同志
滑らかな口調でそう言ったウェイターが去ると、俺たちは3人揃って顔を見合わせた。
「藤原って……」
ユウと同じ苗字だ。
どういうことだ……?
「まさかユウのことじゃないよね? ウェイトレスしてるなんて、聞いてないけど……」
「バイトはしてないって言ってたよ」
首を傾げたリネに、俺もユウ本人から聞いたことのある情報を口にする。
「その藤原って奴が来れば、全部明らかになるだろ」
ヒロにそう言われ、俺たちは頷いた。
とてもじゃないけれど、ゆっくりメニューを眺める気になんてなれないまま数分を過ごした俺達。
まさかその直後に、衝撃的な出来事にあうだなんて、誰一人として予想が出来なかったのだ。
「……お待たせ致しました。高谷尋人様」
「失礼します」という声の後個室内に入ってきのは、どこか見覚えのある柔らかなミルクティ色の髪をした、すらりと背の高い青年だった。
一礼をした彼が、顔を上げた瞬間。
その顔を見た俺は――いや俺たちは、思わず息をのんだ。
目を見開いた俺を真っ直ぐと見つめる彼は、優しい瞳で……昔と変わらない瞳で、微笑みを浮かべていた。
「お久しぶりです……、やっと、お会い出来た」
「……アルド!」
無意識のうちに、俺は椅子を蹴るように立ち上がって、彼の元へと手を伸ばしていた。
胸が一杯で、涙が出そうだ。
俺と同じように少し目を潤ませた彼も、腕を伸ばして、俺からの抱擁を受け止めてくれる。
他人から見たら、男同士何をしているのだろうと不思議に思われるかもしれない。
ここが仕切りに囲まれた密室であることに、感謝してしまった。
この再会を前に、興奮しないでいられるなど無理な話なのだから。
「お久しぶりです。お元気でしたか……?」
「お前こそ……、というか、アルド……お前、まさか……って今は名前、何ていうんだよ?」
とりあえず体を離して、俺は不自然に言葉を繋ぎ合わせる。
最早頭の中は、完全にパニック状態だ。
それにしても本当に、この瞳の雰囲気はあの頃とまったく同じだ。
よく知っていた彼の面影に懐かしさが込み上げ、胸がいっぱいになる。
「あははっ、落ち着いて下さいよ……長篠誠さん」
彼は俺の名前をスムーズに口にすると、そのまま椅子へと促してくれた。
そこでようやく彼から一度目を離してテーブルを見れば、懐かしそうに目を細めるヒロと、感極まって涙を抑えるリネが目に入る。
……そりゃそうだ。
ユウの他にも再会出来る相手がいたなんて、一体誰が想像出来ただろう?
「皆さんも、お久しぶりです。……この世でもう一度お会いできたことを、光栄に思います」
「畏まるな。もうそういう時代じゃないだろう」
「そうだよ……! でも、本当に久しぶり。また会えて、私も最高に嬉しい!」
頭を下げた彼に、ヒロとリネも言葉を掛ける。
顔を上げると、彼はふわりと笑った。
「……ここではあまり時間が取れないので、手短にお話しますね」
「あぁ。聞きたいことばかりだよ」
俺がそう言えば、彼は誰よりも誠意に溢れた瞳で、俺に笑い掛けてくれた。
「貴方に恥じない為にも、俺は今日まで、ユウを見守ってきました」
「え……?」
彼はにっこり笑うと、しっかりとした口調で言葉を続ける。
「改めまして……俺の今の名前は、藤原嵐と言います。今世ではユウの弟として、生まれてきました」
「お、弟……っ」
「ええぇ?!」
思わずどもる俺と、叫び声を上げるリネ。
だって、仕方のないことだ。
まさか……まさか、こんなことってあるのだろうか。
いや、実際起きているのだから、あるんだろうけれど。
「あはは、驚きますよね。でも俺も半年前までは、何も覚えていなかったんです。自分の予想ではありますが、恐らく皆さんの記憶が戻った頃、俺の記憶も戻ったのかと」
「きっとそうだな。俺とリネが再会したのも、半年前だ」
「やっぱり、そうだったんですね」
ヒロの言葉に、頷いて応える嵐。
俺は信じられなくて、ただただその顔を見つめていた。
そこにはちゃんと彼の面影が残っているというのに、言われてみれば、確かにユウと通じる部分も見て取れる。
2人の間に、過去には無かった繋がりが生まれていることが、何とも不思議だった。
「最近ではユウも、少しずつ……何かを思い出し掛けているようです」
「そうか」
「ただ……問題が」
「問題?」




