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Lovers High  作者: ショコラ*
第二章 境界線、突破
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揺らぐ


※現在修正作業を行っており、こちらからは未修正となっております。これまでと文体や改行が異なりますが、ご了承ください。


 綺麗な装飾の施された美しい家具が並ぶ店内を歩きながら、私は尋ねた。

 中世ヨーロッパのアンティーク家具は、私も大好きなものだ。

 くすんだゴールドの金具や、遊びの利いた曲線美、絵画のようなモチーフの型押し……一つ一つのものに物語が詰め込まれているようで、見ていて飽きることがない。


「本当、かな」

「……そっか」


 セイからの返事は、不安気に私の耳に届いた。

 覚悟はしていたけれど、やっぱりショックはショックだ。

 慣れている感じがするとはいえ、こうして一緒にいる限りでは、同時に誠実な感じもひしひしと伝わってきているから。

 彼が不特定多数の女の子にそんな姿を見せていたなんて、どうしても想像がつかなかった。


「本当だけど……でも、違うところもある」

「え?」

「誰にも本気じゃなかったし……というか、本気を知らなかったんだ」


 セイはいつになく真面目な瞳で、私を見つめてきた。

 それに応えるように、私も戸惑いながらその瞳を見つめ返す。


「リネと、ヒロに出逢うまでは……。いつも周りに誰かしらいたけど、満たされることなんて無かった」

「……」

「それがわかったから、2人に出逢ってからは、もう意味の無い付き合いは一切してないよ」

「……」

「こんな風に、デートだってしてない」


 心の中で、警鐘が鳴り響く。

 踏み込んではいけない――これ以上、セイに何か言われたくない。

 だって……私も、私だって。

 セイと一緒にいたいと思っているから。


「……そっか。ごめんね、変なこと言って!」


 これ以上掘り下げずに済むように、私はあえて軽い口調でそう言って歩き出すと、セイは一瞬困惑したように眉を寄せた。


「呆れた……?」

「ううん。今そうじゃないなら、私は気にしないよ」


 これは強がりでもあり、本音でもある。

 今、リネやヒロを――さらにはお零れのような私のことまで大切にしてくれているのは、痛いほどにわかっているから。

 過去を思うともやもやしてしまうのも事実だけれど、だからと言って呆れる理由なんてどこにも無い。


「うわぁ! これ、年代物って感じ……」


 2階のフロアに上がると、店内のアンティークな雰囲気は一段と色濃くなった。

 店内の展示のされ方も手伝って、どこか遠い過去にタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。


「ここはオーナーが、直接アンティークを買い付けて販売してるんだよ」

「そうなの? 詳しいね」

「一人暮らしになってから時々買いに来てるから、オーナーと知り合いなんだ」

「セイ……お金持ちだね……」


 流石本場のアンティークなだけあって、販売価格は、決して学生が手を出し易いものではない。

 綺麗だと思いつつも、今私が手の届く様なものはほとんど無かった。


「一応、俺も短期バイトとかでちょこちょこ稼いでるんだよ」

「そうなの?!」

「驚き過ぎだよ、ユウ」

「だって、セイが働くとか……想像つかないよ」

「あはは、失礼だなぁ」


 だって、王子様が雑用をするような図だ。

 全然、想像がつかないよ……。


「……あ」


 不意に、私はフロアの奥にある化粧台に目が行った。

 女として、どこの国の家具でも、鏡回りのものには興味がある。

 そっと駆け寄り、それを眺めてみた。

 化粧台にの上にはディスプレイのように、小さな手鏡やタッセル付きの蓋を持つ小物入れ、くしなど、日用品が広げられている。

 やっぱりどのゴールドにもくすみが掛かっているけれど、現役で活躍していた頃は、きっと眩いばかりの光沢を放っていたのだろう。

 私はその中から、櫛をそっと手にとってみた。

 梳くというよりも、日本で言えばかんざしのように髪を彩ったのであろう形の櫛。

 所々欠けている部分があるものの重厚感があり、縁には光を失いつつはあるけれど小粒の宝石も埋め込まれている。


「……?」


 ――それは、突然駆け抜けた衝撃だった。

 見つめているうちにぞくりと身体が震え、私は思わず息をのむ。

 なに……?



『やっぱり似合ってるよ、リリー』

『ありがとう! 私、貴女のセンスが一番好きよ』

『ふふ、光栄なお言葉です』



 ぐらりと、頭の中が揺れる。

 冷や汗が吹き出し、呼吸が苦しい。



『ダメだよ、エミリア! 早く貴方も――』

『さぁ、早く!』

『エミリアっ』

『私は、約束を忘れないから――!』



 これは……誰の、声?



『いやあぁぁぁぁ!』



 悲鳴……、どうしてだろう。

 私はこの声を、よく知っている気がする。


 ……リネ……?



「――ユウ?」


 不意に肩を揺すられ、手元にあった櫛が滑り落ちてしまった。

 カシャンと床にぶつかったその音で、はっと我に返る。


「……セイ」


 口から零れた声は、自分でも驚くほどに儚く、弱々しいものだった。


「真っ青だ」


 セイは顔をしかめて、私の頬に触れる。


「私……?」


 一体今何が起こっていたのか、自分のことなのに全然わからない。

 私は呆然と、セイの不安気な顔をただ見つめていた。

 セイは私を用心深く見つめながらも、櫛を元あった場所にそっと戻してくれた。


「少し休もう」

「……うん」


 大人しく、セイの後について店を後にする。

 心臓がいまだにバクバクいっていて、一向に治まる気配が無かった。

 櫛を眺めた瞬間、不意に耳鳴りのように聞こえてきた声と、頭に浮かんだ謎のイメージ……2人の会話。

 その一方は、馴染みのある自分の声の様だった。

 そして、何故だか……相手は、リネのような気がした。

 でも私は別に記憶喪失というわけでもないし、自分の過去にリネが登場するわけはない。

 でも、それならさっきのは一体何だったのだろう……?


「何か思い出したの?」

「え……」


 セイが、いまだに不安気な顔で私を見つめたままそう呟いた。


「……そんなような、顔をしてた気がして」

「……」


 バツが悪そうに俯くセイに、何か言いたいけれど言葉が見つからない。

 私自身、まだかなり動揺しているから。


「あの……」

「うん?」


 セイの優しい声音が、私の脳の疲労感を和らげてくれる。

 私は張り詰めていた身体からどうにか力を抜いて、セイとの会話に集中した。


「私……」

「どうしたの?」


 3人と出逢ってから……時々こうして、自分のイカれているとしか思えない衝動に歯止めが効かなくなる。

 まるで自分のものじゃないみたいに、勝手に口が動いてしまうのだ。


「リネって……私の、何……?」

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