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Lovers High  作者: ショコラ*
第一章 足枷
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想定外の対面


 ――そして、迎えたランチタイム。今まで各講義室に振り分けられていた多くの生徒たちが、食事をする場所を求めて行き交っている。

 途切れることのない喧騒の中、私は不安と緊張で顔をこわばらせながら3号館へ向かった。頭の中では「もしいなかったら」とか「嫌な顔をされたら」とか、マイナスな展開ばかりが浮かび、指先が震えている。


 そんな調子でもたもた歩いていたから、カフェ入口で人と衝突してしまった。持っていたトートバッグが手から離れ、中身が飛びだしてしまう。


「あ……」


 この前食堂でつまずいた件といい、どうしてこうもどんくさいんだろう。通りすぎる人たちに謝りながらテキストやノートを拾いあげ、バッグへ戻していく。


 ――慣れない場所でひとりで行動することが、こんなにも心細いなんて。すでに心が折れそうだけれど、このまま逃げだしたところでもとの生活に戻れる気もしない。そんなの想像するだけで苦しいし……


 ひとりうなだれ、うちひしがれているときだった。


「なにやってんだよ」


 とても不思議だけれど、無数のざわめきの中でもその声だけは聞き分けられた。私が求めてやまなかった相手のひとりだとわかり、はっと顔を上げる。


「……ヒロ……」


 思わずつぶやいてから後悔する。いくらリネに許可されたとはいえ、ろくに話したこともない相手を呼び捨てにするなんて。

 謝ろうか迷っている間にも、ヒロは歩みよってきた。周囲の人たち同様、その圧倒的な雰囲気に目を奪われる。


「どうした?」


 その場で固まっていた私の前で止まった彼は、再び口を開く。一見冷たくも見える表情がふっと和らいだ気がした。心なしか声も優しい。


「あ……あの」

「ユウ?」


 は、初めて名前を呼ばれた!

 こんな状況にもかかわらず、つい感動しちゃったりして。いやでも、昨夜ヒロからはメッセージが返ってこなかったし、私の名前なんて覚えていないと思っていたのだ。


「あの……今日もここでご飯食べる?」

「ああ」

「リネとか……セイも?」

「いる」

「……そっか」


 ど、どうしよう。勢いだけでここまで来ちゃったけど……いざこうして対面すると、「いっしょに食べていい?」のひと言がなかなか言い出せない。


「……?」


 やばい、絶対にあやしまれてる! いや、そりゃそうだよ……急に現れて、だんまりだなんて。

 あせりで冷や汗が出てきたものの、喉に引っかかったみたいに言葉が出てこない。


「今日はこっちで食べられるのか?」

「えっ」


 予想もしていなかった言葉に、私は目を丸くした。今、ヒロはなんて言った……?

 「こっちで食べたいのか」って確認するんじゃなく、「こっちで食べられるのか」って……聞き間違いじゃなければ、ヒロもそれを望んでくれてるみたいな言い方だった。


「いっしょに……いいの?」

「当たり前だろ。突っ立ってないで行くぞ」


 何が当たり前なの!? と聞き返す間もなく、ヒロは私の肩を抱くようにして歩き出した。その行動に度肝を抜かれ、捕獲されたウサギ状態になってしまう。


「西崎さん以外の人が隣にいるんだけど!」

「あの女誰?」


 動揺したのは周囲の人たちも同じだったようだ。あちこちから、私を責めるような囁きが聞こえてくる。


「気にするな、周りは関係ない」

「え……う、うん」


 それでも、ヒロがそう言ってくれたから。うつむかせていた顔を、ほんの少しだけ――他人から見たらわからない程度かもしれないけれど、上げてみる。

 普段威圧的な空気を放っている人の隣にいるのに、どうしてか心が凪いだ。うまく言えないけれど、ヒロには嵐みたいな――兄のような安心感があるのだ。


 ところでさっきから「西崎さんがいるのに!」とブーイングが聞こえるあたり、やっぱりヒロはリネの恋人なのかな? それなら、この状態はあまり良くないのでは……リネに嫌な思いをさせたくない。


「あの……すごい注目浴びてるみたいだけど……」

「慣れてる」

「でもリネが」

「問題ない」


 そ、そうなの?

 さらりと返され再び言葉に詰まってしまう。私の肩を抱いている手は離れていく気配がなく、私は困惑したままヒロに連行されていった。

 そして見えてきたカフェの奥――ガラス張りの壁に囲まれたその空間に、彼らは座っていた。


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