繋がっていく糸
「ごめんね……嵐」
そっと手当てを施しながら呟けば、嵐はふわりと笑った。
「いや、俺は平気だけど……。どっちかっていうと、ユウがトラウマになりそうだよね」
「うん、完全になった。絶対しばらくうなされるよ……」
「あはは、早く忘れなきゃな」
全然、笑い事じゃないのに。
私が視線で非難すると、不意に嵐は真面目な顔をして、口を開いた。
「なぁ、ユウ……」
「なに?」
「ユウに……話してないことがある」
「……うん」
それは、私も気になっていたことだった。
さっきのルイと嵐の会話には、確実に私の知り得ない何かが含まれていて……今日までそれに気付いてさえいなかったことにも、ショックを受けていたのだ。
「……すっげぇ大事な話なんだ」
「うん」
「でも、全部は……話せない」
無意識にうなだれた私の頬に、嵐が指を滑らせる。
「そんな顔すんなよ?」
「だって……」
「『今は』言えないだけだよ。じきに、全部わかる時が来る」
「え……?」
「少しの間だけ……俺を、信じてもらえないかな」
『今に、わかるから』
『俺達を、信じて欲しい』
不意に、昨日セイの口から聞いた言葉が、頭の中を巡る。
同じ、だ。
「どうして、って顔してるね」
嵐は悪戯っぽく笑った。
「昨日……セイさん、だっけ? その人にも言われた?」
「どうして、そんなことまで……?」
「俺は、ユウを幸せに導く為にそばにいるんだよ」
そう言った嵐が見せた笑顔は、とても大人びていて……
ずっとそばにいた弟のはずなのに、何故だか、もっと違う誰かのような気がした。
優しい、誰かのような……
不思議な感覚が、身体の中を巡っていく。
「嵐……」
「ユウ、俺の話をよく聞いて」
嵐は再び真剣な表情を見せると、静かに語り出した。
「ルイのことは、もう俺達2人だけでどうにかなることじゃない」
「……」
真剣な嵐の顔と声に、胸がぎゅっと締め付けられる。
もうダメなのかもしれない。
――けれど嵐は、予想外の言葉を続けた。
「ユウを助けられるのは……あの人たちだけ」
「え……?」
告げられた内容に、思わず困惑する。
あの人たち……って。
この話の流れからすると、もしかして……
「誰の事だか、わかるね?」
「……セイたち?」
「そう」
嵐は、微笑みながら頷いた。
「まだ完全に名前、覚えてないんだよね。セイさん以外のカップルは、何て言うんだっけ?」
「リネと、ヒロ……」
「そう。キーマンは、ヒロさんなんだ、多分」
「え……?」
頭の中が、ぐるぐると混乱する。
私の人生に影を落としてきた、ルイ。
その闇を分かち合ってきてくれた、弟の嵐。
モノクロになり掛けていた私の日常に、光を差してくれた不思議な三人組……
私にとっては大き過ぎるくらいの存在たちは、今までずっとバラバラに認識されていた。
嵐とルイが直接対決しただけでもショックだったのに、まさか、リネたちまで……?
予想もつかない内容に、声も出ない。
「でもさっき、ユウは携帯壊されたし、連絡手段を絶たれただろ?」
そう言って、私が無理に持たされたシルバーの携帯を忌々しそうに見つめる嵐。
「あ……そっか……」
「だからさ……、今ユウとセイさんたちを繋ぐことが出来るのは、俺だけ」
「え……?」
「ユウ、今から言うことを真剣に聞いて、覚えるんだよ」
そう言って、一枚の紙を私へと差し出した。
「これ、は……?」
「ルイの、死角を狙うんだ」
嵐の瞳が、強い光を帯びる。
「俺を信じて、ユウ」
嵐はそう言うと、私に事細かな指示を出した。
何が何だかわからないけれど……まさかリネたちまでこんな風に巻き込むなんて、考えたこともなかったけれど。
私の人生を揺るがすいくつものピースが、一本のレール上に集まり始めている。
正直何が正しいのかなんて、全然わからない。でも……
『信じて欲しい』
大切な人にそう言われたら、従うしかない。
私は赤く腫れた瞼を瞬かせながら、 賢い弟の言葉を繰り返し、来たる明日の戦いの為に涙を飲み込んだ。
Continue...
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
普段ほとんど前・後書きとも無く、碌に挨拶もしない作者で申し訳ないです。
日々アクセスして下さっている皆様にはもちろん、お気に入り登録・ポイント評価等をして下さった皆様にも、改めてこの場でお礼申し上げます。
まだ折り返し地点にも達していない『Lovers High』ですが、これから本格的に物語が展開していきます。
尚、次章からは序章時のように、章ごとにセイ・ユウと視点が交互に変わっていく形となっております。(が、基本的に時系列は被ることなく先に進んでいくので、シーンが重複することはほぼない形となります)
視点変化についてはお好みがあるとは思いますが、今後とも見守って頂ければ幸いです。
それでは、少しでもお楽しみ頂けるよう努めますので、今後とも宜しくお願い致します!




