表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lovers High  作者: ショコラ*
第三章 始動
25/54

身代わり


「なぁ嵐、お前はもう全部、わかっているんだろう?」

「……多分、な」

「今日は“代表者”としての、宣戦布告といったところか」

「良い響きだな。まぁ、そう捉えてもらっても構わない」

「下手なことをすれば、俺はユウをもう返さないよ」

「ふざけんな。“代表者”以前に、ユウは俺の姉貴だ」

「……心底気に入らないよ。お前なんか、生まれて来なければ良かったのに」


 ……一体、何の話をしているのだろう。

 嵐とルイは、私の知り得ない“何か”について話しているようだ。

 その一触即発の張り詰めた空気の中で、私は息をすることもままならないまま、ひたすら2人を見守ることしか出来ない。


「その言葉、お前にそっくり返してやるよ」

「いい度胸だ。……じゃあ手始めに、お前の希望通りユウの“代わり”になってもらおうかな」


 そう言ってルイは、不敵に微笑む。


「もちろん、避けてはいけないよ。お前がどのくらい本気なのか、見てみたい……“代表者”としての覚悟にも、興味があるしね」

「もちろん。その代わり、今日はユウを連れて帰る」

「仕方ない。……今日だけは、乗ってあげよう」

「交渉成立だな」


 ルイはゆっくりと側にいる側近の一人に歩み寄ると、その人が緩くふかしていた煙草をすっと静かに奪った。

 そして、その煙草を持つ手を、嵐の方へ伸ばし……


「ルイ?!」


 思わず目を見開く私の目の前で、その赤い光を凶器に変えた。

 

「嵐ッ! お願い、やめて!!」


 嵐の深く開いたカットソーの、鎖骨下に、容赦無く押し付けられた煙草の火。

 鈍い音と共に、私の悲鳴のような叫びが広間に響く。

 ルイは私の声など聞こえなかったかのように、そのまま煙草を押し当てている。

 嵐は痛みに眉をひそめながらも、真っ直ぐにルイを睨みつけていた。


「嵐……っ! 何で避けないの?! 跡残っちゃうよ!」


 3秒、5秒、7秒……

 肌に直接当てられた煙草は、嵐を傷付けながら沈火していく。

 私は膝から崩れ落ち、うなだれた。


「……本当に、気に入らないな」

「嵐っ!!」


 ルイは小さく呟くと、無抵抗のままの嵐の頬を殴りつけた。

 テーブルや椅子を巻き込み激しい音を立てながら、嵐は倒れ込む。


「お願い、ルイ……やめて……」


 私は相変わらず身動きを封じられたまま、涙を流した。

 ぐにゃりと歪んだ視界の端で、更に無抵抗のまま蹴られる嵐が目に入る。


「ルイ……お願い……っ!」


 ――耐えられない。

 優しくて、明るくて、真っ直ぐな嵐。

 世界でたった一人の大切な弟が、他の誰でもない私のせいで……!

吐き気がして、気が遠くなってきた。

 ぐらりと視界が暗くなりかけた瞬間、頬にひんやりとした感触を感じ、水面ギリギリを漂っていた私の意識は再び浮上する。


「ユウには、刺激が強かったかな?」

「……」


 ルイの顔を、見たくない。

 嵐を傷付けた手で、触らないで欲しい……。

 私の心は、激しくルイを拒絶する。

 でも、それを行動に示すことは出来なかった。

 これ以上、ルイを刺激したくない。


「今日のユウの制裁分は、これで清算してあげる。……あとは、携帯だね」


 ルイは静かに笑いながら、私のコートのポケットから携帯を取り出し、パキッと反対方向に折り曲げる。

 リネや、ヒロや……セイの連絡先が入っている、大切になっていた連絡手段は、一瞬で無残な姿になった。


「余計な男の情報なんて、いらないだろ? これからは、これを使って」


 代わりに、何の価値も持たないシルバーの携帯が、私のポケットに滑り込まされた。


「……うぅ……っく……」


 嗚咽が漏れる私の瞼に、ルイは優しくキスをする。


「また明日、ここにおいで。今度は嵐抜きで、お茶でもしたいな」


 私はこくりと頷く。

 何でも良いから、早く嵐を連れてこの場から逃げ出したかった。

 ようやく解放された体を引きずるようにして、私は嵐の元へ駆け寄る。


「あらし……っ!」

「大袈裟」


 嵐は頬を赤紫色に腫らしながら、ニヤリと笑った。


「何がおかしいのよ……バカっ!」

「帰るぞ、ユウ」


 嵐は立ち上がると、そっと私を抱き寄せ、そのまま歩き出した。


「また明日ね、ユウ」


 ルイの言葉を、背後に聞きながら、私は嵐にしがみついた。

 ……苦しい。

 苦しくて苦しくて、涙が止まらない。


「泣くなよ、ユウ。大丈夫だから」

「……な、……っ泣く、よぉ……っ」

「ごめんて。マジ、泣かないで」


 嵐は家に着くまで、ぎゅうっと私を抱き寄せてくれていた。

 けれど途中乗ったタクシーの中でも泣き止むことは出来ず、私は子供のように泣きじゃくり続けた。

 もし、嵐がいなくなったら……そう思うと、怖くて怖くて、仕方が無い。


 その後マンションへとたどり着き、私たちの部屋のドアを入ると、慣れた香りが迎えてくれた。

 いつも私と嵐がお揃いで愛用している、香水の香り……それに安心して、再び涙腺が緩んでしまう。


「嵐、火傷手当てしなきゃ……」


 嵐は一時間ほどかかる帰り道の間、一度も火傷を気にする素振りを見せなかった。

 火傷のみならず、殴られた箇所を撫でることもなく、ひたすら私を宥めることだけに集中していて……そんな嵐だからこそ、彼の身体は、私がきちんと守ってあげなければならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ