表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lovers High  作者: ショコラ*
第二章 境界線、突破
21/54

警鐘の向こう側


「……!」


 私の言葉を聞いて、驚いたように目を見開くセイ。

 それはそうだ。

 自分でも、この質問は意味不明過ぎるし。でも……


「ユウ……」


 セイは驚いているものの、その瞳は憂いと慈悲を含んでいるように見えた。

 決して呆れている訳ではないということが、一目でわかる。


「セイ?」

「……今に、わかるから」


 一瞬セイの目が、何かを覚悟したかのように強く光を帯びた。

 さっきと同じ台詞のはずなのに、どこか強さが違う。 


「ユウ……ごめん」

「え?」

「でも、俺を……俺たちを、信じて欲しい」

「セイ……」

「絶対に、守るから」


 何のことか、さっぱりわからない。

 それなのに、妙に胸がざわめくのはどうしてなのだろう。


「俺たちは……ユウの、そばにいるよ」


 それはまるで、媚薬のように私の脳に浸透していく魔法の言葉。


「ごめん……怖い、よね」


 セイはこの上なく辛そうな瞳で、私を見つめた。

 まるで、それが自分の痛みでもあるかのように。

 何だかとても、セイに触れたくなった。

 私に触れて、もう一度大丈夫だよって言って欲しい――


「セイ……」


 不意に手を伸ばしてセイのジャケットに触れた私を、セイは見開いた瞳で見つめた。

 いつの間にか大通りから少し外れた、緑の爽やかな公園に入っていた私たち。

 周りの人はまばらで、気持ちの良い風が頬を撫でていく。


「ずっと一緒に……いてくれるの?」


 あぁ、ダメだ。

 私には“足枷”があるのに。

 こんな風に、誰かを――男の人を欲することは、私にとって何よりもタブーなのに。

 我慢出来ない。セイといると、我慢するのが苦しくてたまらない……。

 燃えるようにざわめく胸を、セイに触れていない方の手で押さえた。

 自分の中でくすぶっている、得体の知れない感情。

 持て余す程の、みんなへの――セイへの、執着。


 ――助けて。

 縋るようにセイを見つめた。


「どこにも、行かないで……」


 無意識のうちに口から零れた言葉は、安っぽくてやたらと甘ったるいものだった。

 その掠れた声がセイ届いたであろう瞬間、私の視界から春の木漏れ日が消え去る。

 気付いた時には、どこか懐かしいような香りに包まれていて……

 一瞬の出来事だったから、私は驚きで言葉を失ってしまった。


「それは反則だよ、ユウ」


 責めるような甘い声が、体を伝って響く。

 抱き寄せられ、セイの胸に押し付ける状態になっていた頬の向こう側に、安心するような体温を感じた。

 そして微かに聞こえる、少しだけスピードの早い鼓動。


「ユウ」


 私の名を呼びながら、セイは腕の力をさらに強めた。

 その声に、私の脳はどんどん麻痺していく。

 私を縛っているはずのすべてを忘れ、セイだけを求めてしまう。


「セイ……」


 小さく呟いて、両手をそのしなやかな背中に回した。

 私たちの間に、少しも隙間が生まれない程に。


「……頼むよ、ユウ」


 と、不意にセイが非難めいた声を出す。


「まだ、早いんだ……なのに、ユウに誘惑されたら……」


 よくわからないことを、恨みがましく呟くセイ。


「……クソッ。どうやって拒めっていうんだよ」

「拒まないで」


 全然よくわからないけれど、セイに距離をとられるのは耐えられない。

 直感的にそう感じて、即座に反論した私の言葉に、再びピクリと反応を見せるセイ。


「ユウ……お願いだよ」


 何が「お願い」なのか。

 謎の反発をするのとは裏腹に、セイは尚も私を強く抱き締めてくれている。

 ここがどこかとか、自分が今どんな状況下なのかとか、どうでも良かった。

 脳が、心が、私の全身に流れる血液のすべてが、目の前の彼を欲している。

 言葉にならない引力が、私の本能だけを引きずり出していた。


「ユウ」


 不意に腕の力を緩めて、セイはそっと私の頬に触れてきた。

 壊れものを扱うかのように優しく触れてきた手で、すっと顎を上げられ、視線が絡み合う。


「……ごめんなさい」


 こんな、まるで気の触れたような行動をする私を、どうか許して。


「自分でも、どうしちゃったのかわかんない……」


 私の声は、心をそのまま映したかのように酷く揺れていた。


「でも……セイに会ってから、セイのこと……」


 頭の中で、再び警鐘が鳴る。

 これを言っては、絶対にいけない――その瞬間脳裏に、冷やかなルイの瞳がチラついた。

 謎の本能と、地に足の着いた理性の中で、私は激しく葛藤する。


「ユウ」


 混乱し、口を閉ざした私の瞳を射抜くように見つめてくるセイは、何かを決心したかのように口を開いた。


「セイ?」

「俺は……」


 その吸い込まれそうな瞳に、私は言葉を失った。

 ――遙か昔にも、この瞳に溺れたことがあった気がする。

 そんな錯覚を覚えた。


「俺は、ユウを……」


 警鐘が、空を突き抜くような音を発する。

 遮るなら、今。引き返すなら、今。

 それでも、私は――


 私は、セイを選んだのだ。



「俺はユウを……愛しているんだ」



Continue...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ