同席
カフェ内でもひときわ柔らかな陽の光が注ぐ席には、両ひじを着いて組んだ手の甲にあごを乗せたリネと、隣で微笑むセイが座っている。まるで絵画のような光景で、改めて彼らの美しさに感心してしまった。
自分の状況も忘れて見とれていると、顔を上げたリネがこちらに気づく。そして大きく目をみはった。つられてこちらを見たセイも驚きの表情になり、満面の笑みを見せてくれたけれど……次の瞬間リネが何か言って、表情をくもらせてしまう。どうしたんだろう?
「ちょっと、ヒロ!」
ふたりの目の前まで歩いていくと、ヒロはようやく私の肩から手を外してくれる。
そういえば私、ヒロに触れられた状態なんだった! やっぱりリネの前では失礼だったんじゃ……これが表情をくもらせた理由ではと思い、血の気が引いていく。
「まさか、さらってきたんじゃないでしょうね!」
「えっ?」
けれど話は思わぬ方向へ。ヒロより先に私が聞きかえしてしまう。
さらうって……誰が? 誰を!?
心の中でツッコミを入れる私をよそに、セイまで困惑してヒロを見つめる。
「俺をなんだと思ってるんだ、お前ら」
ヒロはうんざりしたようにつぶやき、当たり前のようにリネの隣へ腰を下ろした。
「入り口で立ち止まってたから、案内しただけだ」
「え……本当なの、ユウ?」
リネは私を見て確認してくる。私を気遣うような、優しい声で。
「うん、本当。ごめんね、突然来たりして」
気まずくてうつむく私。この3人の“聖域”に足を踏み入れようなんて、あまりに図々しかったかもしれない。でも――
「来てくれたんだね、嬉しいよ」
隣から聞こえた声に、思わず顔を上げた。わざわざ席を立って隣に来てくれたセイが、私を見ている。なんてきれいな笑顔なんだろう……何度見ても慣れそうにない。
「座って。俺の隣でもいいかな」
みんなが囲む丸テーブルにはひとつだけ空席があった。リネとヒロが距離を詰めて座っているから、促された席はセイの隣みたい。こんな近い距離に座るなんて……心臓がもたないかも。
「ありがとう」
「どういたしまして」
イスを引いて座らせてくれたセイにお礼を言えば、嬉しそうにはにかまれる。ちょっと……呼吸が苦しい。こんなに動揺させられる男の人は、セイが初めてだ。
目を合わせられなくなっていると、リネがキラキラした瞳で乗りだしてきた。
「本当にユウの方から来てくれたんだね。嬉しい!」
「迷惑じゃなかった?」
「迷惑? どうして?」
馴れ馴れしくなかったかとか、ヒロと歩いて嫌な思いをさせなかったかとか、いろいろ思っていたものの……きょとんとした顔を見る限り、リネにとっては些事だったみたいだ。変に気を揉んでいたことこそ失礼だった気がして、自分が恥ずかしくなる。
「ユウ、ご飯はある? 買ってきた?」
「うん、あるよ」
セイから聞かれて、慌ててバッグから昼食――自前のボトルに入れた紅茶と、朝買っておいたサンドイッチをテーブルに出す。改めて見るとリネの前にはカフェで注文したであろうリゾットが、セイの前にはパスタがあった。ヒロは購買帰りだったようで、袋からパンを出している。
いっしょにランチタイムを過ごすだけなのに、嬉しくてたまらない。思わず微笑めば、みんなも笑みを返してくれた。特にセイはじっと私を見つめてきて……自分がリネのような美女でないことが申し訳なくなる。どぎまぎして首をかしげれば、はっとしたように「ごめんね」と謝られた。
その苦笑いを見て、昨日のことを思い出す。そういえばセイには、孝明を彼氏だって紹介しちゃったんだっけ……
「あの、セイ」
「うん?」
ああ、もう。しっかり目を合わせるのがこんなにも難しいなんて! ぼうっとしないよう、必死に意識を集中させる。
「ユウ?」
「だ、大丈夫! 昨日はごめんね」
「昨日?」
「帰りの……」
「……あぁ、彼氏のことか」
優しい表情は変わらないながら、セイの声音がワントーン下がった気がした。セイに何かあったと察したせいか、リネとヒロが放つ空気も少し張りつめる。
「かなり失礼だったでしょう?」
「大丈夫だよ、気にしてないで」
セイが優しい人で良かった。とりあえず怒っていないことに安心し、先を続ける。
「実は昨日別れたの」
「……え?」
出会って日の浅い相手に、こんな話をされたところで困らせるだけかもしれない。それでもセイには、事実を知ってほしくて――勇気を出して話し始める。セイはもちろん、リネとヒロも真剣に耳をかたむけてくれた。




