさえ言えなかった、別れ。
次々と俺達を襲った悲しみが、決して無駄ではなかったと証明するためにも。
禁忌を犯してまで、記憶を引き継ぐという奇跡を起こした俺たちは、約束を果たさなければならないのだ。
『自然に反する祈りを捧げる場合……必ずと言っていいほど、“代償”というものは付き物なの』
『あなたたちのうち、1人はすべてを忘れてしまうでしょう』
あの時告げられた、確実に起こるであろうと予言された代償の内容は、確かに俺たちにとっては大きなものだ。
けれどその記憶は、『消える訳ではない』と彼女は言っていた。
だから……どんなに時間がかかっても。
俺たちはユウが、俺たちのことを――あの頃信じた愛を思い出してくれると、信じている。
もちろん、たとえ記憶を取り戻したとしても、君があの頃と同じように、再び俺を想ってくれるという保証はどこにもないけれど――
『どうか……私の愛を、信じて下さい……』
あの時君は、最後まで俺に愛を捧げてくれたから。
だから俺も、諦めたりはしない。
せめて、あの時君が望んだことを――
『もし私が……すべてを忘れてしまっても』
『また、私を……見付けて、そして……』
――約束を、叶えてみせる。
それを果たすまでは、諦めるわけにはいかない。
「ユウを、守るんだ。……今度こそ、アイツらの思うようにはさせない」
ヒロがあの頃と変わらない、意志の強い目で言い切った。
心を同じくする俺とリネも、深く頷く。
今度こそ、何も失うことなく……皆が幸せになれるように。
それだけを目指して、俺たちは前を向き、いかなる戦いにも立ち向かっていこうと決意した。
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