表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lovers High  作者: ショコラ*
第二章 境界線、突破
17/54

始まりの合図




「セイだったら、彼女の3人や4人いそうなのに」

「3人や4人!? せめてひとりやふたりで……いやそれもショックだけど」


 聞いていたリネが小さく笑い、セイはがっくりと肩を落とす。


「彼女なんていないよ」

「うそ!? セイに会いたい女の子はたくさんいるでしょう?」

「俺は会いたくないから」


 ……なるほど。確かにセイにだって、当然選ぶ権利はある。

 なんて冷静ぶりながらも、現在セイとデートしている子がいないとわかってほっとしてしまった。リネ以外の女の子といっしょにいる姿は見たことがないものの、大学外での様子は知りようがないから。


「でも、ユウとなら会いたい」

「……え?」

「ユウさえ良ければ、だけど」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。私にとってあまりに都合がよすぎる。

 けれどセイは至極真面目な表情で私を見つめていた。


「それいいね! ユウ、良かったらセイと遊んであげて。きっと誰より楽しませてくれるよ」


 リネまでそんな……信じられない。だってこれは、友人同士の気軽な「ご飯行こう」じゃない。お互いに「デート」と意識した上でのお誘いだ。


「嫌かな?」


 ――本当は。外せない足枷のある私は、迷わず断るべきだとわかっている。

 それでも不安そうにたずねられたら、胸が痛いくらい締めつけられた。だめだと思うのに、自分の気持ちを止められない。


「……私でいいの?」

「ユウがいいんだ」

「……」

「さっそく明日会わない?」


 魅惑的に微笑まれ、息ができなくなる。

 今日は金曜日だ。さっきまでは、土日になったらみんなと会えないって憂鬱になっていたのに……まさかこんな展開になるなんて。本当に運を使いすぎている。


「どこか行きたいところある? 映画、それともショッピング? 晴れてたら景色の良い公園でもいいね」


 ぼうぜんとしている私に、セイはいくつものプランを提案してくれた。どうにか相づちを打つ中、頭では次々に悩みが吹き出してくる。

いったい何を着ていけばいいの? こんなことなら前回の買い物で新しい服を新調しておくんだった。美容院も今からじゃ予約が取れないだろうし――


「じゃあ明日、改札の前で」

「わかった」


 終始動揺したままの私をよそに、セイはほとんどすべてのことを決めてくれた。

 どうしよう。今夜は眠れないかもしれない。


「ユウ、休み明けにどうだったか聞かせてね!」


 わくわくした様子のリネにうんと答えながら、激しく脈打っている心臓に手をあてる。

 ちらりとセイをうかがい見れば、ふっと優しい目で微笑まれた。



「で、ここでどんな惨劇が起きたわけ? 俺のユウはどこ」


 時刻は21時。流行りの軽快な音楽を流している私の部屋は、大変な状態になっている。


「足の踏み場もないってのは、こういうことを言うんだろうな……マジやば」


 誰にともなくぼやきながら、嵐は私の部屋の中へ入ってきた。私はといえば、空き巣が入ったかのように物と服が散乱する部屋の中、ペたりと全身鏡の前に座りこんでいる。


「見っけた。服に埋もれちゃったのかと思ったよ」


 しょんぼりうなだれた私を、嵐は後ろからするりと抱きしめてくる。相変わらず姉弟とは思えない甘さ具合……でも私は疲労困憊(こんぱい)で、ツッコむ余力がない。


「どうしたのこれ」


 耳元で優しく問われ、私は大きなため息をついた。


「明日の服が……決まらなくって」

「明日? どっか行くの」

「映画……」

「誰と?」

「……セイ」


 私の答えに、嵐はパチパチとまばたきをする。


「セイ……セイ……え、誰?」


 そして、思いっきり顔をしかめた。


「男!?」

「え? うん」

「は、誰それ? いつの間に……セイって誰だよ!」


 とうとう父親みたいなことまで言い出した。男となんて! みたいな雰囲気出されても、今さらすぎて笑えもしない。


「俺聞いてないんだけど!」

「全部報告してたらおかしいって」

「俺とユウの場合は別! で、誰!?」


 めげずに食い下がる嵐に、思わず苦笑する。オーケー、答えを聞くまで追及をやめないってやつね。


「この前、芸能人みたいな3人に出会ったって話したでしょ」

「え……」

「そのうちのひとり」


 答えを聞いた嵐は、目を丸くして少しの間沈黙する。


「そ……か。名前、聞いてなかったっけ」

「男の子はセイとヒロ、女の子はリネっていうの。ヒロとリネは恋人同士だから、私が遊びに行くのはセイ」

「……」

「嵐? どうしたの?」


 こんな早々に干渉が終わるのはめずらしい。不思議に思って首をかしげれば、嵐ははっと我に返る。


「あ、いや! なんでもない」

「……?」

「というか」


 嵐は私に回していた腕に力を入れると、いつものような明るい笑顔を見せた。


「さっさと服決めないと。夜更かしすると肌荒れんぞ」

「や、やだ!」


 それから嵐のアドバイスも借りて服を決定し、すぐにベッドへもぐりこんだ。久々の心|《躍》おど|るイベントなのに、寝不足でぼんやりするなんて絶対に嫌だし。


「楽しみ、だな」


 本当に、こんなに心が浮き立つのはいつぶりだろう。そわそわする気持ちを抑えきれなくて、思わず頬が緩んでしまう。だから――





「……始まったな、ユウ」


 ――だから。嵐がひとり、隣の部屋で決意を新たにしていたなんて、気づくはずもなくて。


「俺が守ってやる。次は絶対に……!」


 なにひとつ、知る(よし)もなかった。

 ……ううん。思い出せなかったの――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ