運命の予感
「けじめをつけたくて、3ヶ月ぶりくらいに会ったんだ」
「……そうなんだ。つらくなかった?」
「うん。向こうは浮気してたし、私も全然いい彼女じゃなかったから……ずいぶん前から関係が破綻してたと思う」
ルイに関する込み入った事情は話せなくとも、きっちり清算を終えたことは伝えておきたい。言葉を選びながら話すと、セイは心配そうな顔をした。
「ユウがいるのに、ほかの子へ目を向けるなんて。信じられないよ」
「別れて正解だな。会う価値がない」
むっとした顔をしたヒロに続き、リネも「本当に!」と加勢する。この3人にそう言われると、自分が素晴らしい人間になったみたいだ。買い被りもいいところだけれど、大切に思ってもらえるのは純粋に嬉しい。お礼を言えばちゃんとわかっているのかと軽く叱られた。
一連のやり取りのあと、改めてセイがたずねてくる。
「相手はすんなり受け入れてくれた?」
「うん……多分。私から切り出したのが不快だったみたいで、明確な返事はなかったけど」
「心配だよ、ユウ」
言葉だけじゃなく、その表情からも心配でたまらないという気持ちが伝わってくる。嵐以外にここまで親身に思ってくれる人がいるなんて――それがセイみたいな人だなんて、全然現実味がない。
「何かあったら、というか何かある前に必ず連絡して」
「ありがとう」
こんなふうに優しくされて、揺れない人がいるだろうか。少なくとも私の心臓は、限界に挑戦するかのように激しく脈打っている。これ以上魅かれてはいけないと思っても、心が言うことを聞いてくれなかった。ずっとここにいたい……
頭の中で警鐘が鳴る。
冷たい瞳で私を見つめるルイ。悲しい孤独をまとう人。私をつなぐ鎖を手放せないまま、今も過去から抜け出せずにいる。
彼が苦しんでいる限り、私も幸せになることは許されない。
「ユウ?」
セイに名前を呼ばれて、はっと我に返った。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
どこか納得がいかなそうなセイに笑って答える。
みんなと安全に過ごしたいなら、隠し通さなければ……今までもずっと、そうしてきたように。
その後も他愛のない会話は続き、夢のような時間を過ごせた。終始楽しそうだったリネは、リゾットの皿を下げるとぐっと身を寄せてくる。
「ねえユウ、明日からもいっしょにランチしようよ。毎日会いたい」
言葉は甘いのに、強い輝きを宿した大きな瞳が私を捕らえる。凡人の私には抗いようのない強烈なおねだりだ。
「いいの? そんなこと言ったら、本当に明日も来るよ」
「そうしてって頼んでるの。嫌?」
絶対的な自信を湛えていた瞳が、一瞬不安そうに揺らぐ。反射的に首を振りながら白旗をあげた。天然にしろ計算にしろ……強すぎる。
「俺たちに遠慮すんな」
「そうそう。ユウならいつでもどこでも大歓迎」
ヒロとセイまでそう言ってくれて、一生分の運を使い果たしている気分。こんなにも魅力的な人たちだから、私が引き寄せられるのは当然だとして。みんなも私を受け入れてくれるのは奇跡としか思えない。
嬉しくて幸せで、だけど自分が抱えている事情のせいで手放しには喜べなくて。切なさから胸がぎゅうっとなる。
それでも……どんな苦痛を抱えることになろうと、みんなに会えるなら苦しむ価値があると思ってしまう。1分1秒を共に過ごすたび、夢中になっていった。
「約束だからね、ユウ!」
「うん」
ルイ、ごめんなさい。ここにいる間だけは、どうか許して。
「……」
はしゃぐリネと、それを微笑ましく見守るヒロ。その前でセイは私を見つめてくる。まるで心の内を見透かすように。
『本当は今、なにを思ってる?』
そんな声が聞こえてきそう。私は黙って微笑むしかない。
「大丈夫だよ」
けれどセイは、私にしか聞こえない小さな声でささやいた。ガラス越しに降りそそぐ陽の光の中で、秘密の約束をするみたいに。
ずっと揺らぐことのなかった……揺らぐはずのなかった鎖がわずかに音を立てる。
「俺が守ってあげる」
ああ、神様……
これが運命じゃないなら、なんて残酷な出会いなんだろう――




