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Lovers High  作者: ショコラ*
第三章 始動
24/54

対峙


 数歩先を歩く佐野くんの足元を見つめながら、赤い絨毯を踏みしめ、一番奥の部屋まで進んで行く。

 段々と冷えていく空気に、私は小さく身震いした。


「ルイ、連れて来たよ」


 佐野くんは軽い調子で言いながら、最後の扉を開く。

 それに促されるように、ゆっくりと視線を上げれば……

 広間の向こう側には、相変わらず冷徹で、けれど悲しいほどに美しい彼が立っていた。


「待ってたよ、ユウ」


 ゆっくりと、優雅な身のこなしで歩み寄ってくるルイ。


「会いたかった」


 彼はそう言うと、長い指をこちらへと伸ばしてきて、そっと私を抱き締めた。

私は口を閉ざしたまま、表情も変えずにそれを受け入れる。


「……ルイ」

「話したいことがある、だろう? いいよ。愛するユウの為なら、何でも従うさ」

「……」


 思わず表情が歪んでしまうのを、止めることが出来ない。

 私に従う、だなんて……それは現実に対して、あまりにもちぐはぐな表現だ。

 それでもじっと黙っていた私に対し、ルイは冷ややかに笑った。


「嘘でも構わないから、もう少し笑ってよ。ほんの少しでも、同じ血を分けているんだしね」


 本当に、よく言う。

 私たちがもう純粋な従兄妹同士ではないことは、周知の事実なのに……。


「さ、座って」


 促されるまま私がソファーに身を沈めると、ルイも側にあったテーブルの椅子へと着く。


「ルイ」


 私は意を決して、昨日一晩考えて絞り込んだ言葉を口にした。


「……もう、良くないと思うんだ。こういうの、お互いのために――」

「どういうことかな?」


 思わず、私は顔を上げる。

 間が空くとか、黙られるとか、怒鳴られるとか……何かしら、拒絶に繋がる反応をされるとばかり思っていたのに。

 ルイは私がこう言うとを想定していたかのように、私の言葉をさらりと受け流した。


「まさか、話ってそれだけ?」


 不意に、ルイの仮初の微笑みに亀裂が入る。


「それだけ……って」

「はっきり言ってもらいたいな。俺を殺す覚悟が出来たってさ」

「ルイ!」


 私を縛る、世界で一番嫌な言葉。

 あまりにも簡単に投げられたそれに、私は思わず声を荒げた。


「離れてる間に、また忘れちゃった? 俺は変わってないよ。ユウに対する気持ちは……何一つ、ね」


 思わずうなだれた私の頬に、そっと指を滑らせていくルイ。

 その優しい仕種と残酷な現実のギャップが、いつも私を追い詰める。


「だから……、昨日のデートは、許せなかったな」


 次の瞬間視界が反転して、私の体は勢い良くソファーに沈み込んだ。


「やっ……」

「抵抗するの?」

「もう……こんなの!」


 ――狂ってる。

 ワンピースの裾を捲り上げられて、心の中に激しい拒絶が生じる。

 今までに無いその感覚の強さに、自分でも驚いた。

 きっと、その理由は……

触れられて幸せだと感じてしまう相手を、見つけてしまったからだ。


「気に入らないな」


 低く、静かに呟かれた言葉に、はっと息をのむ。

 思わず視線を上げれば、疑念、嫉妬、憎悪……何とも形容し難い色を孕んだガラス玉のような瞳が、怯える私を映し出していた。


「――っ」


 首筋に噛み付かれたような痛みを感じ、思わず恐怖で涙が滲む。


「……渡さないよ、誰にも」


 そう囁かれ、服の中に伸びてきた指先に、もうだめだと目を閉じて諦めた瞬間――


「――ルイ。いい加減にしとけって」


 予想外のことが起こった。

 聞こえるはずのない声に、私は一瞬耳を疑う。

 信じられない気持で、ルイの腕越しに声の聞こえてきた方を見遣れば、そこにはやっぱり予想通りの人物が立っていた。


「これ以上、ユウを傷つけんな。俺が代わりに引き受ける」

「……へぇ?」


 私の上に跨がっていたルイは、アッシュブラウンの髪の間から、声の主を見据える。


「ここまで会いに来てくれるのは……初めてだね、嵐」

「嵐……っ、どうして……!」

「とりあえず、ユウの上からどけよルイ。スゲェ気分悪い」


 嵐が抑揚の無い低い声でそう言い放てば、ルイは静かに笑って、ゆっくりと私から退いた。


「嵐……」


 乱れた服を直しながら体を起こせば、嵐が恐いくらい険しい表情でルイを見据えている。


「ユウに代わるって言ったよな」

「あぁ」


 対峙する2人の間には、見ているだけで不安になるような緊張感が漂っていた。

 一見、静かなやりとりだけれど……その会話内容に、私は背筋が冷えた。


「ルイ……っ、 あ、嵐は巻き込――」

「ユウは黙っとけ。大丈夫だから、目を閉じて耳塞いでろ」


 私の懇願する声を遮り、嵐はぴしゃりと言い放つ。


「さすが。美しき姉弟愛だな」

「姉弟愛、ね」


 ルイは不気味な程に優しく微笑むと、ドアの向こう側に待機していた男に、「押さえてろ」と指示を飛ばす。


「ちょ、ちょっと! 何するの……?! 嵐っ、何で来たのよ!」


 男に体を押さえ込まれた私は、恐怖で吐き気すら覚える。

 目の前で起きている現実が恐ろし過ぎて、足が震え始めていた。


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