秘密会議
「アイツ……ルーカスも、生まれ変わったんです。俺たちの、従兄として……」
その言葉を聞いた瞬間、喜ばしい再会に華やいでいたその場の空気が、一気に凍り付いた。
俺も思わず、息を止めてしまう。
まるで全身の血液まで一緒に、凍りついてしまったような気さえした。
ルーカス――忘れもしない、憎むべき相手の名前。
俺の宿敵であり、恋敵であり……一度は俺から、愛する人を奪った男。
一瞬脳裏に蘇った記憶に囚われそうになったが、数秒遅れて嵐の言った言葉を思い出し、はっとする。
「……今、従兄って言ったか?」
「はい。何故だかわかりませんが、彼は俺たちよりも早く、記憶が戻っていたようです。……もう何年も、ユウを縛っています」
「何だって?!」
思わず、声を荒げてしまう。
再びユウのそばに存在しているというだけでも、耐えられないのに……同じように記憶を共有している挙句、何も知らないユウを、俺達より先に手にしていたなんて。
とてもじゃないけれど、受け入れられるような状態ではない。
俺は眉を寄せて、鋭く息を吐いた。
「まさか、お前も巻き込まれてるのか?」
かつての俺にとって嵐は、実の弟のように可愛がっていた部下だった。
現世では嵐と名を授かったという、今は愛する人の弟。
ユウだけに留まらず、彼まで巻き込まれているのだとすれば、俺にとってこれほど許し難いことはない。
嵐だってヒロやリネと同じくらい、大切な仲間なのだ。
「バッチリやられてますよ。ここも、昨日いい様にやられた痕です」
そう言って指差した頬下辺りは、言われてみればうっすらと青くなっているように見えた。
ウェイターとして何とか薄化粧で隠しているようで、それ程は目立っていないけれど……その物騒な痕を見れば、殴られたのであろうということは明白だった。
俺は怒りで、体が熱くなっていく。
「実は記憶を取り戻してからルイと対面するのは、昨日が初めてだったんです。一緒にいたユウには、怖い思いをさせてしまって……」
「許せないっ! ヒロ、何とかするでしょ?!」
「当たり前だろ。……セイ、単独行動は慎めよ」
やばい、バレた。
俺が顔を歪めれば、はっとしたように嵐が俺の顔を見つめる。
「誠さん、本当に無茶はしないで下さいね。俺だってあの頃とは違って、そうしたい気持ちはあっても、ベッタリと後を付いて行くことは出来ないんですから……」
「ははっ、懐かしいな」
「2人とも、本当の兄弟みたいにずっと一緒だったもんね」
笑う俺につられて、リネも微笑む。
どうやら自分たちの中でだけでなく、他者の目から見ても、俺たちは兄弟のようだったらしい。
あの頃は彼を連れて、よく2人で馬を走らせていた。
何か人生の中で大きな節目に遭うとき、俺の後ろにはいつだってアルド――嵐がいてくれたのだ。
多くを語らずとも互いの思考はある程度分かり合えたし、そんな存在が下にいてくれる俺は、その点では酷く幸福だった。
あの頃とは瞳や髪の色は違えど、変わらぬ純粋さと強かさを備えた視線を見る限り、きっと嵐はこれからも俺の支えとなってくれるだろう。
嵐の登場によって、ヒロやリネとはまた少し違った心強さも覚えた。
「とりあえず、ルーカス……今はルイっていう名前なんですが、彼の連れの監視が無い場所で、この話をしたくて」
「お前にも監視がついているのか?」
「恐らく。まぁユウよりは断然、死角が多いでしょうけど」
ヒロにそう応えた嵐は、ポケットから予め用意してあったらしい小さなメモを取り出すと、俺たちに差し出してきた。
「俺の携帯番号と、アドレスです。しばらくはこれで連絡をとらせて下さい」
「わかった」
「ルイの目を盗んで、時々は会いましょう。……会って頂けますよね?」
「愚問だろ」
俺が微笑みかければ、嵐は屈託の無い笑顔を見せた。
「実はもうすぐ、皆さんと同じ大学に入学するんですよ」
「えぇ?! そうなの?」
「そうしたら、俺も『噂の4人組』に参加出来ますかね」
悪戯っぽく笑う嵐には、どことなく幼さも残っていて、一番年下であることを改めて実感する。
女の子から見ればもちろん「格好良い」部類に入るんだろうけど……この笑顔を見たら、「弟っぽくて可愛い」なんて評価も出てくるかもしれない。
「当然だろ! な、ヒロ?」
「あぁ。待ってるぞ」
「ありがとうございます」
俺とヒロの返事を聞いて、嵐は嬉しそうに笑う。
あぁ、流石は俺の愛するユウと、血を分けているだけある。
前世の贔屓目を抜いたとしても、もう既に可愛くて仕方の無い後輩だ。
「では、不審がられたらマズイので、とりあえず今日はこれで……。ご注文、どうしましょうか。サービスしますよ」
「何、嵐そんな権限まで持ってんの?」
「世の中、顔が綺麗だとお得なことが沢山ありますよね」
「……実は腹黒な所も、変わってないみたいだな」
かくして、嵐という強力な仲間を得た俺たちの、ユウ救出作戦は静かに始動したのだった。




