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Lovers High  作者: ショコラ*
第二章 境界線、突破
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待ち合わせ



 今日は、とにかく春めいていた。きっと今年に入ってから一番あたたかい。風は少し冷たいけれど、空が抜けるように青くて、深呼吸したくなるような清々しい日だ。

 トリートメントワックスを揉みこんだ髪が、軽やかに風に揺れる。嵐の手を借りて、最終的に選んだ洋服はディテールの凝ったシンプルなミニワンピースだった。桜色のノーカラージャケットと、下ろし立てのブーティを合わせている。

 絶世の美女からは程遠くとも、それなりにオシャレを頑張っている女の子には見えるだろう……というか見えてほしい! と願いながら、私は駅へと急いだ。


 しかし緊張する。ただでさえ、あの瞳で見つめられると頭の中がぐるぐると混乱してしまうのに……これからふたりきりで会うなんて、正直実感が湧かない。


「……え」


 ――今日最初の衝撃に、私はその場で足を止めてしまった。

 待ち合わせは、人通りの絶えない駅の改札前だ。わざわざ探すまでもなく、私の視線は一点に吸い寄せられた。なんでこの瞬間まで思い出せなかったのか、自分の能天気さを呪いたくなる。


 まだ約束の15分以上前だというのに、セイは既に待ち合わせ場所に立っていた。ジャケットにストレートパンツというシンプルかつ定番のコーデでも、すらりとしたバランスの良いスタイルが際立っている。モデルのような彼は雑踏の隅で、何にも目を奪われることなく、腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 いつものように遊ばせたチョコレート色の髪が、陽の光をきれいに反射させている。その姿は、まるで洋画のワンシーンのような美しさで……周りの人たちも、数メートル離れた所から彼に見とれているほどだった。


 本当に、私ってばバカだ。

 リネとヒロも、あまりにも完璧だったから……その中に自然に溶けこんでいたセイが、どれほど浮世離れしているのかすっかり失念していた。

 あんなきれいな人が、私を待っている? 信じられない。

 私がセイの元へ駆け寄ったところで、彼に見とれている人たちが納得するわけがない。だって、あまりに世界が違うもの。


 すっかり気おくれしてしまって、セイを待たせているにも関わらず、再び足を踏み出すことができなくなった。セイの方から、こちらに気づいてくれないかな……なんてズルイことを考えてしまう。けれど――


『俺は、ユウがいいんだ』


 不意に、昨日セイが誘ってくれたときの言葉が脳裏をよぎって。記憶の中の真摯な瞳が、後ずさりしそうな私の背をそっと押してくれる。


「……っ」


 ゴクリと喉を鳴らしてから、私は一歩を踏み出した。柔らかな風が吹き、私の長い髪が毛先からふわりと舞い上がる。その髪を抑えながら、一瞬目を閉じた。

 そして、再び目を開けた瞬間――


「……ユウ」


 視線の先にいたセイの瞳は私をとらえていて、まぶしいほどの微笑みを浮かべていた。


「あ……」

「おはよう、ユウ」


 とろけるような、優しい笑顔。今日も今日とて、まるで私が特別な女の子だというような反応をしてくれる。


「ごめんね、待たせちゃった……?」

「いや、ついさっき着いたところだから。気にしないで」

「うん、ありがとう」


 思わず、その優しい瞳に見とれてしまった。私も知らず知らずのうちに、微笑んでしまう。


「どこか行きたい場所はできた?」

「え? う、うーん……」

「じゃ、予定通り俺に任せてもらって構わないかな」

「もちろん!」


 セイは私の返事を聞くとにっこりと笑って、「行こうか」と歩き出す。


「セイ、今日はまた一段と光ってるね」

「光ってる?」

「うん。いつもリネとヒロといるから、忘れてたよ」

「何を?」

「セイが、モデルさんみたいに美しい人だってこと」

「あははっ」


 セイは吹き出し、無邪気に笑う。その顔を見ると、何だかこちらまで幸せな気分になれた。


「よく言うよ。ユウだって、人のこと言えないだろ?」

「やめてよ、そんなのお世辞にすらならないって」

「お世辞じゃないよ」

「知ってるでしょ? 私が大学で、『何で凡人が』って陰口叩かれてること。まあそれに関しては、私も異論無しだけど……」

「そんなこと言われてるの?」


 セイは眉を寄せて、表情を曇らせる。


「許せないな」

「あはは、しょうがないよ。3人とも目立つし……そりゃ言われるよ」

「……」


 一瞬、不安そうに私を見るセイ。なんだか悲しそうな顔をさせてしまって、思わず慌ててしまった。


「だ、大丈夫よ? そんなの今更だし。私気にして――」

「離れないでね」

「え?」

「俺たちから、離れていかないで」


 その声音はあまりにも真剣だった。思わず口をつぐむと、セイは切なそうに笑う。


「ごめんね。これは俺たちの、ワガママでもあるんだけど……」


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